幼馴染みと学園のアイドル 女子高生たちの恥じらいの放課後

「あそこの建物は離れになっていて、三年前まで従姉妹のお姉さんが下宿してたんだけど、今は私のアトリエ代わりに使用しているの」

「あ、アトリエですか?」

その建造物は木造りのようだったが、外壁全体に白いペンキが塗られており、三角形の屋根や小さな細長い窓を見ていると、まるでヨーロッパの童話に出てくるような建物に思えてくる。

「今日は、パパはゴルフに行ってて留守だし、ママは三泊四日で北海道に旅行へ出かけているから遠慮しないで」

「あの……ご兄弟は?」

「いないわ。私は一人っ子だし」

この家には、莉奈しかいない。学園のマドンナと二人きりという状況は、芳彦に淫らな期待感を抱かせた。

莉奈はアトリエのドアノブに手をかけ、扉を開ける。

「どうぞ」

室内に入った芳彦は、あたりを見渡した。

屋根の反対側には大きなガラス窓が取りつけられ、採光をたっぷりと確保している。部屋全体が明るく、清潔感に溢れ、確かに絵を書くには絶好の環境だと言えた。

(莉奈先輩って、やっぱりきれい好きなんだな。夏美の部屋と違って、塵ひとつ落ちてない)

窓脇のピンクのレースカーテンも、美少女のイメージにはぴったりだ。

室内の右奥には従姉妹が使用していたのか、木造りのベッドや机、ミニ冷蔵庫や本棚などが置かれている。

右奥にある扉は、トイレだろうか。両脇の壁には莉奈が描いたと思われる絵や、キャンバスが所狭しと置かれていた。

「ずいぶんと描いてるんですね」

「あまり見ないで。恥ずかしいわ」

莉奈は頬を染めながら、冷蔵庫からペットボトルを取り出す。

小さな丸テーブルに置かれているコップに注ぐ姿を尻目に、芳彦は絵を見ながら壁沿いにゆっくりと歩いていった。

しばしの沈黙の時間が、妙な緊張感を与えていく。

(これから、いったいどんな展開を迎えるんだろ? 変な雰囲気になりそうな気配は今のところ感じないんだけど)

そう考えた芳彦だったが、本棚の付近まで来たとき、思わず怪訝そうな顔つきを浮かべた。

本棚には本がびっしりと並べられていたが、華やかな色の背表紙を見ると、どうにも美術関係の書物とは違うように思える。

前屈みになった芳彦は、みるみるうちに顔色を変えていった。

『BLと腐女子』『あいつと熱愛シンドローム』『無邪気な恋愛男子』といった、不可思議なタイトルが見て取れる。

(こ、これって……まさか、ボーイズラブ?)

漫画から小説、はたまた同人誌まで、棚の隅々まで同系の本で埋まっており、芳彦はただぽかーんと口を開けるばかりだった。

一冊だけ手に取り、ペラペラと捲ってみると、イケメンの二人が裸で絡み合っている絵ばかりが目に飛び込んでくる。

男が男のモノをフェラチオしているシーン、バックからアヌスへ男根を貫いているシーン。顔に精液を受けているシーンまであり、芳彦はその過激な描写の連続に、ただ唖然とするばかりだった。

「芳彦君、アイスティー入ったから……あっ」

莉奈が小走りに駆け寄り、芳彦の手から本を取り上げる。

「あんまりじろじろ見ないで」

「す、すいません」

莉奈は本を棚に戻すと、やや気まずそうに口を開いた。

「ほんとは私ね。漫画家になりたいの。藤美学園には漫画研究部がないから、仕方なく美術部に入ったのよ」

「ま、漫画家ですか」

人は見かけによらないものだ。本棚のコレクションから察するに、やはりボーイズラブ系の漫画家を目指しているのだろうか。

(まさか莉奈先輩が、こんな本を読んでいたなんて。当然、ボーイズラブの漫画も自ら描いているということだよな)

どうしても、その図が想像できない。

理想の美少女としてのイメージを抱いていた芳彦は、少しがっかりしながらも、素朴な疑問を投げかけた。

「僕に、どうしてそんなことを話したんですか?」

莉奈はそっと目を伏せながら、躊躇いがちに答える。

「それは……だって……変なところを見られちゃったし」

その言葉を受け、芳彦はここぞとばかりに問い質した。

「あ、あの、どうしてあんな場所で?」

「それは……女の子だって、堪らずそういう気持ちになるときがあるの」

そういうものなのだろうか。いずれにしても莉奈に対して抱いていたイメージは、芳彦が勝手に押しつけていたもので、彼女はアイドルなどではなく、普通のエッチな女の子なのかもしれない。

芳彦がそう考えていると、今度は莉奈のほうから言葉を投げかけた。

「実は芳彦君に頼みたいことがあって。聞いてくれるかしら?」

「な、何ですか?」

莉奈はいったん俯き、しばし間を置くと、決心したように顔を上げた。

「どうしても、ラブシーンがうまく書けないの。私、その……経験がないから。あの、見せてほしいの」

「え?」

最初は言葉の意味がわからず、芳彦はきょとんとしていたが、莉奈はさらに言葉を重ねてくる。

「デッサンのモデルになってくれない?」

「モデル……ですか?」

莉奈の「見せてほしい」という懇願と、ボーイズラブの淫らなシーンが重なり、芳彦はようやくすべてを理解した。

「ま、まさか……ヌードってことですか?」

莉奈が頬を染めながらコクリと頷く。芳彦は目をひんむいて、驚きの声をあげた。

「ええっ! そ、そんな恥ずかしいですよ!」

そう答えると、莉奈は目尻に涙を溜め、ぽつりと呟く。