の建物が三軒点在していた。
「一番奥のロッジなんです」
「そ、そう」
卓郎は、木造の別荘を複雑そうな顔で見つめた。
(こぢんまりとはしているけど、けっこうきれいだし、親が別荘を所有しているぐらいだから、かなりのお嬢様なんだろうな)
澪とはぜひとも友だちになりたかったが、どうしても分不相応という気持ちが先立ってしまう。
この程度の人助けで、連絡先まで聞くのはあまりにも図々しすぎるのではないか。
デッキの玄関口に到着すると、卓郎は荷物を床に下ろし、寂しそうな笑顔で口を開いた。
「じゃ、俺はこれで」
「ちょっと待って」
「え?」
澪は玄関扉を開け、家の中へと入っていく。そして、二十代後半と思しき女性を連れて戻ってきた。
やや茶髪のセミロングヘア、流麗な弧を描く細眉、しっとりと濡れた瞳と唇。
全身からセクシーな雰囲気を醸しだしている、いかにも成熟した大人の女性だ。
セーターの胸元を膨らませているバストの大きさに、卓郎は目を見張った。
襟元がV字に開いており、生白い胸の谷間がくっきりと覗いている。
ダークブラウンのニットの布地が、身体にぴったりと張りつき、まるでボディコンさながらの悩ましさを存分に見せつけていた。
(す、すげえおっぱい。しかも、スカートを穿いてない。太腿もむっちりしていて、いくら部屋着とはいえ、エロすぎるよ)
顔を火照らせた卓郎だったが、よくよく見ると、女性の頬も赤らんでいた。
「ありがとう、澪の荷物を持ってくれたそうで」
吐息に、微かながらもアルコールの匂いが混じっている。
どうやら、かなり酒が入っているようだ。
卓郎は落ち着きなく、肩を揺すりながら答えた。
「い、いえ、そんな大したことはしてないです」
「私は澪の姉、長女の杏奈よ」
「あ、清瀬卓郎です」
「よかったら、あがってかない?」
「へ?」
「女三人だけだし、澪の話し相手になってくれたらうれしいわ。とにかくあがって」
しなやかな指が伸び、手首を優しく掴まれる。
鼻先に漂った甘いコロンの香りが、童貞少年の脳幹を痺れさせた。
(あ、ああっ……いい匂い)
ハッと我に返ると、澪は満面の笑顔で見つめている。
卓郎はうれしさを込みあげさせるとともに、妙な期待感に胸を弾ませていた。
2
暖房のきいたリビングには、次女らしき女性がソファの上に座っていた。
手にしているコップの中身は、やはり酒だろうか。
目が据わり、顔はもう耳たぶまで真っ赤だ。
セミショートの黒髪、スリムな体型はいかにも活発そうで、やや吊りあがった目尻が気の強そうな印象を与える。
それでもぱっちりとした瞳は血筋なのか、彼女も愛くるしい女性には違いなかった。
(美人三姉妹だなぁ。でも……この人はいくつなんだろう? なんか二十歳を超えているようには見えないけど……)
テーブルの上には、ビール缶やワインの瓶が転がっている。
「次女の友梨香よ」
杏奈の紹介を受けると、卓郎は気恥ずかしそうにペコンと頭を下げた。
「こ、こんにちは」
ピンクのカーディガンにデニムスカート姿の次女が、チラリと視線を向けてくる。
次の瞬間、ソファから立ちあがった友梨香は、目を大きく見開き、憤然とした顔つきで近づいてきた。
「こ、浩介」
「は?」
「何で、こんな所にいるのよ! よくも私をフッてくれたわね!!」
「友梨香、あんた何を言ってるの!? この子は卓郎君よ」
杏奈があいだに入り、事なきを得たが、卓郎はただぽかんとするばかりだった。
「浩介じゃないの?」
「違うわよ! たった今、澪から話を聞いたでしょ? 荷物が重たいだろうって、わざわざ別荘まで運んでくれた男の子よ」
「なぁんだ」
友梨香は謝罪もせず、再びソファにドスンと腰を落とし、ぶつぶつ言いながらコップの中の赤い液体をぐいとあおる。
「ごめんなさいね。この子、あなたを元彼と間違えたみたい」
「あ、話は、澪ちゃんから……ちょっとだけ聞きました」
彼女たちの今回の旅行は、失恋した次女を慰めることが目的なのだ。
(それにしても、すごく酔ってるな。ほとんど泥酔状態じゃないか)
眉を顰めたとたん、澪はいかにも申し訳なさそうな表情に変わった。
「卓郎君……ごめんね」
「ううん、全然平気だよ」
にっこりと笑顔で答えると、杏奈が友梨香の真向かいにあるソファに促す。
「遠慮しないで、くつろいで。お腹は空いてない?」
「少し空いてます」
「今、ピザを焼いているから。飲み物は? お酒?」
「い、いえ。僕はまだ十五歳ですから」
「あら、澪も十五よ。今年、高校進学?」
「そうです」
「ふふ、話が合いそうね。仲よくしてやってちょうだい」
まさか、美少女と同い年だとは思ってもいなかった。
できれば、彼女ともっと親交を深めたい。
「さ、座って。澪はとなりね」
促されるままソファに座ると、澪が目元を紅潮させながらとなりに腰掛けてくる。
首筋から放たれる甘い砂糖菓子のような芳香に、卓郎は鼻の下をデレッと伸ばした。
「飲み物はジュースでいい?」
「は、はい。すみません」
杏奈がキッチンに向かい、澪と友梨香の三人だけになる。
(澪ちゃん、やっぱりかわいいよな。お姉さんたちも美人だし、初めての一人旅でこんなラッキーな思いをしちゃっていいんだろうか)
美少女のプロフィールを聞きだし、ぜひとも連絡先を交換したい。