いけない誘惑水着 グラビアアイドルの撮影日記

「いや……でも……」

精子の匂いをもうもうと放っている射精直後の童貞ペニスをもう一回ダメ押しとばかりに撮り、次に呆然としている宏之の全身をもう一度撮ると、加奈は宏之の顔をのぞきこんできた。

「きみもちゃんとした会社に就職したいでしょう? できなくなるよ。え? どうなの? 返事は? わかった? 祐美香にちょっかいは出さないって約束できる?」

「は……はい」

下半身剥き出しのままで宏之はうなずいた。

「わかればいいのよ。ものわかりのいい子ね」

いい子いい子、という風に指先でまだ敏感なままの亀頭を撫でると、女流カメラマンは服を身につけてサッと部屋を出ていってしまった。

(な……なんだったんだ、いったい……?)

興奮してかいた汗やら今の脅しでかかされた冷や汗やらで身体中はべとべと。トランクスを穿き直す余力もまだなく、宏之は荒い呼吸をつづけるばかりだった。

(でも……気持ちはよかった……自分で擦るのとぜんぜん違うんだな……)

室内にはまだ精子の匂いと年上女性の残り香が立ちこめていた。

第二章 うつむき砂浜素肌・グラビアアイドルに最接近

雨上がりの浜辺は静かで、あたりは潮の香りでいっぱいだった。

「じゃあ脱いでみて」

「はい」

平然と命じるカメラマンに祐美香は恥ずかしそうにうなずく。

「あ、そこでストップ」

二十歳のグラビアアイドルは白いTシャツを脱ぐポーズの途中で動きを止めた。黒ビキニに守られたGカップおっぱい。濃茶色の髪がうなじをふわりと隠している。無防備なおへその下は洗いざらしのぴっちりとしたブルージーンズ。

(ぼくと祐美香さん、ペアルック……)

偶然だけれど。

「ワン、ツー、はいっ」

嵐が湿気もいっしょに持ち去ってくれたのか海辺はさわやかだ。ただし快晴とまではいかず、太陽は雲の向こうにぼんやりとかすんで見える程度。

真横からカメラを構え荒花加奈がシャッターを切る。女流カメラマンは今朝宏之を見ても、夕べのことなどなにも知らないという平然とした態度だった。

でも。

その目は確かに、わかってるわよね? と言っていた。

ということで宏之がしゃべれる相手は結だけだった。

「……シンプルなTシャツにジーパンなのに、似合うんですね、桜さんが着ると。黒ビキニって言えば……ピンクのソファの上で、黒ビキニで膝までジーパン降ろしてる写真なんか、よかったっすよね」

「ヒロくん、よく知ってるね」

二十代なかばの編集者は首をかしげた。

「この前の写真集の中でも後ろのページに一枚だけじゃなかったかなあ、それ……愛読者カードなんかだとけっこう人気みたいだったけど……ひょっとしてヒロくん、祐美香ちゃんが好きだった?」

目をきらきら輝かせてそう訊いてくる。

あっ。しまった。

「いや、その……友だちに好きなやつがいて、そいつがそんなことを言ってたんで」

きのうは相談しようと思っていたのに、宏之はついごまかしてしまった。

夕べ脅迫されたのがやっぱり大きかった。自分は桜祐美香の大ファンだということは、おさななじみのお姉さんにも打ち明けにくくなっていた。

「ふうん。まあいいや。あんまりおしゃべりしてると、また先生に怒られちゃう」

そう言って機材やメイク道具の置いてあるところに戻っていった編集者だが、加奈になにか話しかけられ、離れて見ている宏之に手招きした。

「ヒロくーん。先生がちょっと手伝ってほしいって!」

「えっ」

今度は加奈の指示で宏之がレフ板を持つことになった。

(バイト代、出るのかな……いや、見学させてもらってるんだからそれがもうバイト代以上か)

より間近で祐美香さんを堪能できるのだ。

「うん。そのまま。目線は遠くに向けて」

「はい」

「じゃあ今まででいちばん悲しいこと思いだしてみて。そのときの顔ね。ワン、ツー、はいっ。ツー、スリー、はいっ」

(ああ祐美香さん……)

宏之は見蕩れるばかりだったけれど、女流カメラマンは機嫌のよさそうだったきのうの昼間とは様子が違った。

「なにか、違うのよねえ……」

ぶつぶつとそんなことを言っていたかと思うと急にこちらを向いた。

「きみ。ええと、佐橋くん」

「は、はいっ?」

レフ板の指示以外では話しかけようともせず宏之のことなど眼中にないという態度だったプロのカメラマンに、急に呼ばれてびっくりしてしまった。

「それはもういいから。ちょっと祐美香の横に行って、そうね、髪でも撫でてあげてくれない? 恋人みたいに」

「はああっ?」

耳を疑った。

きのうの脅しからして、もう口をきくのも本当に遠慮した方がよさそうだと思っていたのに。指一本触れるなって言ったくせに。

(いったいどういうことだ?)

だいいち。夕べのことがなくたって、はいそうですかというわけにはいかないだろう。祐美香さんだっていやだろうに。

「ええと、でも……それは、やっぱり」

「いいから。早く加奈の言う通りにしなさい!」

女流カメラマンは機嫌の悪そうな顔になって高飛車に言い放つ。

(うわ)

自分で自分の名前を呼ぶのがかわいいかなと夕べは思ったりもしたけれど。

(いや、ぜんぜんかわいくないぞ……)

わがままで手に負えなさそうなだけだ。

「先生、どういうことなんですか」

結が逆鱗に触れたくないかのようおそるおそる尋ねる。