いけない誘惑水着 グラビアアイドルの撮影日記

「菊池さん、お願い。菊池さんからも説明してあげてくれない?」

「は、はい……あのう、おかみさん……」

いつもてきぱきしていた結も今度ばかりは舌がなめらかには動かない様子だった。

例によって機材を抱えて後ろを歩いていた宏之に、すっとワンピース姿のグラビアアイドルが近寄ってきた。

「宏之くん」

「えっ?」

「しっ」

自分のくちびるにひとさし指を当てると、前を歩いている加奈やお祖母ちゃんたちが気づいていないことを確かめてから祐美香は耳元でささやいた。

「宏之くん……今夜、宏之くんの仕事が終わってから……出てこれるよね?」

「でも。ええっ?」

「夜……十一時過ぎくらいに、浜辺に来てくれませんか」

それだけ言って、成熟した腰と尻を振りながら小走りに宏之から離れていった。

なにかどろどろした濃い液体が空気の中に溶けているように蒸し暑かった。

午後十一時の空は濃い墨の色で、丸い月は煌々と光を投げかけてきていた。

こんなに時刻になってから海岸に来るのは初めてだ。

砂浜の上を歩きながら宏之は、漠然とした期待に胸を高鳴らせていた。波はひたひたと静かに寄せては返していた。

「宏之くん。こっち」

岩場の陰の方から呼ぶ声がした。

祐美香が身につけていたのは最初に旅館の前で目にしたときと同じカットソーとスカート。

(うわあ……)

昼間以上にきれいに見えるのはなぜだろうと宏之は思った。月光に照らされているからだろうか。布地を盛り上げている胸のふくらみはとてもやわらかそうだ。袖から伸びる二の腕も、スカートの裾から見えているふくらはぎも、健康的でしなやかそう。

一歩一歩砂の上を歩きながら、宏之は目のやり場に困ってしまった。豊かな肢体のすぐ前に来ても宏之は下を向いたままでいた。

(もうたっぷり祐美香さんの水着姿も顔も見てるはずなのに……ていうかきのうは祐美香さんの生おっぱいまで見ちゃってるのに……どうしてだろう。ふつうに服を着てるのに、祐美香さん、まぶしすぎるよ……)

岩に囲まれた、ちょっとした砂浜の広場のような場所だった。波打ち際からは少し離れている。

「きのうはごめんなさい……宏之くん」

祐美香のことばに青年は顔を上げた。

年下グラビアアイドルの頬は上気しているように見えた。

「わたし、きのうは、急に不安になって……宏之くんのことがきらいになったわけじゃないの……だから。だから……もし宏之くんがいやじゃなかったら……そ、その、もう一度……宏之くんに……」

「ごめん」

宏之はさえぎった。

ことばを途切れさせた祐美香の顔がこわばっていく。

「ご、ごめんって、どういうこと……? もうわたしのことを」

「そ、そうじゃなくて」

あわてて説明しようとする。

しかし祐美香は誤解してしまったようだ。

「そうなんだね……やっぱり、わたしみたいな芸能界とかに関係してるような女の子は、宏之くんのようなふつうの人には好きにはなってもらえないんですよね……」

「だから、違うって!」

「いいんです。宏之くん。わたし、慰めとか、嘘とかは、聞きたくない」

「好きなんだよおっ!」

宏之は相手の両手を握りしめていた。

「ぼくが悪かったよ! 女の子に呼び出させてしまって、女の子にそこまで言わせるなんて、ぼくが全部悪かったよ! 祐美香さんはもうなにも言わなくてもいいよ! ごめん! あとはぼくが全部言うから!」

「え……っ」

ぎゅっと握りしめた手のひらからぬくもりがつたわってくる。さらに手に力をこめて青年は想いを口にした。

「だからっ、もし祐美香さんさえいやじゃなかったら、ぼく、もう一回きのうのつづきをさせてほしい。ぼく、祐美香さんのことをもっと知りたい。祐美香さんが欲しい」

宏之はひと息に言い終えた。

祐美香が小さくうなずいた。

「……うん」

それを聞いて、がばっと祐美香を抱きしめる。

アイドルもおずおずと宏之の背に腕を回してきた。

そのままどれくらい時間が過ぎただろうか。

青年の腕の中で祐美香は小さな声で話しかけてきた。

「ねえ、宏之くん。正直に教えて」

「なんでも。ぼくに答えられることなら」

「宏之くんは、わたしの写真集を見て、男の人がするようなこと、したことある?」

「ええっ?」

ずいぶんぼやかした言い方だったがオナニーのことを言っているのはわかった。ただ祐美香がどんな答えを聞きたがっているのかがよくわからなかった。

「うん……それは……ごめん、あるけど」

「宏之くんもやっぱりわたしの胸とかにいちばん興味があるのかなあ?」

「いや。まあ。でもそれは。ぼくは」

なんだか今日の祐美香さんは少し意地悪なのだろうか……宏之はそう思った。

「ごめん、祐美香さん。そ、そうだけど……ぼ、ぼくは、祐美香さんがもしいやなら、きのうみたいなことはもう、しないからっ。ぼ、ぼく、なんでも我慢するからっ」

くすっと笑って、若さと張りに満ちた身体の持ち主はささやいた。

「ねえ、宏之くん。わたしだって……わたしだって、欲求不満になることもあるんだよ……わたし、もしかしたら同い年の女の子たちより、ずっとそういうのは強いかもしれない」

「祐美香さん、ぼ、ぼくに合わせなくたっていいよ。ほんとに、無理しなくてもいいんだから……きょ、今日はやめとこうか」