「あの、その、ほら、夏美って、すごくスタイルがいいじゃない。顔もかわいいと思うし、特にそのレオタードは、夏美のためにあるんじゃないかと思う」
すっかり機嫌を良くした夏美が、さらに近づいてきてレオタードを見せつけてくる。
「ちゃんと見て、もっと具体的に言ってよ」
夏美の許可を得た芳彦はようやく顔を真正面に戻し、そのまま視線を上から下へとゆっくり落としていった。
具体的といっても、装飾のいっさいないレオタードでは、どこをどう褒めていいのかわからない。それよりも、芳彦の興味は夏美の股間へと注がれていた。
ややハイレグ仕様の布地はウエストの下方まで切れ込み、鼠蹊部へぴっちりと喰い込んでいる。いかにも過敏そうな白い肌が脇から覗き、それだけでも生唾ものだったが、乙女の大切な秘園をわずかな布切れが包み込んでいるのである。
(あぁ。あそこがぷっくりと膨れてる。すごい柔らかそうだよ)
芳彦は淫らな気持ちを見透かされないよう、すかさず顔を上げながら口を開いた。
「れ、レオタードの白さがすごく映えてて、とても優美そうに見えるよ」
そう答えつつも、こんもりと盛り上がったバストと、ふっくらとした身体のラインが瞳に飛び込み、海綿体に自然と血液が流れ込んでいく。
「これを着て演技をしたら、みんな注目するんじゃないかな」
「ふうん。芳彦にしては、いいところを突いてるじゃない。でもこれはあくまで練習着だからね」
冷や汗をかきながら褒めまくった効果があったのか、夏美は満足そうに満面の笑みを浮かべていた。
「そ、それじゃ、僕行くから。CDは確かに返したからね」
このまま部屋にいたら、いつ欲情していることに気づかれるかわからない。
踵を返して夏美の部屋を後にした芳彦だったが、自分の部屋へ戻っても心臓の動悸は収まらなかった。
(夏美もいつの間にか、あんな女らしい身体つきになってたんだ。そういえば、夏美は中学二年のときにつき合ってた彼氏がいたし、去年も三年の先輩とつき合ってたんだよな。やっぱり処女じゃないのかも。いったいどんなエッチしてたんだろ)
その場面を妄想していると、昨夜の君江の激しいセックスとダブってしまう。
(いけない。夏美相手に何を考えてるんだ。そうだ。夏休みの宿題が、まだちょっと残ってたんだっけ)
慌てて淫らな思いを打ち消し、学生鞄からプリントを引っ張り出す。
宿題はバイト先にも持っていったのだが、まだ一割ほど手つかずの問題が残っていた。
芳彦はシャープペンを手に、さっそく数学の問題へと取りかかったが、昨夜の睡眠不足のせいか、瞼が急に重たくなってくる。
宿題を始めてから五分も経たず、芳彦は目をとろんとさせていた。
目が覚めると、窓の外はすっかり暗くなっていた。
(あれ? いつの間に寝ちゃったんだろ)
壁時計を見ると、すでに午後七時を過ぎ、外は大粒の雨が降り出している。畳から上半身を起こした芳彦は、テーブルの上に置いてある手紙に気づいた。
《妹のところへ行ってきます。食事はリビングに。お風呂も沸いています》
「百合子さんだ。やっぱり優しいなぁ」
まるで本当の母親のような気遣いだ。芳彦は百合子に感謝しながらも、身体がべったりと寝汗をかいていることに気づいた。
「気持ち悪い。先に風呂に入るか」
外は滝のような激しい雨が降り注ぎ、時おり轟音とともに稲妻がピカリと光る。
芳彦は一瞬肩を竦めたが、タンスの中からタオルと替えの下着を取り出すと、そのまま客間を後にした。
(夏美はどうしてるんだろう? 食事をするなら、呼びにくると思うけど。僕が寝ていたから起こさずに、先に食べちゃったのかな?)
階段の下からちらりと上を見上げたが、雨だれの音が強く、二階からは何の音も聞こえてこない。
「まあ、いいや。それにしても、すごい雨だな」
芳彦は生あくびを一つすると、その足で浴室へと向かったが、扉の前まで来ると、突然近くで雷が落ちる音が響き渡った。
「うわっ!」
廊下の照明が明滅を繰り返し、突然明かりが消えてしまう。真っ暗闇の中で、芳彦は困惑げな表情を浮かべた。
「やんなっちゃうなぁ。先にご飯を食べちゃおうか。でも身体は汗で気持ちが悪いし。もうこのまま入っちゃおう。そのうち目も暗闇に慣れてくるだろう」
手探りで浴室の扉を開け、脱衣場で服を脱ぎ捨てていく。前も後ろも真っ暗で脱衣籠の位置さえわからない。
芳彦は脱いだ服と替えの下着を壁脇に置くと、タオルを手に持ち、そのまま壁伝いに歩いていった。
風呂場にある窓から薄明かりは漏れていたが、ほとんど役には立たない。
芳彦はなんとかドアの取っ手を掴むと、扉を開け、恐るおそるタイルの上へと足を伸ばした。
「ふう。なんとか入れそうだ。そのうち電気もつくだろう」
そう考えた芳彦だったが、すぐさまある異変を感じ取った。前方から、なぜかもうもうとした熱気が漂い、シャカシャカと小さな奇妙な音が聞こえてくる。
(おかしいな。普通は風呂って、湯の温度を下げないよう、蓋を乗せてるはずなんだけど。それに何だ、この変な音は?)
小首を傾げながら桶を探そうと身体を屈めた瞬間、電灯がパッとつき、芳彦は心臓が止まりそうなほどの衝撃を受けた。
なんと湯船の中に、夏美が入っていたのである。