歯がゆい気分に苛まれるも、それでも美帆の放尿姿は、正平に衝撃ともいえる感動を与えていた。
昨夜はレオタード姿の写真を眺めながら、まだ見ぬ女教師の花弁を盛んに妄想していたのである。昨日の今日で、まさかその願いが叶ってしまうとは、夢にも思っていなかった。
こうなると、美帆の恥肉を写真に残しておきたいという、盗撮癖が込みあげてくる。
(携帯なら撮れるかも!)
だがわずか二センチの隙間では、レンズが壁の向こうを捉えない可能性のほうが高い。
どうしたものかと思案していると、美帆の放尿の音が途絶えがちになった。
ぐずぐずしている暇はない。やってだめだったら、まだ納得ができるというものだ。
正平はポケットから携帯を取り出すと、すぐさまビデオモードに切り替えた。
カラカラとトイレットペーパーを巻き取る音が響くと同時に、カメラモードの録画スイッチを指で押しこむ。そしてすぐさま、真横に寝かせた携帯を壁の隙間に押し当てた。
(だめだ! やっぱり壁が邪魔で、向こう側のトイレが映らない)
液晶画面は手前の壁を映し出しているだけ、隙間の下のかなり奥まで携帯を差しこまなければ、とても盗撮はできそうにもない。
(やってみるか! こんなチャンスは二度とないんだから!)
鼻息を荒げながら、正平がさらに前屈みになった瞬間、ドスンと肩が壁を打ち鳴らした。
(や、やばい!)
「誰? 誰かいるの?」
瞬時にして汗がどっと噴き出し、咄嗟に身体を亀のように縮める。
しばしの沈黙のあと、再び衣擦れの音が聞こえてきたかと思うと、水を流す音が鳴り響き、となりの個室のドアがバタンと大きな音を立てて開け放たれた。
美帆は出口に向かわず、そのまま正平のいる個室前へとやってきて、当然のようにドアをノックした。
「誰かいるの?」
もちろん返事などできるわけもない。
無言を貫きとおしていれば、あきらめて出ていくだろう。そう考えた正平だったが、美帆は執拗に扉をノックしてくる。
「ちょっと返事をしてくれる? このまま無視し続けるんだったら、男の先生を呼んでくるわよ」
その言葉を受けて、正平は唇をわななかせた。
どうやら美帆は、女子トイレに男性が忍びこんでいると完全にあたりをつけているようだ。強面の男性教諭など呼ばれて、この現場を見られてしまったら、言い訳のしようもない。間違いなく、退学という憂き目にあってしまうだろう。
四面楚歌の状態に置かれた正平は、ついに青ざめた唇を微かに開いた。
「ご、ごめんなさい。ちょっとお腹が痛くて」
女生徒を装い、裏返った甲高い声で返答したが、これはあまりにも無理があったようだ。
怪訝な表情をしている、美帆の顔が目に浮かんでくる。
「出てきなさい。あなたが男子生徒だってことは、とっくにわかってるのよ」
しばしの沈黙のあと、美帆の低い声が響き渡り、正平はがっくりと肩を落とした。こうなれば正直に事情を話し、なんとか許しを乞うしかない。
正平は上着の内ポケットに携帯を入れると、壁のフックにかけてあった学生ズボンに手を伸ばし、そろそろと足を通していった。
「何をやってるの! 早く開けなさい!!」
美帆は大声を発しながら、扉をドンドンと激しく叩く。
こんな大きな音を立てられたら、不審に思った誰かがやってくるかもしれない。焦った正平は慌ててズボンを引き上げ、ベルトを締めると同時にトイレの鍵を外し、申し訳なさそうな顔で出ていった。
美帆は腕組みをしながら、個室の前で仁王立ちをしている。恐怖に竦んだ正平は、両肩をブルブルと震わせるばかりだった。
「え、江本君! あなただったの!?」
頭上から、美帆の呆気に取られた声が響いてくる。自分が担任をしている生徒の不祥事だけに、驚くのも当然のことだろう。
あまりの情けなさから、正平はみるみるうちに涙を溢れさせた。
「どうして? なぜあなたが女子トイレにいるの? 泣いてたってわからないわよ。ちゃんと説明してくれなきゃ」
「ご、ごめんなさい。男子トイレに入ろうと思ったら、清掃中で。それで仕方なく女子トイレを。そしたら……急に美帆先生が入ってきて」
子供のようにしゃくりあげながら、正平が事情を説明すると、美帆は安心したような溜め息をついた。
「あ~っ、そうだったの。そういえば、清掃中の立て札があったわね。それならそうと、最初から言えばいいのに」
「どうしても……声が出せなくて」
「まあ、それもそうね。この状況じゃ」
正平に近づき、肩にそっと手を置いた美帆だったが、個室トイレの中を覗いた瞬間、再び顔色を変えた。
「あれは何?」
「え?」
正平を押し退け、個室内に一歩足を踏み入れた美帆は、とたんに顔をしかめた。
便器の中には大量の精液を拭い取ったトイレットペーパーが放りこまれ、便所の隅には精液まみれのブリーフが丸めて置かれている。
(あっ! しまった)
ほっとしたのも束の間、正平はまたもや窮地に追いこまれた。
激しくドアを叩かれ、パニック状態に陥ったために、ブリーフやトイレットペーパーのことなどすっかり忘れていたのだ。
強烈な精液臭を吸いこんでしまったのか、美帆は鼻を片手で押さえながら、慌てて後ずさった。
「あ……あの……あの」
あまりの動揺で、言い訳の言葉がまったく出てこない。美帆は正平をキッと睨みつけると、抑揚のない言葉で言い放った。