恥辱の風習 捧げられた新妻

これからもこの人と幸せな家庭生活を送っていくのだ。

愛し、愛され、やがては子供を作り、幸せな家庭を作っていく。これからもずっと──。

決意したとたん、何の前触れもなく唐突に腰の奥が疼いた。

(嫌だ、何よこれ……?)

思わず両足の太ももを擦り合わせ、下半身をモゾモゾと蠢かせてしまう。陵辱はすでに終わったというのに、そこにはまだ卑劣な男の太いモノが挟まっているような不快感が残っていた。

(あれは不可抗力だったのよ。事故なんだから。早く忘れなきゃ……)

瑞穂はうつむき、強く唇を噛んだ。郷田に貞操を奪われてから、何度も自分自身にそう言い聞かせてきた。

だが、忘れられるはずがない。

家事をしていても、ふとした瞬間に昨日のセックスを思い出してしまうのだ。

性器の熱を、硬さを、太さを、反り返りを、張り出し具合を──。

そのすべてが瑞穂の膣に信じられないほどの快感の火を灯し、女の芯を燃え上がらせた。

理性や倫理では否定できない、圧倒的な官能。

記憶に刻まれたその感覚を打ち消そうと何度も首を横に振り、顔を上げる。

「……瑞穂、本当にどうかしたの?」

正一が先ほどのように怪訝な顔になって瑞穂を見ていた。

「な、なんでもないの」

顔をこわばらせながら慌てて取り繕う。最愛の男性に嘘をついているという罪悪感が胃の底に重くのしかかった。

「顔色が悪いよ。体調を崩したの?」

「え、えっと……その……」

「少し休むといいよ。そうだ、今日の夕食は僕が作ろう」

どこまでも優しい夫の態度が、かえって罪悪感を煽ってしまう。現実をあらためて突きつけられたような気分になるのだ。こんなにも愛情を注いでくれる男性を自分は裏切ってしまった、と。

「……瑞穂?」

気がつけば、夫は目を細め、眉間をわずかに寄せて、先ほど以上に不審そうな表情を浮かべて瑞穂を見据えていた。

(感づかれているのかしら……?)

心臓が凍りつきそうな焦燥感とともに、彼女はごくりと喉を鳴らした。

いや、焦っては駄目だ。バレるはずがない。

自分自身に言い聞かせ、速まる心臓の鼓動を抑える。

あの後、彩香にそれとなく探りを入れてみたが、郷田との間に起きた出来事に彼女が気づいた様子はなかった。

昨晩、郷田は仕事の取り引き先からもらったお土産を渡すために彩香の家を訪れたのだという話だった。そのとき、ついでに瑞穂とも少し話してから帰っていった──と郷田は彩香に話したそうだ。

だから瑞穂と彼さえ秘密を守れば、あのことは誰にも知られるはずがないのだ。

数日後。

「いやぁ、色っぽい人妻さんに酌をしてもらって幸せだのう」

稲盛村の村長を務めるますやましげぞうは瑞穂を前に相好を崩していた。

六十五歳という年齢相応の皺だらけの顔。頭頂部はほとんど禿げ上がり、側頭部にわずかな白髪を残すのみ。痩せた体にまとっているのは、黒系の羽織と着物、長襦袢という和装だ。

今日は村内の自治会主催による飲み会だった。

料亭を貸し切っての催しで、室内は早くも数十人の出席者による喧騒に包まれている。

この会は新たに村の住人となった瑞穂たちへの歓迎の意味も込めているとのことで、正一と二人そろっての出席となった。

「そ、そうですか」

会が始まったばかりだというのに、早くも酒臭い息を吐いている増山に、瑞穂はたじたじとなっていた。

「ささ、瑞穂さんもグーッと」

増山の視線は先ほどから瑞穂の胸元へと注がれ続けていた。

正面からは露出の少ないブラウスに隠れて見えない谷間も、上から覗きこむようにすればある程度目にすることができる。宴の席の熱気でわずかに上気し、うなじや乳房の上部の丸みはほんのりと赤く色づいていた。

さらに、何の遠慮もない好色な視線でGカップの双乳が作り上げる深い谷間をもじろじろと覗き込まれ、さすがに不快感を覚える。

すでに老人と言っていい年齢にもかかわらず、老いてなお盛んといった様相だ。良く言えば元気、悪く言えば好色なヒヒ爺といったところだろうか。

と──。

すすっ、と増山の皺だらけの指が瑞穂の太ももの上を這った。

「や、やめてください」

かすれた声で拒絶の意思を示して体を離す。

「おっとっと、手が滑ったわい」

なおも増山は体のバランスを崩したフリをしてにじり寄り、ボディタッチを敢行してきた。

指が、手のひらが、肘が、瑞穂の胸元や腰に不自然な角度で当たり、ぐりぐりと押しつけられる。

無遠慮な手つきがブラウスやスカート越しとはいえ新妻の女体を這い回っているのだ。夫以外の男に許していい所業ではなかった。

(やめてって言ってるのに。なんて懲りない人なの)

あまりにもあからさますぎるセクハラに、瑞穂としては怒りを通り越して呆れる他はなかった。

「いやぁすまんの、ひひひ」

村長はヒヒ爺そのものの笑みを浮かべ、彼女の拒絶っぷりを愉しんでいるかのようだ。

「……本当にやめてください」

瑞穂もさすがに表情を険しくした。

この村にずっと住んでいく以上、村長とは上手くやっていきたいと思うが、それにしても今のは許容できる限度を超えていた。

結婚するまで都内の商社でOLをしていた彼女だが、ここまであからさまにセクハラされた経験はない。

「よいではないか、ひひひ……若い肌はええのう」

老人の指先はツーッと太ももをたどり、その奥に向かって進んでいく。