恥辱の風習 捧げられた新妻

そこに映っているのは、春の木漏れ日を思い起こす暖かな雰囲気を漂わせた二十五歳の美貌だ。

肩のところで切りそろえた黒髪が風に吹かれてリズミカルに揺れる。

清らかな容姿とは裏腹に、フリルをあしらった白いブラウスの胸元は淫靡なまでに豊満な膨らみを示し、見事に盛り上がっている。そこから腰に向かってまろやかなカーブを描きながら理想的なくびれを体現していた。

柔らかな素材でできた膝までの青いスカートが爽やかな風に吹かれながら、美しい曲線を形作る双尻にまとわりつく。布地越しに浮かび上がる理想的なヒップラインは乙女さながらの締まりと、若妻ならではの肉づきのよさを兼ね備えていた。

「素敵な場所ね、あなた」

瑞穂は水たまりに映った自身の姿から隣にいる夫の正一へと視線を移し、黒髪をかき上げながら柔らかな微笑を浮かべる。

「瑞穂が気に入ってくれてよかったよ。慣れない土地について来てくれてありがとう」

「お礼なんてよして。あなたと一緒なら私はどこにでもついて行くわよ」

瑞穂は笑みを深めて惚気てみせた。他愛のない会話の節々に夫への愛情を示したくてたまらないのは、まだ結婚してから三か月という期間のためかもしれない。まだまだ恋人気分が抜けきらないのだ。

正一も同じ気持ちなのか、嬉しそうな顔でうなずいてくれた。

と、その顔がかすかに青ざめていることに気づく。

「どうしたの、あなた? 少し顔色が悪いみたい」

正一はギクリとしたように顔をこわばらせ、

「……なんでもないよ。昨日ちょっと変な夢を見ちゃってね」

「夢?」

「いや、本当になんでもないよ。ごめんごめん」

首を振った正一はすでにいつも通りの笑顔だった。

「さ、行こうか」

二人は都心のマンションを引き払い、ここいなもり村に引っ越してきたばかりだ。今から隣家へ挨拶に向かうところだった。

家の門の前には、舗装されていない砂利道が一直線に走っている。その向こうから一人の女性が歩いてきた。

買い物籠を片手に持ったその中年女性は、こちらを見て驚いた顔になった。

「正一くん? 大きくなったわね?」

「ご無沙汰しています、ふじさん」

正一は丁寧に頭を下げた。

「もしかして、そちらは奥さんかしら?」

「初めまして。正一の妻で、瑞穂と申します」

瑞穂は一礼して会釈する。

「……あら、ようこそ。藤野です」

なぜか一瞬の間を置いて彼女──藤野夫人は挨拶を返した。

「正一くんはうちの子供と幼なじみで、よく遊んでもらったのよ」

説明をしながら、ちらちらと瑞穂を見る。

転入者に対する好奇の目……とも違う。

かといって、田舎特有の新参者に対する警戒でもない。

豊かに盛り上がった胸元から美しいS字カーブを描く蜂腰、そして健康的な色香を醸し出す臀部までを舐め回すように何度も見る。

まるで彼女への査定だ。

(どうしたのかしら?)

いぶかる瑞穂に対し、藤野夫人はすぐににっこりとした笑顔になり、

「これからもよろしくね。慣れない環境で色々大変だとは思うけど」

慣れない環境──。

瑞穂はその言葉を胸に刻む。

今まで都心部に住んでいた瑞穂は、結婚を機に夫の田舎であるこの村に引っ越してきた。

夫の両親はすでに他界しており、二人っきりで新婚生活を送ることになる。住まいとなるのは正一が両親から相続した和風の一軒家で、二人だけで暮らすには少々広すぎるくらいだ。

藤野夫人が去ると瑞穂は正一とともに隣家に向かった。

隣家といっても瑞穂の家とは十メートル以上離れている。都会の感覚からすれば、隣家という言葉を使うのも抵抗を感じる距離だ。

はた』と表札がかかった一軒家にたどり着き、呼び鈴を鳴らすと、三十代半ばの艶っぽい女が出てきた。

縦に緩くパーマがかかった茶髪。切れ長の瞳にスッと通った鼻梁。形のよい唇には鮮やかな赤いルージュが塗られている。

胸元が大きく開いたチュニックから、豊かな双丘の膨らみが作り出す深い胸の谷間があらわになっていた。

さらに驚くほど丈の短いスカートからは黒いストッキングに包まれたムッチリとした太ももやそこからくるぶしに向かって続く美しいレッグラインが露出している。

人妻とは思えないほど露出の多いその格好は、熟れた三十代女性ならではの色香を醸し出していた。

「畑野あやよ、よろしくね」

瑞穂たちが引っ越しの挨拶をすると、彼女──彩香は艶やかな笑みを浮かべた。

「分からないことがあったらなんでも聞いて。人と人のつながりが強いのが、田舎のいいところだから」

「ありがとうございます、畑野さん」

「彩香、でいいわよ。私も瑞穂さんって呼んでもいいかしら」

艶然と微笑む彩香。

話によると彼女は関東地方の出身で、瑞穂と同じく夫との結婚を機にこの村に引っ越し、数年になるという。

当初は環境の違いに戸惑うこともあったが、今ではすっかり慣れて、ここの生活を堪能しているのだとか。

「この村は若い女の人が少ないのよ。だから瑞穂さんみたいな人がお隣に来てくれて嬉しい」

「じ、じゃあ……彩香、さん」

初対面でいきなり名前を呼ぶというのはどうにも慣れないが、相手が瑞穂を名前で呼んでいる以上、拒否するのも変だ。

彩香は嬉しそうににっこりと笑みを深めた。

「それに若い女性が増えるとこっちの負担も少なくなるし。助かるわ」