清純派にして知性派。浮いた噂などひとつも立ったことのない桜祐美香だ。
いくら色っぽい顔つきでも海岸での性行為まであったと考える読者はいないだろう。
ましてや。
(ぼ、ぼくと……ただの大学生のぼくとセックスした直後の写真だなんて、絶対信じないよな……)
「じゃあ、ちょっとだけ、足を広げてみて」
「……はい」
ビキニの股間が目に飛びこんでくる。
(あ、あの布地の内側には……今ごろは、ぼくの出した精子が滲み出てきているんだろうか)
想像しただけでまた身体中が熱くなってきた。
撮影がひと段落して祐美香が結にメイクを直してもらっているときに、加奈が近寄ってきた。
「佐橋くん」
「は、はいっ」
加奈に呼びかけられるとまだどうしてもビクッとしてしまう。そんな宏之の様子に女流カメラマンは苦笑した。
「そんなにこわがらなくてもいいよ。それより、あのときの写真のこと、忘れてないわよね? きみの恥ずかしい写真」
「ええっ?」
すっかり忘れていた。
そうだ。祐美香さんに指一本でも触れたらあのときの恥ずかしい写真を公表されて、ぼくは社会的に抹殺されてしまうのだった……。
やると言ったからにはやるんだろう、この人は。それが今さら意味があろうとなかろうと。
「あのう、荒花先生、あのう、ぼくは……どうか、あれだけは」
「なにをどぎまぎしているの?」
ウフフと笑うと才女の顔にえくぼができた。
「心配しなくていいわ。佐橋くんが祐美香をしあわせにするって約束してくれたら、あれは公表しないわ。約束する。その代わり、もし祐美香を泣かせるようなことを一度でもしでかしたら、絶対許さないからね。わかった?」
※
夏の蒸し暑さもすっかり遠のいた二か月後。
写真集はたいへんな反響を呼んでいた。
大学の構内でもよく写真集の話が耳に入ってくる。男性はもちろん女性の購入者もずいぶんいるらしい。自分以外にも身近な大学生にこんなに祐美香ファンがいたなんてと、宏之は驚いていた。
「ねえねえ、ここキスマークっぽく見えない?」
「影でしょ? 荒花は女のカメラマンだから、撮影前にエッチなんかありえない」
これにもギクリとしたけれど、さらに宏之がドキッとしたのはこんな会話。
「ここ、手が写ってるよね? これ、誰の手?」
「祐美香ちゃん本人の手じゃない? ブレてるから男の手みたいに見えるだけで」
「そう言えばあ、この顔ってなんかエロいわあ。イッた直後ってこうじゃない?」
顔アップのそのページは実は本当に絶頂直後の顔だった。乱交のさなかでも加奈はシャッターチャンスだけは逃していなかったのだ。誰にもわからないけれどその写真の祐美香はヌード。写っている手というのは宏之の手に間違いなかった……。
※
そんなある日、祐美香からメールが届き、宏之は東京まで呼び出された。
(祐美香さん、どうしたんだろう……どうしても急に来てほしいだなんて……)
指定された住所にも見おぼえはなかった。
(なにかあったんだろうか……)
時間がなかったので駅前からタクシーを使い、豪奢なマンションに着いた。
指定された部屋のドアをノックして入ってみると……。
「ごめんなさいっ、宏之くんっ、本当にごめんなさい!」
いきなり謝られた。
今日の祐美香は、上は赤白ボーダーのキャミソール。肩紐が左右に二本ずつ見えた。キャミの中につけているのはどうやらブラではなくビキニのようだ。そして下はぴっちりとした七分丈くらいのパンツ風レギンス。夏はまだ終わっていないといわんばかりの格好だ。
住居ではなく撮影用のスタジオだった。
広い部屋の真ん中にベッドが置いてあって、照明機材がぐるりと取り囲んでいる。
「待ってたわよ」
機材の陰から現れたのは荒花加奈。
「あ、あの。先生、これは……?」
「売れ行きがよくて、どうしてもって編集長に頼まれてね。ファイナル写真集パート2を出すことになったの。それでまたきみに協力してほしいんだな」
「そういうこと。えへへー」
荒花の横でいたずらっぽく笑ったのは編集者の菊池結だった。
恋人がまた頭を下げる。
「ごめんなさい……騙すつもりじゃなかったんだけど、撮影をしますって呼んでも宏之くん、恥ずかしがってもう来てくれないかもしれないんじゃないかって」
「そんなことは……あ、で、でも、ぼくが、協力ってことは……」
「ああ大丈夫。誤解しないで。基本的に男の影がちらついてる写真集は絶対売れないの。きみは写さないわ。加奈はねえ、祐美香のいい表情が欲しいだけだから」
「そうそう。さあ、ヒロくん」
言いつつ早くも女性編集者はシンプルな白いブラウスを脱ぎ捨ててしまった。ブラジャーに包まれた乳房は小ぶりななりに魅力を放っている。
結はOL風のスカートも脱いで下着姿になると、宏之のベルトに手をかけてきた。
手際よくジーンズを降ろされてしまう。
「撮影が終わったら、祐美香ちゃんとふたりっきりにさせてあげるから、さ。その前に三人で楽しもっ?」
いや。
楽しもって……。
「ちょっと。菊池さん。別に楽しむのが目的じゃあないのよ?」
そう言う加奈も下着姿になって舌でくちびるをぺろりと舐めている。かと思うと祐美香の後ろに回って豊満なおっぱいをモミモミし始めた。どう見ても楽しむ気満々。