卓郎は慌てて靴を脱ぎ、ロッジの中へとあがった。
「とりあえず、私の部屋に隠れていて。タイミングを見計らって、あなたと合わせる機会を作るから」
「は……はい」
どうやら、澪はかなり酔っているようだ。
酒が回ったことで、積もり積もった鬱憤が、ここぞとばかりに噴きだしたのだろう。
玄関の一番近くにある部屋の扉が開けられ、卓郎は杏奈に促されるまま入室した。
「私が合図するまで、絶対に出てきちゃだめよ」
「わ、わかりました」
扉が閉められても、澪の声ははっきりと聞こえてくる。
「杏奈お姉ちゃん、どこに行ってたの!?」
「友だちから、電話がかかってきたのよ。そんな大きな声、出さないの」
「かわいい末っ子を放っておくなんて、長女としての自覚が足りないんじゃない!?」
怒声が響くたびに、卓郎は徐々に顔を青ざめさせていった。
(あ、あれ……ホントに澪ちゃんかよ)
こんな状況で飛びだしていったら、仲直りどころか、火に油を注ぎかねない。
身体をブルッと震わせた卓郎は、ただ息を潜め、事の成り行きを見守るしかなかった。
その後の澪の様子は、信号機のようにくるくると変わった。
怒ったかと思えば、急に声が小さくなり、ときおり鼻を啜る音が洩れてくる。
末っ子の対応に、姉たちはいかにも四苦八苦しているという気配だった。
部屋の中に三十分ほどは潜んでいただろうか、やがて杏奈の穏やかな声が聞こえてきた。
「そろそろ酔いが醒めてきたかしら?」
「え? 杏奈お姉ちゃん、ジュースに……お酒を入れたの?」
「そうよ。あなたを元気づけようと思って。どう? 言いたいことを言って、ちょっとはすっきりした?」
「……うん」
「よかった。ふふっ、目がとろんとしてるわよ。このまま自分の部屋で寝る?」
「ううん……お風呂に入らなきゃ、気持ち悪くて寝られない」
「大丈夫かしら? まあ、いいわ。私が、風呂場まで連れていってあげる」
リビングのほうから、ガタガタと音が響いてくる。
澪は、杏奈の付き添いで浴室に向かったようだ。
(風呂に入るのか。杏奈先生、いったいどうするつもりだろう。澪ちゃんとは、明日の朝に引き合わせるつもりなのかな?)
時刻は、すでに午後九時を過ぎていた。
この時間帯では、おそらく自分もロッジで一泊することになるだろう。
澪が眠ったあと、友梨香を交えて対策を話し合うつもりなのかもしれない。
しばらくすると、ドアの向こうから杏奈の声が響いた。
「いいわよ、出てきて」
「は、はい」
ドアを開け、やや緊張の面持ちで廊下に出る。
杏奈は、すでにリビングに向かって歩きかけていた。
「澪ちゃん、お風呂に入って大丈夫でしょうか?」
「うん、今のところは大丈夫よ。まだ脱衣場で服を脱いでいると思うわ」
杏奈のあとに続いてリビングに足を踏み入れると、友梨香はソファに背もたれ、ぐったりとした表情をしている。
澪の集中砲火を受け、まさに疲労困憊といった顔つきだった。
「こ、こんばんは」
「来るのが遅すぎよ。もう大変だったんだから」
「す、すみません」
「私が悪いんだから、しょうがないけど……。で、杏奈お姉ちゃん、このあとはどうするの?」
友梨香の問いかけに、卓郎は杏奈の顔を不安げに見つめた。
「最初の予定が狂っちゃったわ。本当はあの子の部屋で引き合わせるつもりだったのに、ちょっとのお酒で、まさかあんなに酔っ払うなんて」
「それじゃ、僕はどうしたら……」
「このまま、お風呂に入っちゃいなさい」
「へ!?」
突拍子もない提案に、思わず口がぽかんと開いてしまう。
杏奈は自信たっぷりに言葉を続けた。
「お互いに裸なら、腹を割って話せるんじゃない?」
「そ、そんな……無理です」
顔を真っ赤にすると、グラマラスな長女は意味深な笑みを浮かべた。
「何を恥ずかしがってるの? あの子とは、もうしちゃったんでしょ?」
「えっ!?」
「あの日のあなたたちを見れば、すぐにわかるわよ」
人生経験豊富な大人の女性は、すでに二人の関係に気づいていたようだ。
杏奈から事前に話を聞いていたのか、友梨香は特別驚いた様子も見せず、それどころか逆にあおりたててきた。
「うん、いい案かもね。裸じゃ、あの子もおとなしくするしかないし」
「ま、待ってください。かえって怒らせるんじゃ……あっ」
細長い指が胸元に伸び、ジャンパーを無理やり脱がされる。
「ちょ……ちょっと」
「ぐずぐずしている暇はないの。あの子が、お風呂で寝ちゃったら危ないでしょ?
トイレに行ってから、私もいっしょに入るって言ってあるし、あなたが脱衣場に行っても、不審に思われることはないはずだわ」
慌てふためくなか、今度は友梨香がジーンズのホックに手を伸ばしてくる。
「ほら、手を上げて」
「……あぁ」
頭からセーターを抜き取られると同時に、ズボンとブリーフを剥き下ろされ、卓郎は瞬く間に生まれたままの姿にさせられた。
ペニスはすっかり縮こまり、日頃の節操のなさは影も形もない。
「ちゃんと、あの子と仲直りしなさい。あなたと澪が本当の恋人同士になれば、秘密が漏れる心配もなくなるし。これで、ようやく私も安心できるわ」
「誰にもしゃべらないって言ってるのに……」
「がんばってね」
エールのつもりなのか、友梨香は手のひらでペニスをちょんちょんともてあそぶ。