(そうなったら、この娘に対する監視も万全になるし)
(うまくいったら、この娘以外のさらなる贄が手に入るか、入りやすくなるかもしれないのになあ)
などと考えていたのに、
(すべておじゃんだ。そんなのはあきらめないといけないな)
そして、
(しかし、その分、この少女を徹底的に味わい、しゃぶりつくさないとな)
(いたぶり甲斐がありそうだ)
と目の前にいる少女、小雪姫に、舌舐めずりしていた。
伊東は自分の優位を確かめるようにおもむろに口を開いた。
「……そうおっしゃるからには、それなりのお覚悟がおありでしょうな、小雪姫?」
このコスプレ撮影会限りであるハズの呼び名を繰り返す。その瞳は昏く、危険な光が宿っていた。
びくッ。
乱暴に縄がけされ、両脇から男二人に押さえつけられた、純白ドレスを着た小雪の肢体が大きく、小さくわななく。
小雪は怯えていた。
「……センセエには手を出さないと、約束してくれるのなら」
少女の健気な返答に伊東はにんまりと嗤った。
不格好なヒキガエルが笑ったら、こんな顔になるのではないかと思われる、不気味な笑顔だった。
「OK、契約成立だ」
撮影に使ったソファに引き立てようとするのを、小雪が涙声で制した。
「そ……ッ、その前に……ッ、その前に、センセエを、下呂井センセエを手当てしてッ!」
ぴゅ──ッ。
誰かが口笛を吹いた。
「麗しい、姫君と臣下の紐帯ですな」
「でも、大丈夫ですよ。彼はコイツで気絶しているだけですよ」
そう言って、クラゲの被り物をした男が、スタンガンをかざした。
──!!──
「ひょっとしたら、もう目が覚めていて、体が動かせないだけかもしれませんよ」
──!!!──
短い間に二度慄然とした小雪は、涙声を絞り出した。
「……そ……ッ、それなら……ッ、それなら……ッ、彼を……ッ、センセエを別の場所に……ッ、別の部屋に移してください……ッ、お願いです……ッ」
『愛する男性に、別の男性に犯されているところなど見られたくない。聞かれたくない』
本当に膝を折って懇願する、王女然とした女子中学生に、伊東は冷たく言い放つ。
「その儀はご勘弁つかまつります、小雪姫」
「な……ッ、な……ッ、なぜ……ッ? なぜなんですか?」
本気の涙で問いかけてくる、理想の姫君、小雪姫の姿に嗜虐の想いを募らせて、背筋をゾクゾク震わせながら、伊東は口を歪めた。
「そのような手間をかけている暇や人手はないからですよ。それに」
伊東はカエルがおのれの大きさを誇示するために腹をふくらませるかのようにそっくり返った。
「何より、愛し麗しの姫君が、自分の前で他の男に犯された時、その者がどうするのか、そしてお姫様がどう反応するのか、見たいからですよ♡」
──!!!!──
自分の、自分たちの悪辣外道ぶりを高らかに誇る伊東の言い様に、小雪は背筋を凍らせた。
「あ……ッ、あなたは……ッ、あなたたちは……ッ、ホントウにヒトじゃない……ッ! 絶対に人間じゃないわ……ッ!」
顔色を変えてそう非難する小雪姫に、フロッグ侯爵=伊東はまたもや恭しく頭をさげてみせる。そして冷たく、薄っぺらい笑顔を貼りつけたまま、軽く言ってのけた。
「はい、左様でございますとも、小雪姫。先ほど申し上げましたように、私どもは人間を辞めたのですよ♡」
(それもこれも、キミを、抱きたい、犯したいからだよ♡)
伊東は最後の胸の裡の言葉を口にしなかった。
ぶるぶるッ、わなわなッ。
あまりと言えばあまりな、伊東の弁明に絶句し、どうしてよいかわからぬままに全身を震わせる小雪に、危険な兆候──例えば、発作的な自殺──を感じ取った伊東は妥協案を示す。
「ただ」
ぴくッ。
藁にもすがる思いの小雪の表情が動く。
「そこまでおっしゃるのであれば、彼に耳栓や目隠しをして、何が起こっているのかわからないように工夫してさしあげてもようございますよ、小雪姫」
小雪のことを『小雪姫』と呼ぶ時の、素肌にまとわりつくような粘着感が気持ち悪くて仕方がなかったが、小雪は悄然とこうべを垂れた。
「……そうしてください……ッ」
(堕ちたな)
そう思いつつも、伊東は少女をきっちりと追いつめていく。
「その代わり、ボクらには絶対に逆らわないでくださいよ」
こくっとうなずく小雪に伊東は念を押す。
「もし、さからったりしたら、彼が痛い目にあいますからね」
純白のお姫様ドレスから剥きだしになっている、小雪の白くて小さな肩がびくっと震えた。
「……わ……ッ、わかりました……」
うなずくより他にない、その頰を大粒の涙が伝い落ちる。
──美しい──
その場にいる誰もが心を打たれていた。
生まれながらの王女を思わせる、可憐な少女の健気な立ち振る舞いに淫らにココロを動かされ、股間のモノを滾らせながら、伊東は仲間に命じる。
どうやら、この場の主導権を伊東が握ることについては、彼ら『コスプレ写真愛好倶楽部:ファイン』の中であらかじめ合意ができているようだった。