と、
「へへへ、まだまだ収まりがつかねぇな。次は下の口にぶち込ませてもらおうか」
郷田が今にも涎を垂らさんばかりの顔で瑞穂を見つめる。
股間にぶら下がる肉根はなおも精液の残滓を滴らせながら、ムクムクと起き上がってきた。驚くほどの膨張率で、あっという間に元のサイズを取り戻してしまう。一度くらいの発射では物足りないという強烈な自己主張だ。
(そんな、さっき出したばかりなのに!)
瑞穂は驚きを隠せない。
夫は性的に淡白で、一度発射してしまえばそれで満足してしまう。
射精したばかりですぐにまた臨戦態勢に入る郷田のペニスは、瑞穂が知っている男の生理からはあり得ないことだった。
「あんただってそうだろ? どうだい奥さん、今度は本番を──」
「な、何を言っているんですか!」
これで終わったと思ったら、さらに要求をエスカレートさせてきた郷田に対し、さすがに瑞穂も怒りを爆発させた。
フェラチオでさえ耐え難い屈辱だというのに、この下卑た男はよりによってその先の行為──本番セックスを誘っているのだ。
「まあ、そう言うなよ……っと」
「やめて、と言ったはずです」
郷田が伸ばしてきた手を、瑞穂は乱暴にはね除けた。
「も、もう充分でしょう。早く帰ってください」
まっすぐに彼を見据え、毅然と言い放つ。
口の中には未だに精液の苦みが残っていて、不快でたまらなかった。
とにかく一秒でも早く口をゆすいで綺麗にしたい。汚されてしまった口の中を清めたい。
「こんなことを旦那に知られたら……へへ、あの真面目な正一くんには耐えられないんじゃないのか? 夫婦仲に取り返しのつかない亀裂が入らなきゃいいがな」
「まさか、夫にばらすつもりっ?」
瑞穂の顔がサッと青ざめた。
「さあ、どうかな……へへ」
郷田の顔にはどこまでも下劣な笑みが浮かんでいる。
「そ、そんなことしたら承知しませんよ」
「へえ、どう承知しないんだ? まあ、仮に離婚なんてことになったら俺があんたの面倒を見てやってもいいぜ」
冗談めかしているが、郷田の目は笑っていなかった。
夫と別れてこんな男の妻になるなど──考えただけで怖気が走る。
「帰ってください」
瞳にありったけの怒気を込めてにらむ。
郷田もさすがに興を削がれたのか、
「おうおう、気の強いことで。まあ、いいさ。すぐにあんたも自分から俺に股を開くようになる」
軽く肩をすくめると玄関から出ていった。
──すぐにあんたも自分から俺に股を開くようになる。
郷田の捨て台詞が耳の奥に残って、ざわつく。
「そんなこと、あり得ないわ……」
瑞穂は怒りと屈辱で全身を震わせた。
翌日の朝。
瑞穂は目を覚ますなり洗面所に駆けこみ、口をゆすいだ。
唇に、歯に、舌に、冷水を浴びせて清める。
昨日の夜も郷田が去った後で何度も洗ったのだが、それでも気持ち悪さが消えることはなかった。
(私、なんてことをしてしまったのかしら……)
鏡に映る顔はわずかに青ざめ、唇は血の気を失ったままだ。
昨日の記憶は脳裏に生々しく残っていた。
口の中に感じた郷田のペニスの質感や乳房を舐め回されたときの感触、そして口内にたっぷりと注ぎこまれた濃厚な牡のエキスの味までもが──。
と、そのとき玄関先からジリリ……と電話のコール音が鳴った。
「もしもし、瑞穂?」
玄関まで行って黒い固定電話を取ると、受話器の向こうから愛しい夫の声が聞こえてくる。
「昨日は会えなくて寂しかったよ。出張が終わるのが待ち遠しい」
「え、ええ……私も、よ」
声が震えるのを抑えられない。
正一に会いたいという気持ちに偽りはないが、彼を裏切って別の男に乳房へのキスを許し、ペニスを頬張っていたのもまた事実なのだ。
夫への申し訳なさで心が引き裂かれるような思いだった。
「あなた、あの……私……」
「ん、どうした、瑞穂?」
目まいを覚えるほど動揺していた。
あらためて夫への罪悪感が甦る。
(駄目よ、瑞穂。昨日のことは忘れなくちゃ。夫に知られてはいけない──)
必死で自分を叱咤するものの、動揺を抑えることができない。
電話を握る手のひらにジワリと汗がにじむ。
「本当にどうしたんだ、瑞穂? 具合でも悪いのか?」
「ち、違うの、なんでもないわ……」
はあっ、とため息を一つつく。
「あ、そういえば、郷田さんから村長の伝言を受けてたんだ」
「えっ」
突然の夫の言葉に息が詰まった。
「ご、郷田さんがどうかしたの……!?」
我知らず声が震えてしまう。
もしも、郷田が昨日のことを夫にバラしたら──。
恐ろしい想像が脳裏をよぎり、瑞穂は電話を取り落としそうになった。
「ああ、今度の祭りのことで──瑞穂?」
「ご、ごめんなさい、体の調子が悪くて……後でもう一度……で、電話してもいいかしら」
「そうか? あまり無理しないで。ゆっくり休んでいて」
「ごめんなさい」
「慣れない土地に来てるんだし、色々と疲れることもあるだろうしね。僕も早めに帰るよ」
どこまでも優しく瑞穂を気遣う夫の言葉がありがたかった。
同時に、そんな夫を裏切ってしまったという思いが罪悪感となり、心の底に鉛のように重く沈んでいた。
第二章 過ちの一夜に盗まれた貞操
夫との電話を終えた瑞穂は家の前で落ち葉の掃き掃除をしていた。この掃き掃除は朝の日課だ。庭の木の枝が塀から張り出していて、この辺りにすぐ落ち葉が溜まってしまうのである。