浴槽内は四畳半ほどの広さがあり、大人が四、五人は入れるだろうか。
十五歳の少年にとっては、まさに贅沢とも言える空間だった。
(旅というと、温泉がつきものだけど、なんかわかる気がするな)
これまで温泉には特別興味がなかったが、日本人として生まれた喜びをひしひしと感じてしまう。
(それにしても、澪ちゃんと知り合えたのは、大きな収穫だったよな。友梨香さんに絡まれたときは、どうしようかと思ったけど……。そう言えば、杏奈さんや友梨香さんて、歳はいくつなんだろう? 聞く暇もなかった)
そう考えながら、タオルで額の汗を拭った直後、卓郎は脱衣場から伝わる人の気配にハッとした。
耳を澄ますと、複数の女性の話し声が聞こえてくる。
(な、何をしてるんだろ。ま、まさかっ!?)
湯船の中で身構えたとたん、引き戸が音もなく開き、バスタオルを身体に巻きつけた三姉妹が浴室内に入室してきた。
「あ……あ……あ」
あまりの驚きで言葉が出てこない。
卓郎が愕然としていると、杏奈が目を細めながら口を開いた。
「ふふ、びっくりさせちゃったかしら。澪を助けてくれたことと、友梨香のわがままにつき合ってくれたお礼よ」
タオルの上縁から覗く、くっきりとした胸の谷間がたまらない。
杏奈は身を屈めながら湯船にゆっくりと入り、友梨香がそのあとに続いた。
「さっきはごめんね。卓郎君が元彼にすごくそっくりだったから、ついカッとなっちゃって」
「い、いえ」
勝ち気な次女は、多少は酔いが醒めたのか、照れ笑いを浮かべている。
澪は洗い場に立ったまま、まだ申し訳なさそうな顔をしていた。
(お礼ということはわかったけど、うれしいというよりはびっくりしたよ。まさか、澪ちゃんまで入ってくるなんて)
おそらく杏奈の提案なのだろうが、花も恥じらう乙女が男子と入浴しようというのだから、そうとうな覚悟が必要だったに違いない。
澪はクロスした手で胸元を隠し、頬を桜色に染めながら目を伏せていた。
「ああ、いいお湯だわ」
「ホント、気持ちいい」
姉二人がゆっくりと湯に浸かるなか、澪はまだ湯殿に入ってこない。
(澪ちゃん、どうしたんだろ。何でずっと突っ立ったままなんだ?)
小首を傾げた瞬間、長女の鶴の一声が浴室内に反響した。
「澪、卓郎君の背中を洗ってあげなさい」
「……うん」
「えっ!?」
目を丸くした卓郎は、杏奈の顔をまじまじと見つめた。
「遠慮しなくてもいいのよ。澪も、何かお礼がしたいって言ってたんだから」
「で……でも」
卓郎は、困惑げに口元を引き攣らせた。
小さなタオルしか持っていないだけに、股間をしっかりと隠すことができるのか。
半裸に近い状態で、異性と接する経験など初めてのことなのだ。
不安とは裏腹に、胸が妖しくざわつく。
「いいの。卓郎君、背中を洗わせて」
美少女がようやく微笑をたたえ、洗い場へと促す。
せっかくの心遣いを断るのは、かえって失礼なのではないか。
(しょうがない。ただ背中を洗ってもらうだけなんだから)
意を決した卓郎は、湯船の中でタオルを腰に巻き、慎重に湯からあがった。
白い布地はかなり薄かったが、幸いにも股間の肉槍は目立たない。
突然の出来事に、すっかり萎縮しているようだ。
卓郎はやや内股の足取りで、そろりそろりと澪のもとに歩み寄った。
「椅子に腰掛けて」
「うん」
これまたひのき造りの風呂椅子に腰を落とし、ホッとひと息つく。
澪は床に片膝をつき、手にしていたタオルに石けんを泡立て、背中にすべらせていった。
眼前の鏡に、美少女の顔が映しだされる。
可憐な容貌にドキンとしながらも、澪が身体を左右に揺らすたびに、卓郎の視線はふっくらとした胸元に向けられた。
(け、けっこう大きいぞ。澪ちゃんて、着痩せするタイプなのかも)
プディングのように震えるバストの膨らみが、気になって仕方がない。
股間に自然と熱い血流が注ぎこみ、萎えていたペニスが徐々に体積を増していく。
(や、やばい!?)
自制しようとしても、一度火のついた性欲が鎮まることはなかった。
タオルの布地がむっくりと隆起していく様を呆然と見下ろしつつ、腰がもぞもぞと動きはじめる。その直後、少年の生理現象を知ってか知らずか、杏奈がとんでもない言葉を投げかけてきた。
「澪、ついでに前も洗ってあげたら?」
卓郎が慌てふためくなか、鏡越しの少女が一瞬にして頬を赤らめる。
横目で湯殿を見やると、友梨香はまたもや厳しい眼差しを向けていた。
温泉に入ったことで、酔いが再び回りはじめたのだろうか。
目がまたもや据わり、いかにも何か言いたげな表情だ。
柔らかいタオルが腰の裏あたりを撫でさする頃には、ペニスは完全勃起に近い状態と化していた。
(何をやってるんだ! 小さくなれっ!!)
必死の祈りも虚しく、タオルが見事なテントを張る。
澪はシャワーヘッドを手に取り、背中に付着した泡を洗い落としていったが、卓郎は心の中で(ひっ!)という悲鳴をあげた。
大量のお湯がタオルにかかり、布地越しのペニスをうっすらと透きとおらせていく。
こんな状態では、椅子から立ちあがることもできない。
「卓郎君、お疲れさま」
澪の呼びかけにも無言のまま、卓郎はただ俯くことしかできなかった。
「卓郎君?」
「え?」
「どうしたの?」