恥辱の風習 捧げられた新妻

瑞穂が切り出した話に夫は怪訝な顔をした。驚くというよりも呆気にとられたといった感じだ。

「いきなりどうしたんだ、瑞穂」

「えっと、その……」

瑞穂は表情をこわばらせて口ごもった。

まさか本当の理由を言うわけにもいかない。

当然予測された質問だというのに、それに対する答えを考えていなかった自分の迂闊さにため息をついた。

祭りから数日後──あのときの乱交の記憶は瑞穂の体と心に色濃く刻まれていた。

初めて郷田に犯されたときにも、快楽の後遺症のようなものがしばらく残ったが、今はあのときの比ではない。

日常を過ごしていても、気がつけば、数日前の圧倒的なオルガスムスを反芻し、パンティの中をジワリと濡らしてしまうほど。

このままではいけない。貞淑な人妻でいられなくなってしまう。

そんな危機感から『村を出て、別の場所に住みたい』と衝動的に打ち明けてしまったのだった。

だが話の切り出し方が唐突すぎたのは確かだ。これでは夫に怪しまれても仕方がない。

「……何かあったのか?」

案の定、眉をひそめた正一に、瑞穂は慌てて両手を振った。頭の中をフル回転させ、夫に納得してもらえる理由をひねり出す。

「ち、違うのっ。そうじゃなくて──やっぱり買い物とかちょっと不便だし」

「うん、それは確かにね」

「だから、もう少し市の中心部に近い場所に引っ越せたらいいな、って思ったの」

「どうしても駄目なのかな? この間引っ越したばかりだし、また引っ越し直すのは手間も大変だし」

正一は眉間に皺を寄せて難色を示した。

「それに慣れればそんなに不便じゃないよ。市内のショッピングモールまで車なら一時間もかからないし」

「分かってるの、でもっ……!」

瑞穂は激しく首を振った。

本当の理由を明かせないのがもどかしかった。だが、このまま村に住み続けるのは危険すぎた。

郷田に犯された記憶や、祭りの淫靡な雰囲気の中で輪姦された記憶──それらを思い出すたびに、怖気が走る。

そして本当に恐ろしいのは、その記憶に少なからず甘美な余韻が残っていることだった。夫のために操を守るべきという人妻としての貞操観念が根本から崩れてしまいそうになる。

ずっとこの村に留まっていたら、いつか彩香のように享楽的に何人もの男たちを自らの肉体に咥えこむようになるのではないか──。

そんな恐怖感があった。

もう一度夫を見つめると、やはり気が進まないような顔をしていた。瑞穂は二度目のため息をつく。

やはり説得は難しそうだった。

数日後。

「ふう、一通り荷造りは終わったわね」

衣類を段ボール箱に詰め終わった瑞穂は、額ににじむ汗を手の甲で拭った。

「こっちもだいたい終わったよ」

同じように書籍類を段ボール箱にしまっていた正一が声をかける。

「……我が儘を言ってごめんなさい、あなた」

「何言ってるんだ。僕のほうこそ瑞穂に慣れない環境を強いてしまって……すまなかった」

悪いのは全部瑞穂だというのに、自分が悪いかのように謝る夫に対し、胸の内が申し訳なさであふれる。

(ごめんなさい、あなた。原因は私にあるのよ)

だが、それを打ち明けるわけにはいかない。

──結局、夫には真実を告げず、ただ田舎の暮らしが肌に合わない、という曖昧な理由を押し通してしまった。

正一も瑞穂が何かを隠していることに感づいたのかもしれないが、そこには触れず、黙って転居の話を承諾してくれた。

そして今、こうして荷物を整理しているわけだが──。

「業者に引っ越しの連絡をしたし、荷物の運び出しは明後日になるよ」

「ええ、ありがとう」

瑞穂は愛しい夫ににっこりと微笑む。

この人と一緒なら、私はどこでだって生きていける。

そう、これからは忌まわしい記憶は全部忘れて、彼だけを愛して生きていく──。

瑞穂があらためて決意を固めた、そのときだった。

呼び鈴もなしに家の引き戸が荒々しく開けられた。足音も高く十数人の男たちが玄関に入ってくる。

広い玄関を埋め尽くす男たちに気圧され、立ち尽くす瑞穂。

「な、なんですか、あなたたちは」

言いかけたところで一団の先頭に郷田がいることに気づき、彼女は絶句した。さらにその隣には村長の増山や藤野の姿もある。

そろいもそろって何の用だろうか、と嫌な予感が背筋を駆け上がった。

「どういうつもりですか? 大勢で人の家に押しかけて──」

「どういうつもり、はこっちの台詞だぜ」

郷田が不機嫌そうに顎をしゃくった。

「俺たちに断りもなしに村を出ていこうとするなんてな」

「ひひひ、せっかく極上の女が手に入ったのに、みすみす逃すわけにはいかんわい」

「そうそう、まだまだ瑞穂さんの体、味わい足りないっすよ」

増山と藤野が下卑た笑みを浮かべる。

「おう、お前ら」

郷田が合図をすると、背後に控えていた男たちが前に出た。

正一を押しのけ、左右から瑞穂の両腕を掴むと、そのまま羽交い締めにしてしまう。

「み、瑞穂に何をするんですか! ううっ」

目の前で妻が嬲られている光景に、正一がたまりかねたように駆け寄った。

が、すかさず別の男たちが回りこみ、瑞穂同様に左右から羽交い締めにする。ずるずると引きずり、夫婦の距離を離されてしまった。

「くっ、放して──」

必死で身をよじる瑞穂だが、屈強な若者二人に両腕を抱えこまれてはどうしようもなかった。