「ああっ」
小刻みな振動が股間に心地いい感触を与え、男根は条件反射とばかりに鎌首をもたげていった。
「ふふっ、勃ってきた」
「あららら、相変わらず元気なのね。さあ、早く行きなさい。私たちは、邪魔はしないから」
こうなれば、嫌でもやるしかない。
杏奈と友梨香に背中を押され、卓郎は決死の覚悟で澪のいる浴室に向かった。
2
浴室のドアを静かに開け、磨りガラスの向こうに視線を送る。
「お姉ちゃん、遅いよ。何やってたの?」
澪の声が聞こえてくると、卓郎はホッと安堵の胸を撫で下ろした。
(よかった、何事もなくて。かなり酔いが醒めたんだな。でも……シラフなら、逆に厄介かもしれないぞ)
まずは、引き戸のこちらから声をかけるべきか。
それとも突然飛びこみ、彼女がびっくりしているあいだに、なし崩し的に謝罪を済ませてしまおうか。
卓郎はさんざん迷ったあげく、やはり正攻法でいくことを選んだ。
「お姉ちゃん?」
なかなか入室してこないので、澪は不審感を抱いているようだ。
卓郎は大きな深呼吸をしたあと、緊張に身を強ばらせながら声をかけた。
「み、澪ちゃん……お、俺、卓郎」
よほど驚いているのか、澪は何も答えず、浴室内はしーんと静まり返っている。
「あ、開けてもいいかな?」
「だ、だ、だめよっ! 何で、卓郎君がここにいるの!?」
「杏奈先生に呼ばれたんだ。仲直りしなさいって」
再び沈黙が流れるあいだ、卓郎は次第に鳥肌を立たせていった。
五月を迎えたとはいえ、高原地の温度はまだまだ低い。
いやが上にも、全身がガタガタと震えだす。
「み、澪ちゃん、さ、寒いよ。お願い、中に入れて」
「入って来たら、嫌いになるから!」
「え? それじゃ、今の今までは好きだったの?」
「嫌い! 大嫌い!!」
どんなに非難を浴びようと、澪と会話を交わしているだけで、気持ちがほっこりとしてくる。
「マジで入れて。裸なんだからさ」
「な、何で裸なの!?」
「あの、その……杏奈先生と友梨香先輩に脱がされちゃったんだ。裸の付き合いをしてこいって」
「信じられない! もう、最低!!」
「入るよ」
「きゃっ」
引き戸を開け、股間を両手で隠しながら足を踏み入れると、澪は小さな悲鳴をあげ、くるりと背中を向けた。
髪をアップにしているため、白いうなじを露わにさせている。
ほっそりとした首筋に絡みつく後れ毛が、なんとも色っぽい。
「寒い、寒いよ。このままじゃ、風邪を引いちゃうかも」
木桶で湯を掬い、肩からかけ流した卓郎は、ホッとひと息つくと、湯船に片足からゆっくりと浸かっていった。
「ああっ、あったかい。生き返ったような気分かも」
初対面の日以来、愛しの彼女と二度目の混浴をしている。
澪とはもう終わりだと思っていただけに、卓郎は至福の喜びを感じていた。
(浮かれている場合じゃないぞ。まだ許してくれたわけじゃないんだから。ここからが勝負なんだ!)
澪はまだ後ろを向いたまま、鼻をスンと鳴らしている。
裏切り行為を思いだし、悲しみに暮れているのだろうか。
卓郎は小さな咳払いをしたあと、澪の背中越しから謝罪の言葉を述べた。
「澪ちゃん、本当にごめん。俺……この一週間、ものすごくつらかったんだ。何度もこれはだめだって思ったんだけど、どうしても君のことが忘れられなくて。澪ちゃんが許してくれるんなら、何だってするよ」
麗しの彼女は何も答えず、黙りこんだままだ。
返答を待つ時間が、一時間にも二時間にも感じる。
やがて澪は、消え入りそうな声でぽつりと告げた。
「私だって……つらかったんだから」
「そ、そうだよね。俺なんかより、澪ちゃんのほうがショックが大きいのは当たり前だよね。なんて言っても、実のお姉さんと……」
「違うの」
「へ?」
「私が怒っているのは、卓郎君がそのことをずっと内緒にしていたからなの」
「あ、う、うん。そうだね」
卓郎は答えながらも、怪訝な表情を浮かべた。
実姉と浮気をした事実より、秘密にしていたことを許せないとは、若い女の子の心理とは不可思議なものだ。
(友梨香先輩は、異常なほど姉妹の仲がいいって言ってたけど、これもそういうことなのか?)
首を捻った直後、澪はさらに言葉を重ねた。
「……卓郎君」
「え?」
「正直に答えてくれる?」
「う、うん。嘘は絶対につかないよ」
「杏奈お姉ちゃんとも……したの?」
「はい?」
予想外の質問をぶつけられた卓郎は、頬の筋肉を引き攣らせた。
「嘘はつかないって言ったよね?」
澪はようやく振り返り、キッとした眼差しを向けてくる。
怒った顔も、狂おしいほど愛らしい。
プリッとした赤い唇を見ているだけで、思わず吸い寄せられそうになった。
(変なことを考えているときじゃないぞ!)
気を引き締めた卓郎は、真顔で問いかけた。
「どうして、そう思ったの?」
「だって、杏奈お姉ちゃんも友梨香お姉ちゃんも……エッチだから」
そう答えながら、少女は頬をポッと染める。
(そ、そうだ。ここで、あの二人から手コキをされたんだっけ!)
澪にとっては、強烈な印象として頭の中に残っているに違いない。
卓郎は作り笑いを浮かべ、上目遣いに媚びへつらった。
「正直に答えたら……許してくれる?」
「それは、私が決めるから」
澪は、さらに突き刺すような視線を注いでくる。