「あ、あはは。ちょっと湯にあたっちゃったみたい。僕、そろそろ出ようかな」
作り笑いで答えるも、杏奈が不服そうな声をあげる。
「あら、せっかく美女たちと混浴を楽しめるのに、もう出ちゃうなんて。せっかくの好意を無にする気?」
「い、いえ。決してそういうわけじゃ……!?」
湯殿に目を向けたとたん、卓郎は心臓が止まるような驚きを覚えた。
いつの間にか、友梨香が音もなく湯船からあがり、ゆっくりと近づいていたのだ。
とっさに股間を手で隠そうとしたものの、力が入りすぎたのか、タオルの結び目がほどけ、布地が床にはらりと落ちる。
「あ、あ、あ、あぁぁっ!?」
哀れにも、剛直はバネ仕掛けのおもちゃのように弾けでていた。
4
滾る男の象徴が、下腹をバチンと叩く。
両手で覆い隠しても、亀頭の先端部は手のひらからニョッキリとはみ出していた。
「卓郎君、お風呂に入って」
「あ、あの……ちょっ!」
「澪、あなたもよ」
「え? あ、う、うん」
友梨香に手首を掴まれ、強引に湯殿へと連れていかれる。
澪に縋りつくような視線を送るも、彼女は訳がわからないのか、きょとんとした顔をしていた。
幸いにも勃起は悟られなかったようだが、背後から臀部を見られている状態に顔が熱くなってしまう。
グラマラスな長女はもう察しているのだろう、瞳をしっとりと潤ませ、口元に妖艶な笑みを浮かべていた。
「あわわわわっ」
派手な水しぶきとともに湯の中に連れこまれると、卓郎はすぐさま腰を落とし、体育座りで股間の逸物を両足で隠した。
澪が不安そうな顔つきで真正面に入浴するなか、杏奈と友梨香が両脇から身体をすり寄せてくる。
「男って、みんなそう。いやらしいことばかり考えて! 頭の中には、スケベなことしか詰まってないの!?」
「あ、あの……いや、それは」
次女の非難の言葉に、卓郎はただうろたえるばかりだった。
「だから、言ったでしょ? 男はそういう生き物だって。私だって去年の暮れ、元彼に浮気されて別れたんだから。しかも、クリスマスの直前よ。ありえないわっ!」
杏奈も恋人と別れてから、それほど日が経っていないようだ。
不誠実な元彼を思いだしたのか、目尻をキッと吊りあげる。
澪は、姉たちの不躾な振る舞いに、もう泣きそうな顔をしていた。
瞼の縁には、うっすらと涙さえ滲ませている。
姉二人にはどう思われようと、彼女にだけは誠実な男でありたい。
卓郎は勇気を振り絞り、小さな声で反論した。
「ぼ、僕は……違います」
「え?」
「僕は浮気なんかしませんし、一人の女の子だけが好きなんです」
自分が浮気者かどうか、交際経験のない卓郎にはわからなかったが、少なからず澪には好印象を与えたのではないか。
浴室内は一瞬しーんと静まり返ったものの、この発言は逆に杏奈と友梨香の自尊心を傷つけたようだ。
「ふーん。ということは、卓郎君は澪のことが好きなんだ?」
「え?」
「だってそうでしょ? 澪のことが好きだから、身体が反応してるってことでしょ。違うの?」
「あの……あの」
こんな状況で、愛の告白などできるはずがない。
しかも澪とは、知り合ってからまだ数時間しか経っていないのである。
「どうなの?」
「あうっ!」
友梨香が問いつめながら、手を股間に伸ばしてくる。
柔らかい指先が肉棒をキュッと握りこむと、ペニスは自分の意思とは無関係に激しい脈動を打った。
(あ、あ、あぁぁぁっ! お、おチンチンが!?)
生まれて初めて異性に性器を触られた感触は、心臓が破裂しそうな快楽を卓郎に与えた。
ふっくらとしたなめらかさは、オナニーをするときの自分の指とはまったく違う。
下手をしたら、このまま射精してしまいそうだ。
思わず会陰を引き締めたとたん、今度は腕にぽよんとした弾力感が走り抜けた。
「その言葉、聞き捨てならないわね」
熱い源泉が血行を促進させたのか、杏奈も酔いが回りはじめたのかもしれない。
挑戦的な笑みを投げかけ、豊満なバストをぐいぐいと押しつけてきた。
(嘘だっ! 嘘だぁぁぁぁぁっ!!)
本来なら、喜悦に打ち震えるほどのおいしい体験だろう。
もっとエッチなことをしてほしいという本音や、女の身体を知りたいという欲望もある。
だが卓郎の目の前には、穢れなき乙女の存在があった。
彼女を失望させることはもちろん、悲しませるようなマネは絶対にできない。
(は、はっきりと拒否しないと……あうっ!?)
友梨香の指が軽いスライドを始めると、背筋に青白い性電流が走り抜けた。
包皮が肉幹を往復するたびに、ちっぽけな理性など吹き飛びそうな快美が全身を覆い尽くしていく。
「あらら。小さくなるどころか、もうビンビンじゃない。友梨香の指、そんなに気持ちがいいんだ。それじゃ、こんなのはどう?」
「はうううううっ」
杏奈の手のひらが睾丸を優しく撫であげた直後、強力な電流を流されたかのように身体が引き攣った。
(あ、ああっ……す、すごい。キ、キンタマが、こんなに気持ちいいなんて)
下腹部全体が浮遊感に包まれ、このまま一気に天国まで駆けのぼってしまうかのようだった。
胸が締めつけられるように苦しく、拒絶の言葉がまるで出てこない。
卓郎は口をだらしなく開け、恍惚の表情で天井を仰ぎ見ることしかできなかった。
「お姉ちゃんたち、もうやめて。卓郎君が、かわいそうだわ」