(ああ。君江さん、あのページを見て、どんな風に考えてるんだろう。なんていやらしい子供だと思っているんじゃ)
あまりの羞恥から芳彦は忸怩するばかりだったが、君江の目は徐々に妖しい光を帯びはじめ、乾いた唇を潤すように、ぷっくりとした上唇を舌先でなぞり上げた。
「はぁ、なんか暑いわねぇ」
片手で胸元を広げながら豊満なバストを見せつけ、くっきりとした胸の谷間からは甘い芳香が漂ってくる。
ムッチリとした太股が視界に入ってくると、芳彦は本能の赴くまま股間をジンジンと疼かせた。
「こういう物を見て、一人エッチしてるんだ?」
君江はポルノ雑誌を広げたまま、芳彦の眼前、テーブルの端へと置く。
そこには美しい金髪女性が、にこやかな笑みを浮かべながらソファーに腰掛け、傍らに座った男の巨根を手でしごいているシーンが映し出されていた。
しなる怒張の先端から、大量の精液がこれでもかと、まるで噴水のように噴き上げている。そしてとなりのページには、同じ女性が白濁液に塗れたペニスを舌で舐め取っている淫らな写真が掲載されていた。
火がついたように、全身がカッと熱くなる。腋の下から、汗がどっと溢れてくる。
芳彦は股間を隠すように両手を太股の上に置き、すぐさま雑誌から目を逸らした。
「し、してないです」
「え? どういうこと?」
「実はその本は、昔の友人が引っ越しをするんで、一時的に預かっているだけなんです。親に見つかったら処分されちゃうからって」
「それじゃ、芳彦君はこの本を見てないの?」
「そ、そりゃ、興味本位でパラパラとは見ましたけど、気持ちが悪くなったので途中でやめました」
「ふ~ん」
君江は真横に立つと、さらに身体を近づけ、芳彦の肩に当たりそうなぐらい密着してくる。
横目でちらりと見遣ると、ぷるぷると震える太股が瞳に映り、芳彦のペニスはパンツの中でグングンと鎌首を擡げていった。
(あぁ、やばい、やばい。鎮まれ!)
年頃の少年だけに、一度タガの外れた性欲を自制することはできない。芳彦が下唇をギュッと噛み締めると、君江は再び甘ったるい声を放った。
「ホントかしら? 今芳彦君の頭の中には、この本のエッチなシーンが浮かんでるんじゃない?」
「そ、そんなことありません」
頭を軽く左右に振った瞬間、君江の上半身が前屈みになる。その直後、芳彦は目を大きく見開いた。
「じゃあ、これは何?」
「あ!」
なんと驚いたことに、君江は芳彦の股間に人差し指を突き立ててきたのである。
浴衣越しとはいえ、異性が自分の性器に手を触れている。その事実に、芳彦はただ呆然とするばかりだった。
すでに心臓の鼓動は早鐘のように鳴り響き、胸のあたりがもやもやしている。まるで熱い鉛を呑み込んでいるかのようだった。
(嘘だろ? まさか君江さんが)
君江はそんな童貞少年の様子を窺うように、下から芳彦の顔を覗き込んでくる。
「この本見ながら、一人エッチしてるんでしょ? 正直に話したら、いいことしてあげるんだけどな」
「え?」
それは十七歳の少年にとって、甘美ともいえる誘いの言葉だった。
(いいことって、いったいどんな?)
それこそポルノ雑誌で目にしたような、男と女の様々な痴態が走馬灯のように脳裏を駆け巡る。
ひょっとすると、君江相手に童貞を捧げることも十分考えられるのではないか。
童貞喪失を最大目標に、ひと月もの間海の家でバイトをしていた苦労は、いったい何だったのだろう。
そう思いながら、芳彦は生唾を呑み込んだ。
「さあ、正直に言ってごらんなさい」
人差し指でツンツンと股間の膨らみを突かれるたびに、下腹部に甘い電流が走り抜ける。
「は、はい。してます」
芳彦は顔をゆでダコのようにしながら、無意識のうちに返答していた。
「やっぱり。どうして嘘をつくの? オナニーすることは、決して恥ずかしいことじゃないって言ったでしょ?」
「そ、それは……どうしても言いづらくて」
「いけない子ね。たっぷりお仕置きしてあげないと」
「え?」
お仕置きという言葉に過敏に反応した芳彦が顔を上げると、君江はことさら好色そうな顔つきを見せる。そして白魚のような指で芳彦の浴衣の帯を抜き取り、前合わせの部分をそっと開いた。
(あぁぁ! 恥ずかしいよぉ)
トランクスの股間は、物の見事に大きなマストを張っている。しかもその中心部は先走りの液が滲み出し、一円玉大の丸いシミさえ作っていた。
「さあ、腰を浮かせて」
あまりの昂奮と緊張で、頭の芯がボーッとしている。まるで夢魔に魅入られたように、芳彦は言われるがまま腰を上げていた。
君江の両手が、パンツの縁に添えられる。人妻の瞳が、獲物を狙う獣のような煌めきを見せる。
芳彦が腰を微かにくねらせた直後、トランクスは膝上まで一気に引き下ろされていた。
勃起したペニスがぶるんと弾け、芳彦の下腹をペチンと打つ。
「あら、すごい」
君江はまるでおもちゃを与えられた子供のように、無邪気そうな声をあげた。
「びっくりした。芳彦君の、大きいわぁ」
そう言われても、他人と比べたことがないので、自分のペニスがどれほどの大きさなのかはわからない。それでも褒められたことがうれしくて、芳彦は心をウキウキとさせた。
「うちの旦那のと、ほとんど変わらないんじゃない」