女探偵眞由美の誘惑事件簿

日が変わったら、この話題は蒸し返しづらくなる。ケリをつけるなら今だった。

「所長……俺はバイトとしてでなければ、あなたの役に立てませんか?」

もはや、真の想いを曝け出す他にない。

当人の弱さを指摘した直後で、卑劣だろうか。

そもそも心の準備をしていない以上、稚拙な言葉の羅列しかできそうにない。

にもかかわらず、語調はぐんぐん熱を帯びていく。

「俺は、俺はあなたが好きです。大好きなんですっ。恋してますっ。悶々としていますっ。まだ半人前以下の身ですけど、でも、所長が困っていたら力になりたいんです! この先もずっと! ずっと、ずっと! 何十年も未来までっ!」

告げたいことは沢山あるのに、後は言葉が続かない。

わななく彼の前で、女探偵は目を見開いていた。それから一分近く経った末、潤みかけたその瞳を、切なげに細める。

「吉尾君、ありがとう。君の気持ちはすごく嬉しいわ……。でも、私は弱いだけじゃなく、ずるい大人でもあるの。今だって、君に一つ『嘘』を吐き続けているのよ? 想ってもらえる資格なんて……ないんじゃないかしら……?」

──何ですか、そんなこと。

正太郎は怯まなかった。

眞由美が謎めいているのも、こっちを振り回すのも、今に始まったことではない。

そんなこと、自身を貶める口実に使わないでほしい。

だから、眞由美へ宣言だ。

「分かりました。なら、俺は自力でどんな嘘かを突きとめます。その一点から、所長を楽にしてみせますっ。上手くやれたら、本当の返事を聞かせてください!」

たとえば井上瑠実の父の時のように。見破ることと解放することが、同義の場合も多いのだ。

その気持ちが、多少は眞由美に伝わったらしい。

「……だったら、私から嘘の正体を言わなくていいの?」

「はいっ、俺が答えを見つけるまでは、今まで通りの関係でお願いしますっ。時間が空いたら法律の勉強を教えてください。気分が乗った時には、秘密の『勉強』もお願いしますっ」

「え、あ……そ、そっちの『勉強』も?」

「俺から踏み込まなければ、眞由美さんは遠慮して、距離を取りたがりそうです。そんなのは嫌ですっ」

ここまでのシリアスな雰囲気が台無しになりそうだったが、正太郎としては切実だ。

「もう……っ」

壁を作りかけていた女探偵の雰囲気が、いつも通りに戻った。

「私を名前で呼んだってことは、今もそういう『勉強』がしたいのかしら? 正太郎君?」

正太郎は勢い余っただけで、そんなつもりはなかった。しかし、せっかくなので大きく頷く。

「はいっ、眞由美さんさえ良ければ、ぜひ!」

純な想いと別に、股間も盛り上がってきて。

眞由美も目元を朱に染めた。

「だったら……今夜は『教材』を使ってみましょうか」

「教材?」

──それが何かは、五分後に判明した。

「ん……ぁ……ぁあ……や、これ……私の身体が……溶けてきちゃったみたい……っ」

「ええ……すごくヌルヌルですよ、眞由美さん……」

膝立ちになる正太郎の前で、眞由美は今、ハレンチな四つん這いだ。頭が青年の左側にあり、ヒップは右側。括れた腰は左側面を晒している。

しかも、一糸まとわぬ丸裸。

青年は頭を巡らせるまでもなく、女探偵の赤らんだ横顔と、ツンと突き上げられた尻肉の両方を見て取れる。少し身を傾ければ、肛門まで確認できそうだった。

ただし服を着ていないのは、正太郎も同様で。女探偵の媚態に、彼の肉棒は極限まで勃起していた。

二人は場所を、事務所の隣にある居住スペース──の浴室へ移している。

そして、眞由美が言うところの『教材』とは、早い話が大人の玩具。

──瑠実の家の地下に、色々な道具があったでしょう? 実はアレを見て、正太郎君に使われたらどうなるんだろうって……。通販で纏めて買っちゃったの──

眞由美はそんな風に言って、頬を赤らめながら、新品のいかがわしい道具を並べて見せた。

正太郎の逸物と似た大型バイブが一つ。モーター内臓のカプセルとスイッチをコードで繋ぐローターが二つ。

さらに用途不明のバイブ風スティックや、数珠みたいな紐まであった。

正太郎も驚かされたが、今までと違う方法で眞由美を鳴かせられると思うと、血が滾る。むしろ、導入で使うにはどれが適しているのかと、目移りまでしてしまった。

結局、彼が最初に選んだのは、ピンクのボトルに入ったローションだ。適量など分からないから、女探偵の上で思い切ってボトルを傾ける。

トロリと出てきた粘液は、透明ながらも粘っこい光沢を備えていた。広がり方も申し分がなく、一部は腰の裏の窪みに溜まり、残りは重力で引かれるまま、身体の横へ垂れていく。

動きはかなりゆっくりで、卑猥な軟体動物が女体を味わうみたい。

眞由美も柔肌をなぞられる感触が、新鮮だったらしい。何せ、声を裏返らせながら、『溶けてきたみたい』と言いだしたのだから。

正太郎はローションをかけ続けた。背中だけでなく、首筋も汚す。ヒップの曲線へも狙いを定める。

液体は、太腿、肩、腕、そこら中をギトギトしい光で彩った。果ては尻の谷間まで滑り込む。

「ふ……ぅ……ぁあっ!?」

両手を下へ置く眞由美は、自分から液を広げることも、堰き止めることもできなかった。無抵抗のまま、焦らすような速度へ己を委ねるしかない。