万引き女子学生調教医療

「……なッ!?」

伊東の言いように、小雪は二の句が継げない。

しかし、言葉遊びしている段階ではないと、悟ったようだ。

気絶している下呂井に「センセエ、ちょっと待っててくださいね」と小さくささやいたかと思うと、身を翻して脱兎のごとく駆けだした。小雪が目指したのは当然、この貸しスタジオの出入り口であるドアだった。

「追えッ!! 逃げられたら、オレたちはおしまいだぞッ!!」

小雪の狙いを悟って、伊東は青ざめ、仲間たちをけしかける。

着慣れない、また俊敏に動けるハズのない、お姫様ドレスであったが、少女の必死の思いが通じたのか、小雪は誰よりも早くドアにたどり着くことができた。しかし、そこまでだった、色んな気持ちの悪い変装コスプレをした男たちに追いつかれ、組み伏せられてしまう。

「イヤッ!! 触らないでッ!!」

群がりよる男どもに小雪は腕を振り、爪を立てて引っ掻いて必死の抵抗をする。

「面倒だッ! 縛っちまえッ!」

男どもの一人が縄を出してきて小雪を縛り上げようとする。

「イヤッ!! やめてッ!! イヤですッ!! 離してくださいッッ!!」

あらんかぎりの抵抗もむなしく、小雪は縛り上げられ、元いた場所に引き立てられてしまう。

しかし、小雪の死に物狂いの抵抗の甲斐があって男たちの衣装はさんざんな形になってしまっていた。頭部の着ぐるみのあちこちが破れ、歪み、壊れていた。キチンと頭の上に乗っていない、かぶれていないものまであった。首から下に着ている、せっかくの正装も何人も皺が寄り、擦り切れ、汚れてしまい、台なしになってしまっていた。

また、小雪にかけられた縄目もキチンとしたキレイなモノではなく、華奢な上半身をいびつに斜めに走り、小さな胸の膨らみにかかってひしゃげさせ、少女の抵抗の激しさをうかがわせるモノだった。

「まったく、手を焼かせるお姫様だ」

そう言って身だしなみを直しながら、伊東もその仲間たちも本気でそれほど怒っていない。その証拠に、縄を打たれる恥辱に、憤怒の炎を瞳に宿す、純白ドレス姫君の姿を三台ものカメラで撮影していた。

一方の小雪にとってはそんな撮影そのものが気に食わない。

『抵抗するなら抵抗してみろ』

『その精一杯の抵抗も、撮影しておいてやる』

『そして、後でみんなで鑑賞して笑いものにしてやる』

そう言われているように感じてしまうのだ。

(絶対に、アナタたちの思い通りになんてならないわ)

「………………」

燃え盛る真摯な怒りをあらわにする、少女の刺すようなまなざしに伊東は背筋を震わせる。

ぞくぞくッ。

(ふふふッ、素晴らしいッ。素晴らしいですよッ。 小雪姫プリンセス・リトルスノー

伊東は舌舐めずりをした。

(それでは、この質問にはどう返事してくれるかな?)

ぺろッ。

ぞくッ。

目の前で小雪よりも大きいカエルの化け物がした、獲物を見つけたような仕草に小雪は寒気を覚えた。

左右から二人がかりで押さえつけられ、いましめを受けている、純白衣装の少女に、伊東は口を開き、舌をひらひらと動かした。

「あんまり手を焼かせると、痛い目にあいますよ。小雪姫プリンセス・リトルスノー

そんな脅しにひるんだりする、今の小雪ではなかった。

「殴りたければ、殴ればいいじゃないッ! 乱暴したければ、乱暴を働けばいいッ! でも、心までは犯せないわッ!!」

この時、すでに小雪は自分のこれから先の運命を悟ってしまっている。ココにいる男どもは、よってたかって、小雪を犯し、その様子を撮影、記録して、脅すつもりなのだ。

少女の怒声を浴びて、伊東は背筋を震わせた。

ぞくぞくッ。

(ふふふッ、イイッ。ホントウに、貴女はいいッ! 素晴らしいッ。素晴らしいですよッ。小雪姫プリンセス・リトルスノー

そしてにたり、と嗤った。

ずぞッ、ぞぞぞぞぞぉッ。

小雪の背中を不吉な戦慄が悪寒となって駆け抜けていく。

小雪は目の前で、等身大の大型爬虫類に笑われたような気がした。

「私どもは、何も姫君に危害を加えるつもりはありませんよ」

伊東が冷たい笑顔を浮かべ、にこやかに話しかけてくる。

「ただ、お姫様があんまりオイタをすると、その身代わりに彼に痛い目にあってもらわねばなりませんねえ」

わざとらしく、伊東は傍らで気絶している下呂井に視線を送った。

──!!!!──

伊東の言葉に、小雪は心臓まで蒼白になった。

「せッ、せッ、センセエはッ、センセエは、もう、関係ないでしょッ! アナタたちが興味あるのは私なんでしょッ! 私をッ! 私を好きにすればいいじゃないッ!」

小雪の言葉の最後の方は、覚悟しているとはいえ、『好きでもない人間に、好きなイイようにもてあそばれる』『犯される』恐怖と不安におびえ、すくみ、涙交じりになってしまっていたが、『好きな男性に対する気持ち』が如実に表れていた。

「………………」

一方の伊東、その仲間からすれば、ありがたい展開であり、予想した通りの少女の反応であったが、或る意味で鼻白む思いがしていた。

(ちぃぃぃッ、コイツら、相思相愛かよッ)

それだけで充分にうらやましく、ねたみ、やっかむ対象だった。

他にも、

(もし、このが「好きにすれば」「その男など、どうなろうとも私の知ったことじゃないわ」「どうせ、下呂井カレだって元はアナタたち、キモヲタの仲間なんでしょ」とでも言えば、コトが終わった後で、その記録を下呂井サンに見せて、アナタが「自分の身に代えても」「守ってあげよう」とし、想っていた、「将来結婚したい」と考えている少女は、「アナタのコトを何とも思っていない」、身勝手な「どこにでもいる」〝肉の塊〟〝穴〟にすぎないのさ、などと説得して、あらためて自分たちの仲間に引き込み、共犯にしたてるつもりだったのになあ)