「射精するってことは?」
「……知ってる」
「知ってたのに、ずっと見てたの?」
澪の顔は、もう耳たぶまで紅潮していた。
年頃の少女だけに、性に対しては少なからず興味があるのだろう。
(澪ちゃんって、俺が思っている以上にエッチなのかも)
もちろん幻滅するようなことは微塵もなく、かえって人間味を感じた卓郎は、ますます澪に好感を抱いた。
「僕のばかり見てずるいよ。これって、絶対に不公平じゃない?」
「え?」
「澪ちゃんのも……見せて」
だめで元々とばかりに迫ると、澪はやはり首を横に振った。
「い、いやよっ、そんなこと」
「じゃ、胸をちょっと触るだけ。それならいいでしょ?」
好きだという気持ちを伝えるつもりが、思いがけない展開になったものだ。
澪は唇を引き結んでいたが、明らかに迷っているように見える。
生真面目な女の子だけに、「不公平」という言葉が気になっているのかもしれない。
「お願いっ。ねっ?」
今度は下手に出ると、しばし間を置いたあと、恥じらいの面持ちで小さく頷いた。
(マ、マジか!)
半ば冗談のつもりだったが、まさか了承するとは思わなかった。
多少の罪悪感はあったものの、このチャンスを見過ごしたくないという思いもある。
胸元に目をやると、白雪のような肌と、いかにもまろやかそうなバストの膨らみが燦然と輝いていた。
「ちょっと……だけだよ」
「……うん」
二人のあいだに緊張感が漂い、空気がピンと張りつめた。
生唾を飲みこみ、右手を恐るおそる伸ばしていく。
「さ、触るよ」
お椀形の膨らみを優しく包みこんだ瞬間、ふんわりとした弾力が手のひらに伝わってきた。
澪はよほど恥ずかしいのか、顔を背け、下唇をキュッと噛みしめている。
(あ、あ……お、俺、今、澪ちゃんのおっぱいを触っているんだ)
レオタードの布地はかなり薄い。
胸の形はもちろんのこと、柔らかさもはっきりとわかる。
マシュマロのような感触に陶然とした卓郎は、徐々に目尻を吊りあげていった。
性欲が瞬時にして沸点へと到達し、抑えきれない情動が込みあげてくる。
無意識のうちに指先を軽く折り曲げると、澪は「……あっ」という声をあげ、閉じていた目を開いた。
「み、澪ちゃん、お、俺……俺……」
「卓郎君、だめっ……やめて」
後ずさる少女にさらに迫りつつ、なおも胸をやんわりと揉みしだく。
「あ、ンぅ」
艶っぽい声が耳朶を打ったとたん、卓郎の理性は忘却の彼方へと吹き飛んだ。
「澪ちゃん、好きだっ!」
「きゃっ」
思いきり抱きしめ、さくらんぼのような唇に自身の唇を近づけていく。
「キ、キ、キスぅぅぅっ」
ファーストキス達成まで、あともう一歩。鼻の穴を広げた瞬間、澪の平手が飛んできた。
「あいたっ!」
パチンという音とともに、頬にピリリとした痛みが走る。
我に返った卓郎は、打たれた頬を押さえながら、やるせなさそうに少女を見つめた。
「約束したでしょ、ちょっと触るだけだって」
「ご、ごめん」
「もう、ホントにエッチなんだから」
ビンタを受けたときはショックだったが、幸いにも澪はそれほど怒っていないようだ。
(澪ちゃん、やっぱり優しいな)
少女はやや恥じらいながら、ジャージの合わせ目をピタリと閉じる。
「ポンプは部室にはないみたい。体育館に戻ろう」
「……うん」
予定は少々狂ってしまったが、好きだという気持ちは何とか告げられた。
焦ることはない。
新体操部に在籍していれば、部活のたびに顔を合わせられるのだ。
卓郎は、彼女との距離が縮まった手応えを肌で感じ取っていた。
3
部室でのバストタッチから五日、今日は新体操の部活がない日だった。
緑泉高校に進学してからおよそ二週間、気の合う友だちも何人かでき、学園生活にも慣れはじめている。
六時間目の体育の授業を終えた卓郎は、男子更衣室で着替えを済ませたあと、友人に荷物を預け、第一記念館のトイレに向かった。
この記念館の二階と三階には体育会系の部室が入っており、一階の一番端のトイレはいつも空いていて、落ち着いて用が足せるのだ。
(ちょっと昼飯を食いすぎたかな……)
洋式トイレの便座に座り、ホッと溜め息をついた卓郎は、自然と口元をにやつかせた。
澪とは、変わりなく普通の会話を交わしている。
以前より笑顔が増えたように感じるのも、都合のいい思いこみだろうか。
(やっぱり、好きだと伝えたのがよかったのかも。なるべく早く交際を申しこむべきだよな。あれだけのかわいい子だし、ぐずぐずしていると、他の男に取られちゃうぞ)
美少女とのデート、楽しい語らい、キスからペッティング、そしてエッチへ。
あれこれと想像しているだけで、心がウキウキと弾んでくる。
緑泉に入学して本当によかったと実感した直後、どこからか男の怒鳴り声が聞こえてきた。
「お前とは終わったはずだろ。しつこいんだよ!」
「もう一度……考えなおしてくれない?」
どうやら一度別れたカップルが話し合いをしているようで、未練たっぷりの女子生徒が男子生徒との関係修復を懇願しているらしい。
(トイレの窓から聞こえてるのか。記念館の裏手あたりかな? 人が来ない場所を選んだんだろうけど、何も学校の中で話さなくてもいいのに)
女生徒のほうは涙ぐんでいるのか、声が震えている。
「どうして? 私のこと、あんなに好きだって言ってたのに」