万引き女子学生調教医療

メール本文は「面白い画像を入手しました。感想をお聞かせください」というごく短い文面で、ある意味、人を喰っていた。

わなわなッ、ぶるぶるッ。

目もくらみそうな怒りに全身を震わせながらも、最後まで動画を視聴しおえた、せずにはおれなかった下呂井はすぐさま、伊東に電話を入れた。メールを送り、その返事を待つなどという、悠長なまどろっこしいコトはできなかった。

「貴様、どういう料簡だ?」

相手の確認もそこそこに、下呂井はいきなり、頭ごなしに怒鳴りつける。

『まあまあまあ、感想はどうです? 下呂井サン』

伊東のヘラヘラ笑いを思い浮かべて、下呂井はこめかみに血管が浮かぶのを自覚する。下呂井は直截的にずばり尋ねた。

「何が望みだ?」

そう言うと、伊東は待ってましたと、ウキウキと返事してくる。

『いやあ、下呂井サンと付き合っている、その、「小雪ちゃん」とかいったかな? のコスプレ撮影をさせてほしいんですよ』

「断る」

聞いた瞬間、尋ねる前から返事を決めていた下呂井は言下に拒絶する。

そう、峻拒しながらも、下呂井はすでに妥協点を探っていた。

伊東のやりようは陳腐ではあったが、効果的だった。

『断れば、下呂井に送りつけた画像データ、小雪と行ったSMプレイをネットに流す』

そう言うに決まっていた。

そして、案の上、伊東はそう言ってきた。

しかし、それに対する対処も昔ながらに決まっている。すぐに警察に行くことだった。そうすれば、他人のSEXシーンの画像データなどというモノは持っているだけで、入手の方法を含め、犯罪の証拠になるのだ。

そんなコトを言いつつ、そして万一の時には、先ほど立てた最も神聖な、自分自身に対する誓い──この身に代えても、白瀬小雪を守りぬく──に殉じるべく、下呂井は伊東と粘り強く交渉を行った。

どうやら、伊東は、伊東一人ではなく、伊東たちのグループ、なんでも『コスプレ写真愛好倶楽部:ファイン』と名乗っているグループが、女の子に様々なコスプレをさせて撮影会を開いている活動の一環として、小雪をモデルに使いたいようだった。

参加しているメンバーの結構な人数に逆に下呂井は安堵した。

大人数であればあるほど、そこに良心的な人間がいる可能性が高まり、犯罪に走る可能性は減ると考えたのだ。

(だから、どんなに精緻で巧妙な完全犯罪でも、関わる人間が多ければ多いほど、発覚する可能性はハネあがる)

それからなおもすったもんだの話しあいの結果、小雪をモデルにした、彼女を西洋中世のお姫様にした、絶対に『エロくない』コスプレ撮影会を、ただ一度開くことで了解したのだ。

下呂井としては自分自身のコトは、さておくとして小雪を守るべく、譲れるところは譲りながら、伊東との妥協が成立した。

①伊東は、不当不法に入手した、下呂井と白瀬小雪との交愛シーンの画像データを公開もしないし、他人にも渡さず、伊東の手元にも残さず、下呂井に引き渡す。

②下呂井は、小雪が伊東の主催するコスプレ撮影会のモデルになるよう、努力する。

③その撮影会は、一回のみであり、4時間を限度とし、性的な、あるいは性欲を喚起するモノではけっしてない。

以上を骨子とした契約だった。

こうして、下呂井は小雪を気の進まぬコスプレ撮影会に、モデルとして出演するよう説得するハメになった。

当然、小雪は最初はイヤがり、次に渋り、ためらったが、最後は下呂井の説得を受け入れてくれた。下呂井が「ボクもいっしょに行って、絶対にキミを守る」と繰り返し繰り返し約束したのと、コスプレの内容が西洋のお姫様だと聞いて、小雪は心動かされ、ついには折れてくれた。

『ゴメン、でもボクの顔を立ててくれ』

そう言って拝み倒したのだ。

もちろん、『伊東という男に、キミとの看護婦姿のコスプレ医療の現場を撮影されて、脅されている』などと、少女を不安がらせるようなコトは一言たりとも口にしなかった。

そんなコトを言わずとも、下呂井が「キミのコトは責任を持つ」とはっきり誓った効果の方が大きい。小雪に、「キミに施した、銅付加IUDによる、避妊手術は完璧なモノじゃないんだ」と打ち明け、驚く小雪に「2~3%くらい、避妊に失敗する可能性がある」と告げ、「もし、妊娠したら、責任をとるつもりだ」「キミさえ、イヤでなければ、いつでもキミのお父さんとお母さんに挨拶にいくつもりだ」「キミさえよければ、キミをずっと、一生治療してあげたい」と告げたのだ。

下呂井が真顔でそう告げると、小雪は「嬉しい」と下呂井の胸に飛び込んできて、泣きじゃくってくれた。

『キミの人生に責任を持つ』

『一生、寄り添っていきたいし、寄り添ってほしい』

そう告げる下呂井オトコが小雪に危害が及ぶような、危険な目にあわせるハズがないと考えるのは当然であり、ごく自然な成り行きだった。

しかも劣等感コンプレックスになるほど、あこがれだったお姫様の衣装コスチュームをつけ、その真似ができるとあっては、受けざるを得なかった。

お姫様を夢見る小雪シンデレラ・シンドロームの少女からすれば、「一足早い、結婚衣装ウエディング・ドレス♡」 そう考えてしまうのも、ごく自然な成り行きだった。

…………そんなこんな、様々な考えを巡らせる下呂井の前で『コスプレ写真愛好倶楽部:ファイン』に所属する男どもは、下呂井が「自分の命に代えても守らなければならない、愛と忠誠の対象である姫君、小雪姫プリンセス・リトルスノーをお姫様に見立てて、かりそめの忠誠を誓い、その様子を写真におさめていく。