その拍子に大粒の涙がこぼれた。
ぶるぶるッ、がたがたたッ。
小雪は自分の小さな体が大きく小さく波打つのを感じながら、胸の奥で一人言ちる。
(……私は本を一冊万引きしたのが露見しないように、自分自身の肉体と貞操を差し出すんだわ)
(これで、憧れの、穢れのないお姫様が、大した罪もないのに魔物たちに犯されるのと同じ境遇になれるんだわ)
歪んだヒロイズム、倒錯したお姫様願望に陶然と酔い痴れる小雪を抱きしめながら下呂井が小雪にとって決定的とも言えるセリフを吐く。
「そう、キミがボクに抱かれさえすれば、誰にも知られずに済み、お父さんやお母さんも悲しまなくてすむんだよ」
──!!──
がくがく。
果たして効果は覿面だった。
「……わたしさえ、犠牲になれば、誰も、お父さんも、お母さんも悲しまなくて済む……」
『両親を悲しませずに済む』という目的は少女のヒロイズムを甘酸っぱく擽り、破滅さえもいとわぬ、いや嬉々としておのが身と運命を差し出す自己犠牲を促す免罪符だった。
(堕ちたな)
下呂井はそれ以上のことは何も言わずに、机の上のカップや調味料やナプキンなどを入れたトレイを手早く片付け、言葉によらず、動作で導いて、小雪を机の上に仰向けに寝かせる。
「…………」
もはや何も言おうとせず、小雪は下呂井のなすがままに身を任せていた。可憐な女子学生の、華奢な肢体が談話喫茶の個室、その密室の空間に置かれている机に上向きに寝そべっていた。小雪の体は小さかったが、それでもそのすべてを机の上に乗せることは不可能だった。幅50センチ、長さ1メートルほどの四角い机の端から膝から下は完全に、落ちてしまっている。清芳学園の制服であるミニスカートの、黒と白のタータンチェック柄と黒いニーソックスの間にある小さな膝小僧が何とも言えず愛らしく、また可憐だった。
「あああ……」
顔をそむけ、呻くだけになってしまっている女子学生を前に下呂井は上着を脱ぎ、ネクタイを外した。
「キレイだ。本当にキミはキレイだよ」
少女の美しさ、可憐さを讃嘆するように下呂井は言い続ける。
「なぜ、自分を『キレイじゃない、可愛らしくない』って思い込んでいるのか、まったくわからないよ」
下呂井は小雪が着ている濃紺のブレザーのボタンを外し、胸前を左右にはだけた。そして学年を示す、真紅の細いネクタイをほどき、真っ白なブラウスのボタンをはずしにかかる。
「……イヤ」
少女の言葉に下呂井の手が止まる。
次の動作に戸惑う男性教師に女子学生が顔を、真っ赤に染まったあどけない面差しをそむけたまま、つぶやく。
「や……ン……やっぱり、恥ずかしいんです……ッ」
処女の言葉に下呂井は破顔する。そしてすぐに表情を引き締める。
「でも、キミは罰を受けなくちゃあ、いけないんだよ」
下呂井の優しく諭すような言葉に小雪はこっくりとうなずいた。
「そ……ッ、それは……ッわ……ッ、わかっています……ッ」
「それじゃあ、おとなしくしているんだよ」
「はい……ッ」
小雪はうなずき、囚われのお姫様の心境を思いやり、自分自身に重ねる。
歪んだヒロイズムに酔い、抵抗をやめた小雪に下呂井が手と体を動かし始める。
純白のブラウスの胸前をはだけ、
「あ……ッ」
現れた可愛らしい、刺繍もフリルも柄もなく、飾り気のない、淡い肌色をしたBカップブラジャーの間に顔をうずめた。
「キレイな、可愛らしい乳房だ」
すりすり。
下呂井は、顔を少女の小さな胸の間にうずめ、頰ずりをする。
「本当に可愛らしくて、キレイだよ」
そう言った後、下呂井は少しだけ身を起こし、少女の胸を締め付けていたブラジャーのフロントホックをはずした。
ぷるんッ。
少女の小さな乳房が所有者の若さが弾けるかのようにして現れる。
真っ白な、それこそ少女の名前通り、純白の雪に覆われた丘のようななだらかなふくらみの頂きで、淡い紅色をした尖端がちんまりと縮こまりながら震えている。
「本当にキレイだ」
不意に下呂井は目元だけでなく、言葉までが涙で湿りかけてしまうのを感じた。
下呂井は自分の動揺を悟られないためにも、少女の華奢な肢体に自分の体を覆いかぶせる。そして少女の細い骨組みをした鎖骨から首筋へと唇を滑らせる。
ちゅッ。ちゅちゅちゅッ。
「本当に食べちゃいたいくらいだよ」
讃嘆だけでなく、感謝の気持ちをこめた、淡い口づけを繰り返しながら、ささやく下呂井の言葉に少女のきめ細かな、白い肌が細かく、静かに震える。
ぶるぶるッ。わなわな。
「……あああ、わたし、ホントウに、食べられちゃうの?」
その言葉は、不安や恐怖を表しているのではなく、期待のはっきりとした表明であり、さらに言ってしまえば、誘いですらあった。
ちゅッ、ちゅちゅッ。
下呂井は少女の絹のような素肌を味わいながら、ズル賢そうな嗤いを閃かせた。
「そうだよ、キミは、白瀬小雪チャンは、とっても魅力的で、可愛らしくって、キレイなもんだから、偶然万引きしたのを目撃した卑劣な男性教師に脅かされ、誰からも『ゲロキモ』と忌み嫌われているボクに犯されちゃうんだよ」
そこまで言いさした時、下呂井は思いついて、言葉をつないだ。
「そうだよ、まるで、あまりにも魅力的なので、悪者たちに誘拐されたお姫様みたいにね」