カメラマンは編集者の遠慮には気づかないのか、そっけない調子で説明を始めた。
「加奈はね、今までなかなか祐美香の本当の魅力を引き出せずにいたと思うの」
「本当の……魅力ですか?」
編集者の問いにうんうんとうなずく才女。
「なんていうのかなあ……年頃の女の子の恥じらいとか、大人っぽさと初々しさがブレンドしたというか……今の祐美香にしか出せない雰囲気があるはずなんだけど。だから佐橋くん。早く祐美香の隣に行って。少し試してみたいのよ」
「は、はい……」
レフ板を置き、宏之は言われるままにあこがれのアイドルの方に向かう。女性経験のない自分にはたしてうまい雰囲気なんか出せるのだろうかと思いながら。
「あ。待って。その前にちょっとこっちに来なさい」
急に呼び止められた。
カメラマンは顔を近づけて耳打ちしてきた。
「いい? チャンスだなんて思わないでね。きのうの写真のこと、忘れてないわよね? 加奈の指示以外のことは絶対にしないこと」
「は、はい、もちろんです……」
「それならいいわ。もちろんですは加奈のいちばん好きなことば。じゃあおねがいね」
祐美香も編集者もなにかのアドバイスだと思ったのか、小声での会話にはあまり注意を払ってはくれなかった。
砂浜の上に坐っている祐美香の横に宏之も腰を下ろす。
「そうそう。もっと寄り添って」
ビキニ姿のグラビアアイドルは宏之がそばに来ただけで落ち着かない様子だ。不安そうな顔で編集者を見ていた。アイドルに助けを求められた結は困ったような顔をして一回両肩を上げただけだった。
「もっと近くに。もっとよ」
加奈の声が飛んでくる。これ以上近づいたら肘と肘が当たってしまうのに……。
「し、失礼します。桜さん」
「は、はい……」
どこか不安そうな年下アイドル。
(ヤバっ……すごい)
宏之はごくっと唾液を飲みこんだ。しっとりとした肌。細い二の腕。太陽を浴びて輝くミディアムの髪。水着姿のあこがれの女性の近くにいるだけでなんだか胸の奥あたりがふわふわと甘くしびれてきた……。
(すげっ……しゃ、写真集とはぜんぜん違う。ほ、本物の女の子の身体って、こんなにすごいんだ……)
「佐橋くん。髪にさわってみて」
「はい……ご、ごめんね、桜さん」
「い。いえ。どうぞ」
でも身体がこまかく震えているんじゃないだろうか。
すっと息を吸いこむ。潮の香りだけでなく女子大生の髪や身体からなんだかほのかな甘い匂いがして、鼻先から首の周りにすーっとからみついてくるような気がする。
水着アイドルは砂浜の上に坐りこんだ姿勢のまま恥ずかしそうにうつむいている。
宏之はゴクッと唾液を飲みこんだ。
(よ、ようし)
手を伸ばし、指先で髪にすっと触れた。
「ひゃっ!」
たちまち祐美香は電気ショックでも受けたみたいな反応を見せた。宏之から逃げるように腰と背すじをくねらせる。
「祐美香。もっとまじめにやってね」
「ご、ごめんなさい、先生……」
水着アイドルは小さな声でそう言うのがやっとの様子。
「佐橋くん。もう一回。肩のあたりならどうかしら」
「はい……」
答えて、もう一度手を伸ばしかけ、その動きを止める。
(こ、こんなに間近に祐美香さんがいて、じっと身体を固くさせて震えてるんだ……)
こうして見るとやはり肩幅は狭く、色は白く、とても華奢だ。きれいに浮き上がっている鎖骨の細いこと。肩から伸びる腕もやはり細く、それでいてまろやかな曲線をつくっている。そしてビキニの肩紐に支えられたおっぱい。
ななめ後ろから見下ろす眺めは格別だった。ビキニはぴったりとその胸果実に張りついている。少しだけ水着は小さめのようでビキニの縁が肌に食いこみ、布地に収まりきらない部分はむにっと盛り上がっている。
さらにじっとよく見ると……。
(う、動いてる。おっぱいが。ふくらんだり、戻ったり)
ミルクの容量も豊かそうな胸は呼吸に合わせてかすかに動いていた。間近で見ている宏之でなければわからないくらいに。
(うわあ。ヤバい。また……)
陰毛のあたりがヒリついて血液がペニスに集まってきた。
「佐橋くん、きみまでどうしたの? 早くさわってあげて」
「は、はい。じゃ、じゃあ、いきます桜さん」
びっくりさせないようにと気をつけながらそろそろと指を寄せていく。
触れる前からこわばりきっているような肩に、ちょん、と指先が当たったとたん。
「ひゃあっ」
さっきと同じだった。ビクッと身体を震わせ、素肌に冷たい氷でも押しつけられたような反応を示す。
水着アイドルは両手で自分の胸を守り、坐ったまま身体をよじって宏之に背を向けてしまった。
(わ。きれいな背中……それに、お尻)
宏之の方のドキドキも一気に増してしまった。真後ろから見ると肩幅や背中や腰は細いのに腰骨の張りは豊かで、お尻も背すじとはアンバランスなほどにたっぷり丸々と実っている。
(今一瞬だけさわったときの感じ……女の子の身体って、やわらかいんだ……)
今も目の前にはそのやわらかくて温かい生身の年下女子大生の肢体があって、真夏の暑さでかいた汗の匂いとかもぬくぬくと漂ってくる……。
こんなものを見せられたら思わず後ろから抱きしめたくなってしまう。
(くっ……ダメだ。それだけはダメだ)
そんなことをしたら夕べの写真を世間に公表されてしまうだろう。