(ぼくもきのう、荒花先生にそこにさわられて、ピリピリきちゃったんだもんな)
他に参考にできそうなことがなかったので、それを思いだしながら同じようにやってみる。指先だけをそっと触れさせたままで首すじを上下になぞったり。耳たぶをやさしくつまんでみたり。後ろ髪の生え際をさすったり。
「ぁ……く、くすぐっ……ぁう」
二十歳の初心な水着アイドルは身体を縮こまらせるようにしてその愛撫をじっと受けている。ひと撫でするごとに細い腕や丸い肩が、ふつ、ふつ、と、それまでとは違う震え方を見せた。
さらにくちびるから。
「……っあ……ぁあ、そこ、撫でられると」
艶っぽい声が洩れるようになってきた。頬や耳の赤みも増し、鼻の頭や額には霧吹きでも使ったみたいにこまかくうっすらと汗の粒が浮いている。
(気持ちよくなってるのかなあ……? そうなら、ぼ、ぼく、もっと、もっと気持ちよくさせてやりたいかも)
雨の降りは相変わらず激しかった。あれから携帯電話は鳴らない。どんな救援隊を手配しているのかわからないけれど、二次災害の危険もあるだろうからそんなにすぐにここまで誰かが来ることはないんじゃないか。
これまでは祐美香にいちいち断ってからだったが今度は前置きなしにいきなり動いていた。そっと耳たぶのあたりに口を寄せ、ふっと息を吹きかけていた。とたんに。
「ぅは……あっ!」
口から洩らすだけだった声がはっきりと高くなった。
それを聞いて宏之は歓びに心臓を高鳴らせた。
(か……感じてる祐美香さんって、ますますきれいだ……!)
ひとつ年下のグラビアアイドルの顔は声を出してしまった羞恥でか、ますます朱に染まっている。しかもなんとなく、感じている女性の色香をぬらぬら放ち始めているようにも見える。
「わ、わたし、もう……」
眉をまだなにかつらそうにひそめたままの祐美香は急に、張りつめていた糸がぷつりと切れてしまったかのように宏之に体重を預けてきた。
(えっ……えっ?)
これに近い体験といえば、高校のときに電車でたまたま隣に坐っていた見知らぬ女性が眠りこけて勝手に身体を傾けてきたとき以来だ。
年下女子大生の頭が宏之のTシャツの胸に当たっていた。
そっと肩を抱き、支えてあげる。
どうやら緊張がつづき過ぎて身体にうまく力が入らなくなってしまったようだ。
とはいえリラックスとはほど遠い状態にあるのはまだ変わりないみたいだけれど。
(うわっ、でも祐美香さんの身体って……すごい)
股間の硬直がさらに増して宏之はうろたえた。でもそれはしかたのないことではあった。本人に会って写真集で見るよりはずいぶん小柄だなあと油断していた宏之だが、こうして身を寄せられてわかった。
(やっぱり、ボ、ボリュームがある……っ)
自分より小柄なのは間違いない。自分より軽いのも間違いない。でもそのほっそりとした女らしい身体の中に成熟したやわらかさをたっぷりと持っている。引き締まった若々しい皮膚の中にはちきれんばかりの弾力をたっぷりとつめこんでいる……。
(う、うれしすぎるかも……!)
ハッとした祐美香が身体を離そうとした。
宏之の口は勝手に動いていた。
「だ、だめです。桜さん。練習なんですから!」
「はい、でも……」
自分の顔のすぐ近くに現役女子大生巨乳グラドルの顔がある。睫毛は不安そうにこまかく震えていて、汗を浮かべた額や頬は発熱でもしたのではないかと思うほどに赤くなっていた。
そして。
「わかりました……わたしが言い出したことなのに……ごめんなさい、佐橋さん」
(うう。ゆ、祐美香さんの鼓動……!)
肩が呼吸に合わせて動くのとは微妙なずれを見せて、ずき、ずき、というような脈動がつたわってくる。いや、相手の血管の脈動なのか自分の鼓動なのかもよくわからずただどぎまぎするばかりで、宏之は女子大生のことばにことばを返せなかった。
しっかりと抱きしめているわけではないけれど、でも体重を支えてじっとしていると、さっき以上に女子大生の肢体の放つ匂いが鼻の中を満たしてきた。
それは香りというよりは汗の匂いの混ざった、どこか生々しい匂いだった。
二十歳の処女の匂いだった。
(祐美香さん……)
それを嗅いでまたいっそうペニスはジーパンの中で角度を増した。
(ぼ、ぼく、やっぱりもう我慢できないかも……)
気がついたときにはまた勝手に口が動いていた。
「さ、桜さん、あの、あのさ……ちょ、ちょっとだけ、そのう……もっと他のところにさわってみてもいいかな? たとえば……む、む、む、胸とか、だめかな?」
「え……?」
目の前には細みの肢体にやや合わないくらいボリュームに満ちた乳房のふくらみがある。成熟しきったおっぱいはビキニとブラウスを突き破らんばかりの実りぶりを見せている。知性的な美顔とはそぐわないほどのたわわな健康美。
「ちょっとだけだからさ。頼むよ。桜さんがいやなら、そう言ってくれれば、本当に、それ以上のことはしないから」
口ではそう言ったものの宏之は実はもう途中でやめられるかどうかなどわかっていなかった。荒花に撮られた写真のこともブレーキにはなっていなかった。もし祐美香に拒絶されても、そのままベンチの上に押し倒してしまうかもしれなかった。