誘惑の里 僕と美乳天女たち

誘惑の里
僕と美乳天女たち

小説:北條拓人

挿絵:木静謙二

リアルドリーム文庫
誘惑の里 僕と美乳天女たち

登場人物

れんじょう

若くして村長を務める美女で周囲から「姫さま」と呼ばれている。理知的で凛とした女性で、村をまとめるしっかりもの。村の女医も務めており、怪我をした俊輔を治療する。

かみ

村の神社の巫女。上品でおっとりとした性格ながら、時に大胆な行動を取ったりすることも。遭難していた俊輔の第一発見者。

だち なつ

蓮杖家のメイド兼ナース。明るくあっけらかんとした奔放な女性。世話焼きで骨折して動けない俊輔を献身的に看病する。

しゅんすけ

大学生。冬休みを利用して旅行中、事故を起こして怪我をしてしまう。

序章 迷い込んだ天女の里

しゅんすけは、半ば朦朧としながらも、ひたすらがたがた震えている自分を見つけた。

(なぜ僕は、震えている……寒いからだ……寒い……寒くて……眠い……)

暖房の効いた部屋で、布団に包まれているにもかかわらず、おこりにでもかかったような激しい震えは一向に収まる気配を見せない。

(眠っちゃだめだ……死んでしまう……ああ、でも寒くて眠い……)

大学生の俊輔は、親父の古い4WDを借りて貧乏旅行中だった。来春から厳しい就職活動に追われるであろうことを見越し、羽を伸ばせる最後の冬休みを満喫するつもりでいたのだ。

友人を頼りに北に向かったまではよかったが、どこでどう間違えたのか、見たこともない山道に迷い込み、しかも酷い吹雪にまで見舞われた。

夜の雪道で、スピードを出すほどの勇気は持ちあわせていない。もたもたと走らせてはいたのだが、突然ヘッドライトの前を横切る白い影と出くわした。大きさから狐か何かだったのだろう。

普段運転し慣れていないことが災いした。咄嗟に、ハンドルを切ると同時に、ブレーキを強く踏みつけてしまった。

くんっと車体が浮くような感覚と共に、後ろのタイヤが深いわだちから外れた。4WD車といえども、スリップしてしまえば制動など効かない。

体がうわんうわん回転しながら前方に滑っていく。自分が踏ん張っても意味などないのだが、俊輔は必死で背中をシートに押し付けた。

なす術もなく車体は、右手の崖に向かっている。田舎の山道では、ガードレールも見当たらない。スローモーションで風景が変わる中、手応えのないハンドルを操りながら、これまでにないほど真剣に神に祈った。

一瞬、ふわりと宙を舞った後、やたらに振り回すだけのアトラクションのようなたちの悪い円運動に、縮んだ胃の腑を揺さぶられた。

気がつくと、まるで何事もなかったかのように、車体は見事な着地を決めていた。幸いにも4WDの頑丈さが、俊輔の命を守ってくれた。けれど、激しく揺すぶられる間に、どこかにぶつけたのか右足を骨折したらしい。痺れている右腕を恐る恐る伸ばし、エンジンキーを回してみても反応がない。

いよいよ降り積もる雪に、車内温度がどんどん下がっていく。動きのとれぬまま、ついには意識も失ったようだ。

深海の底からぽっかり浮かび上がるように、ようやく意識を取り戻すと、見知らぬ薄暗い部屋に横たえられていた。ここがどこなのかなど、考える余裕もない。

ただひたすら寒く、体を包む布団さえもが、氷のように感じられる。

(寒い……眠い……)

枕元に人の気配がした。白い羽衣を纏った女性らしき人影が、何かを問いかけている。けれど、震えのせいか言葉が輪郭をなさない。目線すらも定まらなかった。

「……もう…だ……ぶ…ですよ……」

異国の言葉とも受け取れる、やさしいイントネーションが、またしても投げかけられると、その人は羽織っていた衣をするりと床に滑り落とした。

白い裸体が、目の端にぼんやりと浮かぶ。枕元に、天女が舞い降りたのかと思われるほどの神々しい裸身だった。

(ああ、そうか、天女さまのお迎えだ……。やはり僕は、死んじゃうんだ……)

天女がかがみ込むと、ボリュームたっぷりの乳房も前かがみに垂れ下がり、美しい釣り鐘型に形を変えた。定まらないはずの目線が、その胸元にひとつだけほくろを見つけた。それがやけに艶めかしく印象的だった。

ふいに、布団の端が持ち上がり、しなやかな女体が滑り込んでくる。

「……すぐに……あたためて……あげ……」

やさしい手指に頬を覆われる。心地よい手の温もりは、まるで、やわらかな声そのものに包まれるかのようだ。

顔の傍を通過していくやわらかそうな胸元に、もう一度ほくろを確認した。

(天女さまじゃなくて、雪女だろうか……)

雪白の艶肌が、それを連想させた。けれど、すぐにそれも違うと実感する。とてつもなくやわらかく、そして暖かい肉体が、むにゅんと押し付けられたのだ。こんなに暖かい雪女などいるはずがない。ようやく俊輔は、自分が裸であることに気がついた。

頬を擦っていた細くしなやかな指が、俊輔の肩を包み込むように抱いてくれる。ちらりと覗かせる脇の窪みから甘い体臭が漂った。

がちがちと歯の根を噛み鳴らしながらも、自分を温めてくれる女性の顔を確認しようと試みた。けれど、恥じらうように顔を伏せ、しかも暗がりであるため、その顔ははっきりと判らない。それでも、なぜか彼女の美しさは認識できた。