なまめく美人三姉妹 レオタードの誘惑

なぜ男子の自分にそんな話をと思いつつも、入部しないかと誘われたとき、卓郎はぽかんと口を開け放つばかりだった。

杏奈の話によると、最近は新体操をする男子が徐々に増えてきているらしい。

緑泉高校にも、いずれ男子新体操部を作りたいので、ぜひ協力してほしいと言うのである。

卓郎は、どうしても首を縦に振ることができなかった。

特に入部したいというクラブはなかったものの、さすがに女子ばかりの新体操部は抵抗がある。

はっきり断ろうとした卓郎を思いとどまらせたのは、澪が入部予定という話を聞いたからだった。

卓郎はD組、澪はA組と、接点がないうえに、二年、三年になってもクラスメートになるとは限らない。

だが同じクラブに所属していれば、しょっちゅう顔を合わせることになるのだ。

美少女との仲を深めるには、まさに絶好の機会ではないか。

聞くところによると、四月の一ヶ月間は仮入部扱いで、いつでも辞めることができるらしい。

新体操部には友梨香も所属しているようで、美人三姉妹が顔を揃える光景を思い浮かべた卓郎は、最終的に杏奈の誘いを受けたのである。

二度と会うことがないと思われた澪との再会。

足は自然とスキップをしているように弾み、高揚感が全身を包みこんだ。

体育館に足を踏み入れると、すでに杏奈と部員たちは集合していた。

制服姿の女子生徒たちが、仮入部の一年生だろうか。

彼女たちはみんな背を向けていたが、その中の一人、黒艶を放つロングヘアには見覚えがある。

(あ、あの子が、きっと澪ちゃんだ!)

杏奈が部活内容を説明するなか、卓郎はほくほく顔で、音を立てないように澪の背後に近づいた。

「部活動は週に三日、火水金よ。場所は、この体育館を使用します。今日のところは、一年生は見学してちょうだい。明日からは、学校指定のジャージで参加すること。何かわからないことがあったら、私や先輩部員に遠慮なく聞いて」

杏奈のとなりには、白いジャージを着た友梨香が佇んでいる。

目が合った瞬間、勝ち気な少女は特別驚いた様子もなく、心なしか口元を引き攣らせたように見えた。

(杏奈先生から、俺と会ったことを聞いているんだ。ということは、澪ちゃんも知っているわけだよな)

みっともない姿を見せつけた羞恥は残っているものの、今は美少女との再会を素直に喜びたい。

卓郎は緊張から、心臓の鼓動をトクトクと拍動させた。

「それじゃ、練習を始めましょう」

杏奈の合図で、二年生と思われる女子部員たちが練習の準備を整える。

新体操部の部員は、全部で十人ぐらいだろうか。

仮入部の生徒は、卓郎を入れて六人。もちろん、他に男子は一人もいなかった。

「見学の人たちは、端のほうに寄ってもらえる?」

制服姿の女子生徒たちが、ぞろぞろと体育館の端に向かって歩いていく。

ここぞとばかりに澪の肩を軽く叩くと、美少女はびっくりした顔つきで振り返った。

黒目がちの瞳は深く澄み渡り、愛くるしい容貌は、相変わらずの眩しい輝きを放っている。

「ひ、久しぶり」

「……あ、卓郎君」

小声ながらも、目いっぱいの笑顔を振りまいたつもりだった。

だが澪の表情は固く、頬が明らかに強ばっている。そして、いかにも気まずそうに視線を逸らした。

「元気……だった?」

「……うん。卓郎君は?」

「全然、元気だよ」

「新体操部に入るの?」

「いや、それは……まだはっきりとは決めてないけど」

「……そう」

話したいことはたくさんあるはずなのに、言葉が口をついて出てこない。

やがて部員たちの練習が始まり、クラシック音楽の旋律が館内に流れだすと、澪は卓郎のそばからスッと離れ、一年生女子のもとへ駆け寄っていった。

美少女のよそよそしい態度に、冷や水を浴びせられたように心が冷えていく。

ロッジで見せた情けない姿に、幻滅しているのだろうか。

先輩部員たちはいつの間にかジャージを脱ぎ捨て、レオタードに包まれたしなやかな肉体を躍動させている。

ややハイレグ仕様の薄い布地は、童貞少年には刺激的な代物だったが、今の卓郎の目にはまったく映らず、ただぼんやりとした顔つきで練習風景を見つめるだけだった。

(やっぱり、仮入部はやめよう)

初日の練習が終了したあと、卓郎は講師室に向かった杏奈のあとを追った。

澪のつれない態度、友梨香のいかにも煙たそうな表情。

仮入部は、一日目にして限界だった。

男子生徒が他にいたら、多少は気が紛れたかもしれない。

だが女の中に男一人の状況は、やはり特異な印象を与えたようだ。

話しかけてくる部員や一年生女子は一人もなく、卓郎は疎外感をたっぷりと味わった。

そもそも杏奈の誘いを受けたのは、少しでも澪との距離を縮めたかったからである。

彼女の様子を見た限りでは、交際などは夢のまた夢。

初日からこの調子では、とても続けていく自信などない。

文化館の階段を駆けのぼると、杏奈はちょうど講師室の扉を開けたところだった。

「先生!」

「あら、今日はごくろうさま」

「ちょっと、お話がしたいんですけど」

「それはいいけど、どうしたの? 血相を変えて。まあ、お入りなさい」

室内に促された卓郎は、丸椅子に座るやいなや、仮入部を取り消したい旨を簡潔に伝えた。

「どういうこと? まだ初日だっていうのに」