幼馴染みと学園のアイドル 女子高生たちの恥じらいの放課後

ひと月間のバイトの間はほとんど外食だったので、芳彦は目の前の家庭料理に喜色の表情を浮かべた。

「ごめんなさいね、有り合わせのもので。時間があれば、もっとちゃんとしたものを作ったんだけど。昼間は大変だったから」

「いえ、とんでもありません。僕にとっては、大変な御馳走ですよ」

子供のように瞳を煌めかせる芳彦を、君江はうれしそうに見つめている。

「さ、食べて」

「はい」

促されるまま席に着いた芳彦は、箸を手にすると、目の前の馳走を次々と口の中へ運んでいった。

「夏美ちゃんの家に行く前に、服とか勉強道具とか、いろいろと持っていくものを揃えておかなきゃならないわね。足りないものがあったら言って。私のほうでも用意しておくわ」

「あ、ありがとうございます。ご飯を食べたら、ちょっと部屋に戻って準備しようかと思ってます」

君江は冷蔵庫を開け、コップに注いだ麦茶をテーブルの上へと置いてくれる。そして自分は缶ビールを手にし、芳彦の真向かいへと腰掛けた。

プシュッと缶のプルトップが開けられ、君江はコップにも注がず、一気飲みであおっていく。

その姿を、芳彦は箸を持つ手を止めて見つめていた。

「ああ、おいしいわ」

目元をやや赤く染めながら、君江が満足そうな笑みを浮かべる。

「はぁ、すごいですね。君江さんて、いつもそんなに呑むんですか?」

「今日は特別よ。だって旦那がいないんだもの。芳彦君も呑む?」

「い、いえ、僕はちょっと……」

「そうか、まだ未成年だものね。一応教え子なのに、こんなことがバレたら、学園長から大目玉を喰らっちゃうわ」

君江は肩をひょいと竦めると、すっくと立ち上がり、再び冷蔵庫へと向かった。

「え? また呑むんですか?」

「そうよ。今日は暑かったし、喉がカラカラなんだから」

缶ビールを手にテーブルへと戻ってくる君江を、芳彦は目を丸くして注視した。

君江はふだんから竹を割ったような性格だったが、夏美に言わせると、学生時代は東京の女子大に通い、ずいぶんと派手に遊んでいたようだ。

百合子とは歳の離れた妹ということもあり、両親からはかなり甘やかされて育ったようで、姉御肌なのか、女子生徒からの相談もかなり受けているようで、その快活なキャラには芳彦も好感を抱いていた。

(でも……こんな開けっぴろげの君江さんを見るのは初めてだな)

君江は二本目の缶ビールも、ぐいぐいとあけている。芳彦は肉じゃがを口に運びながら、心配そうに眼前の人妻を見つめた。

やや茶色に染めたセミショートの髪、猫の目のようにクリッとした瞳、鼻もすっと高かったが、君江の一番の魅力は肉厚な唇だった。

アヒル口というのだろうか、上唇が捲れ上がり、ふっくらとした下唇とともにセクシーな印象を与えてくる。

こんな唇でフェラチオをされたら、きっと気持ちがいいに違いないと、何度想像したことだろうか。

何となく二人の間に妙な空気が流れ、芳彦の箸の動きもいつの間にかペースが落ちていた。

(こんなにグビグビ呑んでたら、やっぱり酒の回りも早いんじゃないのかな?)

上目遣いで様子を窺うと、案の定、君江は早くも目が据わりはじめている。

カーンとテーブルに缶を置く音が響き、芳彦は肩をピクリと震わせた。

君江が一つ、大きな溜め息をつく。両肩が左右に揺れはじめ、かなり気怠そうな表情だ。

「だ、大丈夫ですか?」

「何が?」

「あの……ちょっと酔ってるような感じなんで」

心配げに問いかけると、君江は芳彦をキッと睨みつけた。

「大人はね、あなたたちにはわからない悩みをみんな抱えているのよ。私だって、たまにはハメを外したくなるときだってあるわ」

「はあ」

確かに町の飲み屋街を通りかかると、いい歳をしたおじさん連中がくだをまいている光景を見かけるときがある。

当然仕事や家庭でのストレスを感じているだろうことは、高校生の芳彦にもよくわかっていたが、君江はいったいどんな悩みを抱えているというのだろうか。

芳彦が食事に集中しようと目線を下げると、君江は再び深い溜め息をついた。

「ねえ、芳彦君。一人暮らしで寂しくない?」

「はあ。あまり感じたことはないです。お母さんが死んでから一人でいることが多かったし、父が家にいることもほとんどなかったですから」

「う~ん、りっぱよね。もしかすると、芳彦君のほうが私なんかより、よっぽど大人かもしれないわ」

「そんなことありませんよ。でも本音を言えば、時々寂しくなるときもあります。将来は君江さんみたいな人と結婚して、幸せな家庭を築けたらなって、よく思ってるんです」

らしくない言葉で、芳彦はお世辞を口にした。

あくまでうまく話をまとめたつもりだったのだが、君江は瞬時にして顔をしかめた。

「結婚なんて、そんなにいいものじゃないわよ」

「え?」

「私、幸福そうに見える?」

「え、ええ」

そんなことを言われても、本当のところはわからない。芳彦が適当に相槌を打つと、君江は突然憤然とした表情を浮かべた。

「あいつ、浮気してるの!」

「え? えぇ~っ?」

衝撃の告白に、口元まで運んでいたぬか漬けをポロリと落としてしまう。君江は眉尻を吊り上げたまま、さらに言葉を続けた。

「相手は会社の部下で、まだ大学を出てから二年目の新人みたいだわ。そんな子に手を出すなんて、これってやっぱり最低じゃない?」