万引き女子学生調教医療

ぱしゃッ、かしゃぱしゃしゃッ。

撮影スタジオを午後からの数時間借り切ってする、撮影会は順調に予定スケジュールを消化しているように下呂井には思われた。

(お姫様の衣装も、それになにより、大げさな貴族の格好をした大人数の手配なんてボクにはできないからな)

少しでも積極的に考えようと、下呂井は思った。

芝居とはいえ、キチンとした正装の大人数の男たちにかしずかれ、お姫様扱いされると、女性というモノはそんな振る舞いを身に着けていくモノらしい。

小雪はいつもより背筋が伸び、胸のふくらみさえ、いつもよりあるかのように感じられる。

「可愛いよなあ、彼女」

伊東のため息交じりの讃嘆に、下呂井は腕組みをし、緊張をとかないまま、うなずいた。しかし、わずかだが、目尻が下がり、口許が緩むのはどうしようもなかった。

下呂井は気を引き締めて、隣にいる伊東に、今日だけでも三十回近くになる言葉を繰り返した。

「約束は守ってもらうからな」

これ以上の妥協はしない、今日限りのイベントコスプレだと、頑なな態度を全く崩そうとしない下呂井の様子に伊東も呆れた。

頭を振りながら、下呂井に話しかける。

「……下呂井サン、ホントに、彼女のことが好きなんですね。将来結婚するつもりなんですか?」

明らかに年齢差や、下呂井と小雪のアブノーマルな性行為などを知った上で、『どうせ本気じゃないんでしょう?』『今はのぼせあがっているけれど、いつかは別れるつもりだし、別れなきゃならないって、考えているでしょう』という、からかいややっかみ、さらには『アナタだけ、都合のよい女の子=肉奴隷を手に入れていいですね』『ボクたちもお相伴に、おこぼれにあずからせてくださいよ』という下賤な思いを下呂井は鋭敏に感じ取っていた。

だから、

『余計なお世話だ』

『そんなコト、考えていない』

そう言おうとした下呂井が口にしたのは、下呂井自身思いもかけない言葉だった。

「……運命が許してくれるのならね」

──!!!──

控えめな物言いに、確固とした決意を感じ取った伊東は吃驚した様子だった。本当に眼を丸くしていた。

そんな伊東を気にも留めずに、下呂井は小雪とその周辺に注意を払っていた。だから、伊東が後ろからやってきた、『マンティス司祭』なる聖職者の格好コスプレをした若い男と小声で話しあっているのに気付かなかった。もし、気づいたとしても、無視していたであろう。

コスプレ撮影会は二巡目。小雪を理想の姫君に見立て、様々な忠誠を誓い、また認証をされている。騎士ナイトクロコダイルが、小雪の前にひざまずき、長い剣を逆向きに差し出す。

騎士ナイトクロコダイル、プリンセス・リトルスノーに忠誠を捧げます」

すると、進行役を務める、けばけばしいまでに派手な典礼官の格好コスプレをしたタートル侍従が小雪にそっと耳打ちをする。その言葉アドバイスに従い、小雪は差し出された剣の柄を握って、深くこうべを垂れた騎士クロコダイルの肩を剣の平で三度軽く叩く。

騎士ナイトクロコダイル、貴君の忠誠は、プリンセスに嘉納された。これから忠勤に励むよう」

「はッ。有難き幸せに存じます」

いかにも芝居じみた動作だったが、繰り返されるうちに洗練され、する者もされる者も、その場の雰囲気に慣れ、だんだんとそういった気分になってくる。

そこまではよかった。そのうち、一人が忠誠のあかしにと、小雪の手の甲に口づけキスを許してもらいたい、と願い、小雪がそれを受けOKしてから、その場の雰囲気というよりも、小雪の様子が変わってきたのだ。

(ヤバイ)

純白の長手袋ロング・グローブを脱ぎ、差し出した白くなよやかな手の甲に口づけキスされてから、小雪の雰囲気が変わってきたのを下呂井は敏感に察した。

一人が願い出て、許されると、我も我もと続いた。

手の甲であるとはいえ、可憐な少女の素肌に直に口づけできるのだ。前に口づけした野郎との間接キスになろうとも、着飾ったオトコどもは構いやしなかった。

一人、二人、三人。

次から次へと『忠誠の接吻キス』を受け、小雪の白い、名前の通り、真っ白な頰がわずかにだが紅潮してきて、目が潤んできはじめる。赤い唇が濡れ、妖しげな光沢を放ちだし、さらには、微笑みながら、脚を組み替えた。

明らかに発情の兆候だった。

おそらく小雪の下着パンティは湿り始めているに違いなかった。

下呂井は腕時計を見た。

約束の時間にはいささか早く、少女の限界までまだ間があるが、下呂井は撤収を決意した。

そして隣りにいる伊東に告げる。

「もう、そろそろ時間だ。ちょっと早いがコレで終わりにさせてもらう」

後は、全員揃っての集合写真記念撮影くらいにしてもらおうと考えていた下呂井に、マンティス司祭と話しあっていた伊東は哀しげな表情を作った。

「下呂井さん」

そう言うと、心底申し訳なさそうな声を出した。

「ごめんね」

「?」

伊東の言葉の意味を測りかねる下呂井の首筋に、固いモノが押し当てられた。

ばちぃッ!

「はぐッ!」

頭の中で火花が爆ぜ、下呂井の意識は途切れ、その場にくずおれた。

どさッ。

異様な物音と気配に小雪はお姫様の笑みを浮かべたまま振り返った。

──!!!!──

そこには、純白のタキシードを着こんでいた、下呂井が倒れていた。