「う……うあ」
「ンっ! ンぅぅぅぅう!」
莉奈のヒップが小刻みに震えはじめたと同時に、芳彦も腰をひくつかせた。
(だめだ! もう我慢できないよぉ)
最後の攻撃とばかりに、唇を窄め、ピンク色の小さな尖りを目一杯吸い上げる。
「はぁぁぁぁ、イク……ンっ!」
莉奈が口からペニスを抜き取り、絶頂の扉を開け放つと、芳彦も鈴口から濃厚なマグマを放出させていた。
3
莉奈の家を後にした芳彦は、ボーッとした表情で帰宅への道のりを歩いていた。
うれしいような、何か気が抜けたような、何とも複雑な心境を覚えてしまう。
(ボーイズラブにはちょっとびっくりしたけど、ホントに莉奈先輩とエッチなことしちゃったんだよな)
射精したあと、精液は莉奈の口元から頬へと大量に降り注いだ。
莉奈はすぐさま洗面所へと飛び込み、芳彦は仰向けになったまま、荒い吐息をつくばかりだったのである。
冷静さを徐々に取り戻すと、芳彦はすぐに後悔することとなった。
なぜ莉奈と結ばれるまで、我慢できなかったのか。しかも精液を顔にかけてしまうとは。
怒っているのではないか。もう二度と会わないと言い出すのではないか。
最終的には、君江のレクチャーも役に立たなかったことになる。
二度放出していれば、さすがに気持ちの余裕はあるに違いない。そう考えた芳彦だったが、莉奈は洗面所から出てくると、まったく表情を変えないまま、「芳彦君、もう帰って」と、冷たく言い放った。
がっくりと肩を落とし、服を着た芳彦は莉奈にペコリと頭を下げ、沈痛な面持ちでその場を後にしようとしたのである。
「明日の放課後、もう一度だけ来て。ママは明後日帰ってくるから」
そう言われたときの喜びを、なんと表現したらいいのだろう。
莉奈が何を考えて誘いの言葉をかけてきたのか、その真意まではわからなかったが、いずれにしても彼女ともう一度会うチャンスは確保できたのである。
(莉奈先輩とは初めてだったから、つい昂奮しすぎちゃったんだな。今度こそ、うまく立ち回らなきゃ)
まるでスキップをするように足を弾ませた芳彦だったが、夏美の家が見えてくると、一転して顔色を曇らせた。
「あ、そうだ。昼間は夏美を残して、莉奈先輩の家に行っちゃったんだっけ!」
神社を後にしたときの、頬をプクッと膨らました夏美の顔が思い出される。
(困ったなぁ。あの調子だと、まだ怒ってるだろうし。相当機嫌が悪いはずだぞ)
恐るおそる玄関の扉を開けると、リビングからパタパタと夏美の足音が聞こえてくる。
一瞬、肩を竦めた芳彦だったが、玄関口に現れた夏美の顔は予想とはまったく違っていた。
服装はすでに浴衣から普段着へと変わっていたが、ニコニコと満面の笑みを浮かべている。
「おかえり。今、料理作ってたの」
「え?」
「芳彦の大好きなハンバーグだよ」
「な、夏美が?」
「そうだよ」
芳彦は、思わずポカーンとした顔つきをした。
夏美は家事全般が大の苦手で、もちろんこれまで料理などを作ったという話は一度も聞いたことがない。
「ちょうどこれから焼くとこだから、早くリビングに来て」
「う、うん」
機嫌がよかったのはいいことだが、これはこれで気持ちが悪い。
芳彦は狐につままれた顔つきで玄関口へと上がったが、次の瞬間、夏美は眉を顰め、小鼻をひくつかせた。
「芳彦……友達と会ってたって言ってたよね?」
「う、うん」
「誰と会ってたの?」
「だから、昔の友達だって。夏美の知らない子だよ」
「女の子?」
「お、男に決まってるでしょ」
夏美の顔は一瞬にして、険しい表情へと変貌している。芳彦が内心ビクビクしていると、夏美ははっきりした口調で言いきった。
「変な匂いがするよ」
「えっ?」
芳彦は心臓をドキリとさせた。
(そ、そういえば君江さんも、保健室で精液の匂いに気づいて、オナニーしたことがバレちゃったんだっけ)
莉奈との淫らな行為のあと、芳彦はシャワーも浴びずにその場を後にした。おそらく、彼女の体臭や精液の臭いが自身の身体から漂っているに違いない。
「誰と会ってたの?」
夏美の眉尻がみるみるうちに吊り上がり、突き刺すような眼差しを浴びせてくる。
「な、夏美には関係ないでしょ」
芳彦は額に脂汗を滲ませながら、疑惑の視線から逃れるように洗面所へと向かったが、夕食時はまるで針の筵状態だった。
夏美は芳彦とは顔を合わせようともせず、あからさまに身体を真横に向けているのだから、すぐさま百合子に異変を気づかれることとなった。
「あなたたち、また喧嘩したの?」
百合子の問いかけに答えることもできず、ただ黙々と箸を動かすだけの芳彦だったが、もちろんハンバーグの味などわからない。
食事を済ませると、芳彦はそそくさと自分の部屋へ戻ったのである。
4
その日の深夜、就寝中の芳彦は異様な気配を感じた。
全身がずっしりと重く、まるで巨大な岩に押し潰されているみたいだ。
(何だ? 身体が動かない)
うっすらと目を開けると、いつの間にか照明が煌々とつけられ、掛け布団も剥がされている。
「あっ!」
腹の上に腰を落としている夏美の姿を捉えた瞬間、芳彦は驚きの声をあげた。
すぐさま起き上がろうとしたものの、両手は荷造り用の麻紐で縛られ、重厚な作りのテーブルの脚へと括りつけられている。