「だ、誰から聞いたの?」
仲のいいクラスメートたちの顔が、脳裏に浮かんでは消えていく。
「誰でもいいでしょ。そんなことより、あんたが稲垣さんと釣り合うと思ってるの? 女心さえわからないような、鈍感を絵に描いたような男なのに」
「うるさいなぁ。夏美には関係ないでしょ。ほっといてよ」
一番気にしていたところを突かれ、芳彦はいっぺんに気分を悪くした。
夏美に言われなくても、自分が莉奈のボーイフレンドにふさわしくないことは十分承知している。
それでも男なら、絶世の美少女とつき合いたいと思うのは至極当然のことである。
芳彦がプイと横を向くと、夏美は鼻白んだ笑みを浮かべた。
「もういいよ。どうせ相手にされっこないんだし。さあ、身体洗ってあげるわ」
「え?」
「聞こえなかった? 身体を洗ってあげるって言ったの」
「い、いいよ」
「なんで? 今さら照れることないでしょ。昔はお医者さんごっこだって、よくしたじゃない」
「身体を洗うこととは……関係ないと思う」
「けが人をいたわってあげるのは、当然のことよ。早く!」
「あ、ちょっ……!」
一度言い出したら聞かない性格の夏美である。
腕を掴まれ、強引に風呂からあげられた芳彦は、慌ててタオルを腰に巻いた。
「まずは背中からね。後ろを向いて」
(やれやれ)
思わず溜め息が出てしまう。言われるがまま身体を反転させると、夏美はタオルにボディシャンプーを含ませ、棒立ちになった芳彦の背中を泡立たせていった。
(お医者さんごっこか。そういえば、いつも夏美が先生役だったな)
ペニスを指で摘み、盛んに不思議そうな顔をしていた夏美が思い出される。
(夏美には、いつもおチンチンをいじくられてたんだっけ。もし今、そんなことをされたら……あっ、いけない)
その光景を妄想しただけで、ペニスがグングンと体積を増していき、勃起はタオルの前部分を派手に盛り上がらせていった。
(またぁ。やばい、どうしよう。ええい、鎮まれっ!)
そう思っても、一度火のついた性欲は鎮火しない。芳彦は両手で股間を押さえ込んだものの、次の瞬間、「ひゃあ」という大きな悲鳴をあげた。
突然夏美が、腰に巻いていたタオルを取り外してしまったのである。
「な、何を?」
「あら? だって、お尻だってちゃんと洗わなきゃ汚いでしょ」
そう言いながら、夏美はタオルで芳彦の臀部を擦り上げていった。
柔らかい布地が尻朶を往復するたびに、その感触が快感電流へと変わり、前面のほうへと響いてくる。
(だめだ、だめだ。全然収まらないよ!)
ギュッと瞼を閉じ、唇まで噛み締めたものの、まったく効果がなく、ついに夏美の口から無情とも思える言葉が放たれた。
「さあ、前を向いて」
「えっ? いい、いいよ! 前は自分で洗えるから!」
「何を恥ずかしがってんのよ。ちゃんと手で隠してるんでしょ?」
冗談ではない。今や隆々と屹立した逸物は手のひらでは収まりきらず、上方から亀頭と肉胴の一部をはみ出させているのである。
(逃げよう。今すぐ逃げなきゃっ!)
そう決心した刹那、芳彦は自身の腰に夏美の両手が添えられた感触を覚えた。どうやら、強引に振り向かせようとしているようだ。
「ちょっと待って!」
思わず両足を踏ん張った芳彦だったが、タイルの上に落ちていた泡が足裏に付着していたせいか、身体は自分の意思とは無関係に、その場でくるりと回転した。
(あっ)
心の中で驚愕の悲鳴をあげるも、剛直と化したペニスの先端は、夏美の顔を突き刺すかのように曝け出されている。
「うわっ!」
芳彦は顔を真っ赤にさせ、慌ててその場にしゃがみ込んだ。
夏美は目を大きく見開き、愕然とした表情を浮かべている。そしてやや眉根を寄せながら、怒ったような口調で言い放った。
「ちゃんと立って」
「もう。勘弁してよぉ」
「聞こえなかった? ちゃんと立ってって言ったの。そのままじゃ、いつまで経っても洗えないでしょ」
夏美は目尻を吊り上げ、キッと見据えてくる。
この表情を見せたときの夏美は凄まじい怒りを覚えているときで、決まってこのあとは平手が飛ぶか、足蹴りを見舞わせることが常となっていたのだ。
(くそっ……もうどうにでもなれ)
芳彦は覚悟を決めると、ゆっくりと立ち上がった。
勃起はいまだ両手からはみ出している。あまりの羞恥から、火がついたように全身がカッと熱くなる。
夏美は急に無口になり、再びタオルにシャンプー液をまぶすと、芳彦の足や胸、腕を泡立たせていった。
夏美の顔からは、先ほど見せた険しさは消えている。
笑っているわけでもなく、さりとて怒っているわけでもなく、唇を真一文字に引き結んでおり、その表情からは彼女の真意までは計れない。
(いったい、どういうつもりなんだろう。男とつき合ったことがあるんなら、男の生理ぐらい多少はわかっているはずだよな。女の子と一緒にお風呂に入ってるんだもん。勃起したって、不可抗力だよ)
首筋を洗ってもらい、芳彦はようやく苦痛の時間から介抱されたように、ホッと安堵の溜め息を放った。
股間の肉槍はやや萎靡しかけ、手のひらの中にすっぽりと収まっている。
一部分は見られてしまったが、今さら嘆いてみても仕方がない。
(はぁ。あとはシャワーのお湯を浴びて終わりだ)