女探偵眞由美の誘惑事件簿

彼女はベビーベッドへ小走りに寄る。そしてデレッと甘い声を漏らした。

「ふわぁっ、やっぱり可愛いっ。前も言ったけど、ほんっと父親に似なくて良かったわよねっ」

「あら。私も前に言ったわよ? 父親似なら、優しくて頼もしい子になったはずだって」

「……ぐえー」

惚気と呻きの応酬に、部屋が和やかな空気で包まれる。

しかし、眞由美はすぐ我に返って言った。

「あなた、もう仕事へ戻らないと」

「そうだった。後はよろしくな。俺も出来るだけ早く戻れるようにするから」

「ふふっ、お待ちしていますわ。旦那様」

愛妻へ笑い返してから、正太郎は足元の鞄を取り上げた。

目標通りに弁護士となれた彼ではあるが、今は新しい夢が幾つもできている。

それは眞由美とのことだったり、子供とのことだったり。

だから。

今日の風景も、決してエピローグではない。

むしろ何十回目か、あるいは何百回目かの──プロローグなのだ。