ふたりの母 実母と義母の誘い

ふたりの母
実母と義母の誘い

小説:芳川葵

挿絵:岬ゆきひろ

リアルドリーム文庫

ふたりの母 実母と義母の誘い

登場人物

みねむら そうすけ

高校一年生。思春期で義母の映美里に女として魅力を感じている。再会した実母の小夜子にも心をときめかせる。

みねむら

宗介の実母。茶道家で茶道教室を開いている。着物が似合う凛とした純和風の美熟女。十二年前に宗介の父親と離婚し、宗介と離れて暮らしていた。

みねむら

宗介の義母。八年前に宗介の父親と結婚。義理ながら息子の宗介に深い愛情を抱いている。優しくしっかり者だが、宗介に対しては甘い部分も。

第一章 【甘美】憧れの義母・懐かしの実母

─ 1 ─

(こんなもんかな。洗濯すればいいんだし、必要な物は取りに帰ればすむもんな)

七月六日の夜。自宅マンションの自室で、翌日行われる期末試験最終日の勉強を終わらせた高校一年のみねむらそうすけは、大きめのボストンバッグにせっせと荷物を詰めていた。荷物は着替えや学校の夏休みの宿題などだ。

(十二年ぶりのお母さんとの生活か。なんか緊張するなあ)

期末試験が終わってからしばらくの間、十二年前に父のたいすけと離婚をした、母親のの家に身を寄せることになっていた。とはいえ、宗介が父子家庭に育ったわけではない。銀行員の父は小夜子と離婚した四年後に職場の部下、と再婚しており、以降八年間、親子三人での生活を送ってきたのである。

(でもまさか、お母さんがあんなに若くて、綺麗な人だったなんて……)

十日ほど前。六月下旬の日曜日。宗介は父母に連れられて都内の高級ホテルにいた。そこの高級中華料理店で、小夜子と十二年ぶりの再会を果たしたのだ。

「久しぶりね、宗ちゃん。あぁ、こんなに大きくなったのね」

(会った瞬間、以前にどこかで会ったような気がしたし、確かな絆みたいなのは、感じたんだけど、まさかそれが実の母子の絆だったなんて。それに「宗ちゃん」って言われたとき、胸の奥がほんのり熱くなって、懐かしい気持ちになったんだよな)

珊瑚色の色無地にシックな亀甲紋の帯という着物姿で、三人の到着を待っていた小夜子。身長は宗介より十センチほど低い百六十センチほどで、純和風な顔立ちをしていた。その柔和な顔いっぱいに慈しみの表情を浮かべた実母の姿が、脳裏に甦る。

(着物姿だったのにはビックリしたけど、お茶の先生だって聞いて、納得だったな。柔和な雰囲気の中に、凛とした強さというか、厳しさみたいなものがある感じで)

宗介を見つめる目元は、優しさと愛情に溢れながらも、確かな知性を感じさせ、ほどよく通った鼻筋と、ふっくらとした朱唇で構成された顔は、非常に整っていた。

(それに、着物を着ていたからはっきりと分からないけど、結構グラマーなのかも)

ボディラインの凹凸が目立たない着物であっても、小夜子の乳房や双臀がボリューミーであることを、思春期の宗介は敏感に感じ取っていたのだ。

(お母さんは義母かあさんより五つ上って言ってたから、今年で三十六歳か。それよりずっと若く見えたなぁ。それに、凄く綺麗だったし)

しっとりとした落ち着きと色気、そしてなにより、楚々とした佇まいに、宗介は胸の奥がキュンッとなってしまったのである。

(父さんとの離婚理由も初めて知ったけど、僕のお母さんがその世界では名の知られた存在だなんて、それも驚きだよ)

十二年前、小夜子が泰介と離婚をした理由。それは母が茶道の宗家である実家の仕事を、本格的に引き継ぐことになったのが原因だった。挨拶で全国各地を飛びまわり、父とはすれ違いの生活に。その間、宗介は両親双方の祖父母の家に預けられることも多かったようだ。記憶の奥底に、立派な日本家屋の中を走りまわっているものがあるのだが、どうやらそれが、当時の記憶であることも判明した。

「本当は、宗ちゃんを引き取りたい気持ちは強かったの。でも、当時の私の状況では、仕事と育児の両立は難しかったのよ。そんな私が引き取るより、お父さんと一緒のほうが幸せになれるんじゃないかと思って。だから、泣く泣く、あなたを泰介さんに」

「そういうことだ。で、最近は色々と融通も利くようになったことから、もう一度、宗介と暮らしたい、と父さんに連絡してきたんだ」

小夜子はいまや、美人茶道家として名前が知られており、時代劇の作法指南なども手がけ、テレビや雑誌のインタビューを受けることも少なくないらしい。もしかしたら、幼少期の記憶だけではなく、そういうもので見かけていた記憶も、どこかで会った気がした理由だったのかもしれない。

「それで、僕にどうしろと?」

食事を摂りながら小夜子と泰介から説明を受けた宗介は、両親の顔を交互に見返した。元夫婦が話をしている間、宗介の隣に座っていた義母の映美里は、一切口を挟んではこなかった。あとから聞くと、義母が知らなかったことも多かったようだ。

「うん。これはお前の問題でもあるし、決断は宗介に委ねることにしたんだ。お前ももう高校生だしな。だからどうだろう、夏休みの間だけでも、小夜子、お母さんの家で生活をしてみる、というのは。それで、お母さんとの生活を選ぶも、いままで通り、父さんたちとの生活を選ぶも、自由に決めればいい」