目の前にいる男性教師の雰囲気が変わったのも知らず、女子学生はなおも泣きじゃくり続ける。
「そんなコトはない。キミにはきっと、キミにはふさわしい、イイ男性が現れるよ」
下呂井は自分の胸の奥にしまっていた、ずっとしまったままにいるハズだった、暗い欲望を押さえつけるように腕組みしながら、少女の言葉を否定する。そんな男性教諭の葛藤も知らずに、女子学生はかぶりを振る。
ぶんぶん。
「ウソ……。そんなのウソよ……。だって、私、可愛くないし、キレイでもないんだもん……」
「そんなことはない。キミは可愛らしいし、キレイだよ。そして将来、もっとキレイに、美人になるよ」
ぶんぶんぶん。
小雪は力強くかぶりを振りたくった。
短いが、艶やかな栗色をした髪が揺れ、舞う。
「そんなコトない……。私、キレイじゃないもの……」
ぶつん。
下呂井は自分の肉体のどこかで何かが切れる音を聞いたような気がした。それは理性かもしれないし、人前にさらすことを避け、抑えつけていた欲望の箍かもしれなかった。
下呂井は立ち上がり、自分でも予想しなかった、できなかった速度と大胆さで、机越しに少女の頭を自分の胸に抱きすくめた。
──!!!──
突然の出来事に悲鳴も出せずにいる少女の耳に、下呂井がささやきかける。
「キミは本当に可愛らしくてキレイだ。魅力的だよ。二人っきりでいると、こうして襲いかかりたくなっちゃうほどね」
「…………」
ただ、ただ呆然とすくんでいるばかりの女子学生に下呂井は続けた。
「なんなら、このまま、本当に襲っちゃおうか?」
ピクンッ!
少女の華奢な体が下呂井の腕の中で跳ねたが、少女は抵抗したり、悲鳴をあげようとはしなかった。
ごくっ。
下呂井は固くなった唾を飲み込み、そして乾いた唇を湿らせてから、さらなる言葉を吐き出した。
「いっそのこと、このまま、ココで犯してあげようか?」
ぶるぶる。がたがた。
少女の体が震えていた。
下呂井は『やりすぎたか?』『いくらなんでも性急すぎたか?』と思ったが、少女はなおも悲鳴をあげようとせず、また、逃げ出そうともしなかった。
それどころか、小雪は呼吸を荒らげ、下呂井にもたれかかってくる。
今、小雪の脳裏にあるのは、可愛らしいお姫様がイヤらしい化け物に襲われて犯される、エロゲーであるような強姦場面だった。それは小雪が夢に見た憧れの場面だった。
「……今、……ココで……、センセイに……、襲われる……?」
小さくつぶやいた少女の口調に、畏れとともに期待が強くにじみ出ているのを下呂井は聞き逃さなかった。
「そう、キミは、あまりにも魅力的だから、可愛いから、キレイだから、ココでボクに犯されるんだ」
がくがく、がくがく。
下呂井の言葉に少女の肉体が小刻みに震えていた。それはまるでうなずいているかのようだった。
「ああ……」
果てるようにつぶやく少女に下呂井はなおも続けた。
「白瀬小雪は、あまりにも魅力的で、可愛らしく、キレイだから、偶然万引きしたのを目撃されたのをネタに強請られ、ボクに、みんなから『ゲロキモ』と忌み嫌われている、品性下劣な男性教師に犯されちゃうんだ」
「あああ……」
ぶるぶる、がたがた。
少女のわななきは止まらない。しかし、なおも小雪は叫んだり、逃げようとはしなかった。
万引きをネタにこの嫌われ者の男性教師に犯されると聞かされた小雪の胸は絶望で塞がる。しかし、その絶望には甘酸っぱいトキメキが伴っていた。
(私は、知り合いのおばさんの本屋で万引きした罰として、この、気持ち悪い、中年の男性教師に犯されて、処女を奪われちゃうんだわ)
(たかが、本一冊のために、人生を台なしにされちゃうんだわ)
ぶるぶる。わなわなッ。
(でも……ッ、でも……ッ、仕方がないんだわ……ッ)
(それが私の運命なんだもの……ッ)
今小雪が置かれている状況が、小雪が夢見る、魔物たちや悪漢に襲われたお姫様の窮地にぴったりと重なる。
それは歪みに歪んではいたが、ある意味乙女らしい感傷だった。
下呂井はもう一度小雪を抱きしめながら、愛らしい耳たぶに息を吹きかけ、同じ言葉を繰り返す。
「白瀬小雪というお姫様は、とっても魅力的で、本当に可愛らしく、キレイだから、万引きをネタに強請られて、学校中から『ゲロキモ』と蔑み、嫌われている、おぞましい男性教師であるボクに今からここで犯されちゃうんだよ」
「…………」
下呂井の言葉に少女はすぐにはうなずかなかった。やはりためらいがあった。しかし、もはやかぶりを振ったり、席を立って逃げ出そうともしない。
あと一言が欲しかった。
下呂井に抱きすくめられるままにじっとしていたが、ゆっくりと、おもむろに二片の花弁を思わせる唇を開く。
「……ま、万引きのコト、黙っていてくれますか?」
それは、下呂井に犯されることを許容する言葉であり、期待への表明ですらあった。
小雪の言葉に下呂井は少女の身体を抱きしめたまま、全身でうなずいた。
「ああ、もちろんだとも」
「……誰にも言わないでくれますか?」
「もちろんだとも、誰にも言ったりやしないよ。キミが体を差し出してくれるのならね」
下呂井が全身でそう答えるのを聞きながら、小雪は大きくうなずいた。