思っていたよりずっと弾力の豊かな感触が手のひらいっぱいに返ってきた。少し指を動かそうとしただけで、くにゅん、とやわらかくかたちを変える。服越しでも手のひらに熱を感じているような気がする。
(お、おっぱいに、さわっちゃってる……)
初めての体験だ。
もちろん桜祐美香ほどのボリュームはないのだろう。でも大きめのポロシャツのせいで気づきにくかっただけで、女流カメラマンの胸もかなりの豊かさのようだった。ぴちぴちのゴムボールをもっとやわらかくしたような手ざわり。
(お、女の人ってこうなんだ……?)
くにっ、と指腹をもう少しだけめりこませてしまったとたん、
「ふ……ン」
年上の女流カメラマンはくちびるの間からせつなそうに息を洩らした。目が少し細められている。風呂上がりの顔の紅潮もまだそのままのよう。
「え。ご、ごめんなさいっ」
手を引こうとしたが、それよりも強い力でまた引っ張られた。
(ふわ。わ……っ)
「いいの。きらいじゃないって言ってるでしょ?」
もう一方の手で頭を抱きよせられた。
「ふわわ。ふむ……ッ」
少しだけ肉厚気味のくちびるが青年の口にかぶさってきた。女流カメラマンの口は見かけ以上にやわらかかった。宏之にとって初めての経験なので他の人と比べられはしない。
でもキスってこんなに気持ちのいいものだったなんて知らなかった。
(ん、こ、これ、は?)
さらになにかが宏之のくちびるにヌルッと触れてきた。相手の舌だとわかるまでに少し時間がかかった。唾液でぬめぬめと濡れた年上女性の舌はおたがいの体温よりも熱く、くちびるとくちびるの合わせ目をなぞられただけで腰がしびれる。
そのまま力が抜けていく……。
(ど、どうかなりそう……ふわわぅ!)
そのまま侵入してきた濡れ舌に舌先をつつかれた。弾力のある舌といっしょに唾液も流れこんできた。鼻では相手の鼻息も受けている。加奈の素肌の匂いがわかった。口の中に広がる唾液は甘くもなければ苦くもなかった。でも思っていたより粘度が高く、歯茎のくぼみのひとつひとつにからみついて残っていくような気がする。
(気が、気が遠くなってきた……)
そんな宏之をもてあそぶように三十二歳の才女は吸引を始めた。じゅる、じゅる、と音をたてて青年の唾液を吸いこんでいく。そうしながら腕を摑んでいた手で宏之のTシャツの上から胸板を撫でてきた。なめらかな指で胸から腹にかけてツッとなぞられただけで下腹部へ血が流れこみ、ペニスがジーンズを内側から押し上げてしまう。
才女は口を離して青年をジッと見つめた。
「加奈のこと、淫乱だと思う? 初対面のきみにこんなことするなんて、おかしな女だと思ってる?」
「い、いえ、そんなことは」
「あらっ……きみ、興奮してきたのかしら?」
加奈の指がさらに下がってジーンズの盛り上がりに触れてきた。離れたくちびるとくちびるの間ではこまかな気泡の混ざった唾液の糸が伸びていた。勃起ペニスの真上を撫でられて腰に甘い電流がひりひりと流れた……。
「ひ、ひううう」
「うふふ」
くちびるの端をつり上げるようにして笑うと、積極的な年上女性は宏之から身体を離し、思いだしたようにつぶやいた。
「この部屋、なんだか暑いわね。冷房弱いんじゃない?」
「わ、荒、花、さん、なにを……」
宏之はまだ息をするのにせいいっぱいでうまく口がきけない。
両腕を組み、めくり上げるようにしてポロシャツを脱いだ三十二歳の女流カメラマンは、次にベルトをゆるめた。腰骨にひっかかっているチノパンツをするすると降ろし、なめらかそうな太ももをくねらせながら足首から抜き取った。
「うわ、うわ……うわ」
見事なプロポーションだった。男ものの服で隠されていたのだ。腰のくびれの位置が高く、張りのいい腰骨から優美な太ももまでのラインも見事だ。レースで飾られた大人っぽくて女っぽいブラとショーツ。
(す、すごい……)
昼間見た桜祐美香の抱き心地のよさそうなポンキュッポンとは少し違う。完成された大人の体型とでも言おうか。よけいな脂肪がそぎ落とされていたところに年齢相応の脂がしっとりと乗り始めている感じ。
「加奈の身体、どうかしら?」
色白の祐美香と対照的で全体的に軽く日焼けしているのも健康美に一役買っていた。グレーがかった下着を、意外とたっぷりとした乳果実と熟した臀球がムチムチと盛り上げている。それを見ただけで青年の股間のものは限界まで勃ち上がっていた。
で、でも。これはまずいんじゃあ……?
「あ、あのあのあの! 荒花さんっ」
「ああもう。静かに。さわがないで。きみに襲われたって大声出すわよ」
「はああっ?」
急に面倒くさそうな口調になってそんなことを言い出す加奈。
まったく意味がわからない。
部屋の外では相変わらずごうごうと風がうなっている。さわがないでもなにも、よほどの大声を出さないと廊下には届かないだろう。
「で、でもぼくは」
なにもしていない。なにかするつもりもないぞ。そっちが勝手にやってきて勝手にキスをして勝手に服を脱いだだけじゃないか。
でも女性に免疫のない青年は下着姿の美人に圧倒されて言い返せなかった。
それをいいことに。
「ンふ」
加奈はふたたび膝をついてにじり寄ってきた。