(あっ、くっ)
君江に勝るとも劣らない凄まじいピストンに、芳彦は苦悶の表情を浮かべていた。
あまりの激しさに、息をすることさえままならない。
(な、何だよ、これ! く、苦しいよ!?)
この世のものとは思えない息苦しさから、芳彦はようやく現実の世界へと引き戻された。
微かに目を開けると、眼前にはキャミソールにデニムスカートと、スポーティーな恰好をした一人の少女の顔がうっすら見える。
「芳彦」
「ん……君が夢の中の美少女?」
「何寝ぼけてんのよ。起きなさいよ」
芳彦は寝ぼけ眼で、少女の容貌を仰ぎ見た。その輪郭が、徐々にくっきりとしてくる。
「あ、夏美! うわっ!」
「何よ、せっかく迎えに来た美女を前にして、幽霊を見たみたいに」
夏美は掛け布団の上から、全体重をかけるように芳彦の身体に跨がっている。どうりで息苦しいはずだ。
「ちょ……重い。ど、どいてよ」
夏美が布団から下りると同時に、なんとか上半身だけ起こしたものの、芳彦は頭をふらつかせた。
身体全体が妙に気怠く、頭の芯が霞がかったようにボーッとしている。
(まるで全身が鉛みたいだ)
昨夜は君江相手に童貞喪失したあと、さらに一回精を搾り取られてしまった。
射精回数は、計四回。睡眠不足のうえに、これでは頭が目覚めないのも仕方のないことだった。
そんな芳彦に、夏美は訝しみの視線を注いでくる。
「どうしたのよ。まさかあんた、お酒呑んだんじゃないでしょうね?」
「の、呑んでなんかいないよ。昨日帰ってきたのが遅かったし、バイト疲れが一気に出たんだと思う」
「ふん」
芳彦がごまかすと、夏美はそれには答えず、唇をツンと尖らせた。
「でも……なんで夏美がここに?」
「まだ寝ぼけてるの? あんたを迎えにきてあげたんじゃない」
(あ、そうか。今日から夏美の家にやっかいになるんだっけ)
思考回路がようやく動きはじめると、芳彦は困惑げな顔つきへと変わった。
これからしばらくの間、夏美と一つ屋根の下で暮らすとなると複雑な気分になってしまう。
夏美は勝ち気な性格で、芳彦は幼い頃からよく苛められ、いつも子分扱いだったのだ。
(確かに子供の頃は夏美のことが大好きだったし、ままごと遊びの中で、結婚の約束も交わしたんだよな。未来の奥さんだなんて思ったこともあったっけ。でも……顔は十分かわいいんだけど、性格がなぁ)
芳彦はそう思いながら、夏美の顔をまじまじと見つめた。
やや卵形の輪郭に、セミロングの髪型がよく似合っている。ぱっちりとした瞳に長い睫毛、愛らしい鼻に桜の花びらのような可憐な唇は、美人というよりは可愛いタイプだ。
頬などはツルツルとし、街を歩けば、若い男なら誰もが振り返る顔立ちをしていたが、彼女はそればかりでなく、ふっくらとした身体つきも大きな魅力の一つだった。
夏美は中学に進学してから急に発育しだし、胸もヒップもまろやかな曲線を描くようになった。
高校に入ってからはウエストがやたら括れはじめ、今ではグラビアアイドルとしても通用するほどのプロポーションを誇っていたのである。
身長百六十三センチ、バスト八十九センチ、ウエスト五十九センチ、ヒップ八十八センチ。
臆することなく、自分のスリーサイズまで堂々と公表してくるのだから、よほど自分のスタイルに自信があるのだろう。
夏美とは幼稚園から高校まで同じ学校に通っていたが、時々眩しくて顔をまともに見れなくなるときがある。
(このごろは夏美の前に出ると、なぜか自分を出せなくなっちゃうんだよな。背が僕より高いせいかな? 自分が貧弱すぎるせいもあるのかも)
いずれにしても相手が幼馴染みだけに、成長の違いをまざまざと見せつけられているようで、それが芳彦に劣等感を抱かせているのは間違いなかった。
「何よ。人の顔じろじろ見て」
「あ、いや。百合子さんは、本当に泊まっていいって言ってるの?」
「もちろんよ。部屋だって空いてるんだし。それに運送会社から宿泊代が出るんでしょ? それを賃料としてもらうから」
(ちぇっ! ちゃっかりしてら)
可憐な外見とは裏腹に、男勝りでサバサバした性格。それが夏美のいいところでもあり、悪いところでもある。
芳彦が苦笑した瞬間、夏美は待ちきれなかったのか、掛け布団を強引に捲り上げた。
「さあ、早く起きなさい……きゃあぁぁ!」
「え?」
夏美が空気を切り裂くような悲鳴をあげ、口に両手を当てる。何気なく下腹部を見下ろした芳彦も、また目をひんむいた。
いつの間にか寝ている間に浴衣がはだけ、下着が丸見えの状態だったのだが、その中心部は大きなテントを張っている。
「ひゃあぁ」
「変態!」
慌てて股間を両手で押さえたものの、間髪を容れずに夏美の平手が頬に飛んだ。
「やっぱり! いやらしい夢を見てたのね!」
「ち、違うよ。これは男の生理だよ。仕方のないことなんだから」
そう答えたものの、昨夜四発も放出して、まだ朝勃ちの元気があるとは。我ながら、びっくりするほどの性欲だ。
「ふん。まあ、いいわ。それより身の回りの物は、もうちゃんと揃えたの?」
「あ、うん。そこのデイバッグに必要な物は入ってると思うけど。あと必要なのは、学校の制服や勉強道具かな」
「わかった。それじゃ部屋の鍵貸して。私が用意しといてあげるから、あなたは服を着なさい」