恥辱の風習 捧げられた新妻

「へへ、おっぱいたまんねぇな……こんないい体をした女、村には他に一人しかいないぜ……」

くぐもった声で興奮を露わにした男は乳首を口に含み、甘噛みしつつ、もう片方の乳肉も力強く揉みしだく。舌と指で左右のバストを同時に責められ、胸の芯にじわりとした熱が宿った。

そのとき雲間から月が顔を出し、男の姿を淡く照らした。顔は逆光でよく分からないが、がっちりした体にジャンパー、くたびれたTシャツ、スラックスという格好だ。奇妙に既視感のあるそのシルエットに瑞穂はようやく不審な思いを抱いた。

と、男は双乳への責めを続けながら、スラックスのジッパーをかちゃかちゃと下ろしてペニスを露出させた。

ばね仕掛けのように飛び出したモノの硬い先端部が太ももの内側をツンツンと突いてくる。

「ううっ……」

久しぶりに肌に感じる男性器は、温もりも硬さも明らかに正一とは違っていた。

愛しい夫のものならともかく、見知らぬ侵入者の感触はただおぞましいだけだ。腿に感じるヌルリとした体液は肉茎から漏れ出るカウパーだろうか。ぷん、と男臭い匂いが鼻を刺し、汚辱感を煽る。

「まあ、そう嫌がるなよ……楽しもうぜ、お互いに……」

ぶちゅ、ちゅぱっ、と新雪を思わせる両の乳房に口づけの雨が降った。

「だ、駄目っ」

逃れようにも組み伏せられた状態ではどうにもならなかった。乳肉の丸い膨らみに沿って唇が這い回り、先端部の乳首をかぷっとくわえられる。男の唇が押しつけられた場所が熱く火照り出した。

(いや、こんなのって──)

不審者への恐怖感と、夫以外の男に乳房へのキスを許しているという罪悪感がない交ぜになって新妻の理性を激しく揺さぶる。

不意に瑞穂はあることに気づき、表情をこわばらせた。

(この声──)

どこかで聞き覚えがある気がした。それもつい最近のことだ。

先ほど覚えた不審とその情報が合わさり、彼女の頭の中で一つの推測が組み上がり始める。

「キスしようぜ、へへ」

その思考を中断させるように、男が乳房から顔を上げて瑞穂に顔を寄せてきた。そのまま一直線に瑞穂の唇を狙って尖った口を近づけてくる。

唇に熱い息を吹きかけられ、彼女は反射的に顔を背けた。

ぶちゅっ、と汚らしい唾液の音を立てて、肉厚の唇が頬に押しつけられた。

「ああ……」

ぬめぬめとした唇が頬の辺りを這い出す。まるでナメクジを貼りつけられたような不快感に、瑞穂は屈辱の嘆声を漏らした。

さらに男は鼻息も荒く、唇をスライドさせて瑞穂の唇を奪おうとしてくる。心臓がドクンと鼓動を速めた。人妻である彼女が夫以外の男に唇を許すなど、あってはならない事態だ。

「い、嫌ぁっ!」

瑞穂は恐怖も忘れて両腕を思いっきり突っ張り、必死で相手を押しのけた。

男の体重は重い。ずっしりとした手ごたえが両腕にかかる。

さらに力を込めて二度、三度と押した。

「うっ……」

火事場の馬鹿力が働いたのか、男はひるんだように身を仰け反らせる。全身にのしかかっていた重みが消え、瑞穂はようやく自由を取り戻した。

まだ体に力が入らず立ち上がることもできない彼女は、その場に腰を抜かしたまま男を見上げる。

ジッパーの隙間から外に出ている肉棒は信じられないほど巨大で、しかも臍にくっつかんばかりに急角度でそそり立っている。

「何、これ……!?」

驚くほど雄大な逸物に瑞穂は息を呑んだ。

彼女が知っている男性のペニスはもっとサイズが小さいし、こんなにも高々と反り返ったりしていない。

「おいおい、さっきからガン見だな。俺のチンポに見とれてるのか、奥さん?」

苦笑交じりの声を漏らす男。

瑞穂は聞き覚えのある声にふたたびハッとなった。記憶をたどり、ようやく先ほどの疑問に答えが閃く。

「えっ、まさかあなたは──」

ちょうどタイミングを計ったように窓から淡い光が差しこんできた。

雲に隠れていた月がまた顔を出したのだろう。青白い月明かりが男のシルエットを照らし出し、瑞穂はその正体を知った。

呆然と息を呑む。

「郷田さん……!?」

瑞穂は声を震わせた。驚きと怒りとショックと──様々な感情が混じり合って胸の中をかき乱す。

「驚かせちまったみたいで悪いな、へへ」

謝りつつも、郷田に悪びれた様子はない。

不法侵入してきたくせに、この態度はなんなのだろう?

自分が何をしたのか理解しているのだろうか?

温厚な瑞穂もさすがに怒り心頭だった。

一方の郷田はジロジロと好色そうな目を彼女の体に這わせている。まるで先ほどの行為の続きをせがんでいるかのように。

ネグリジェを大きくはだけられ、乳房を露出した自分の格好をあらためて意識し、瑞穂はハッと裾を下ろした。

眉間を険しく寄せて隣人の中年男をにらむ。

「そう怖い顔するなって。今日は旦那もいないんだろう? バレやしない」

「そんな問題じゃないでしょう! 私は結婚しているんですよ!」

「だからバレないって」

言って郷田がふたたびのしかかろうとしてくる。

瑞穂は両手を突っ張り、男の接近を必死で押し返した。

「やめてください、人を呼びますよ!」

「人を呼ぶ? どうやってだ?」

「どうって──」

思いっきり悲鳴を上げれば、さすがに隣も気づいてくれるだろう、と考えたところで、瑞穂は愕然となった。

都会のように人が密集している場所とは違い、ここは田舎だ。一軒一軒の家が離れている。どれだけ大声を張り上げたところで、隣家まで届くかどうかは怪しいところだった。