追いつめられた正平は、もはや言い訳をする気力さえ残っていなかった。正平がコクリと頷くと、美帆が深い溜め息をつく。
「さて、どうしたものかしら? 昨日、田所先生が帰ってきたところで、三人で話し合ったんだけど……。まずはあなたに、柏木さんへの行為に対する事実を確認してからということまでしか話してないの」
「もっときついお灸をすえたほうがいいんじゃない?」
美帆の側にやって来た真奈が横から口を挟み、美帆が大きく頷く。
「そうね。どうやらあなたには、厳しいお仕置きが必要なようね。女生徒にいたずらするばかりか盗撮していたなんて、言語道断だわ」
絶体絶命の危機に追いこまれ、正平のペニスはもう完全に萎靡していた。これから起こる光景を想像すると、恐怖で身が竦んでしまう。
「まずは……そうね。一番の被害者は柏木さんなんだし、彼女にやってもらいましょうか」
「え?」
それまで、(いい気味だわ)という表情を浮かべていた愛理だったが、美帆の言葉にきょとんとした顔を向けた。
「とても口では言えない、ひどいことをされたんでしょ? 泣き寝入りしたままじゃ、あなたの将来が心配だわ」
「あ……あの。私」
真奈が狼狽える愛理の側に歩み寄り、細い肩を優しく抱き寄せる。
「もう顔も見たくないでしょうけど、こういったことってね、とても大切なことなの。心に深い傷を受けたまま、男性恐怖症になった女性だってたくさんいるのよ」
男性恐怖症になるわけがないことは、正平自身が一番よく知っていた。
視聴覚室での愛理の行動を見た限りでは、彼女は明らかに処女ではない。しかも自分から誘いをかけ、憎い相手を陥れるしたたかさもあるのだ。
だがこの状況では、もはや何を言っても信用してくれないだろう。正平は無言のまま、ただ愛理を見つめていた。
「でも……私」
躊躇いがちの愛理を、真奈は無理やり正平の側に連れてくる。
彼女の様子を見ていると、三人の話し合いは、愛理の半分嘘の告発だけに終始していたのは間違いないようだ。
「江本君、まずはあなたがした行為を、ちゃんと謝罪すべきね」
悔しい気持ちもあったが、謝罪して許されるものなら、いくらでも頭を下げよう。正平は股間を両手で隠しながら、「ごめんなさい」と頭を下げた。
「柏木さん、どうかしら? これで許してあげられそう?」
愛理は何も答えず、困った表情を浮かべていたが、美帆と真奈の視線が一瞬絡み、その口元に淫靡な笑みがこぼれる。
「どうやら許せないみたいね。確かに謝罪のひと言だけで済ませられる問題じゃないもの。いいわ。江本君、後ろを向きなさい」
「は?」
「後ろを向いて、壁に両手をつくの」
いったい何が起こるんだろう。
正平は眉間をしかめながらも、美帆の命令どおり、後ろを振り返り、両手を壁に伸ばした。
2
美帆と真奈は、愛理の肩をそっと押しやる。
愛理はこの展開をまったく予想していなかったのか、躊躇しながらも、憧れの女教師の命ずるまま、正平の背後に立った。
「もっとお尻を突き出しなさい」
美帆の言葉を受け、正平はようやく自分の身に起こる事態を予測できた。
(お尻をぶたせるんだ!)
おいたをした子供のお尻を母親が叩くように、愛理に仕置きをさせるつもりなのだろう。
高校一年の男子が全裸状態で、しかもクラスメートの美少女からお尻を叩かれるのである。この屈辱的かつ恥辱的な状況を考えれば、確かに愛理にとっては溜飲を下げるだけの効果はあるのかもしれない。
だがM気質の正平の心理状況は、まったく違っていた。
学園のマドンナである愛理にお尻を叩かれるなんて、まずこんな機会は二度とはない。胸の片隅に妙な高揚感が込みあげ、ざわざわと妖しい期待感が満ちてくる。
正平は息を吸いこみ、その瞬間を待った。
「さあ、柏木さん。遠慮せずに叩きなさい」
「は……はい」
愛理は美帆の問いかけに返答し、正平の臀部の真横に身体を移動させたものの、まだ決心がつかないのか、なかなか叩くような気配は見せない。
「柏木さん」
美帆にせっつかれ、愛理はようやく手のひらを翻し、正平の左臀部に平手を見舞った。
「うっ!」
パーンという乾いた音が更衣室に響き渡り、顎が自然と上を向いてしまう。
だが音だけはやたら派手だったものの、痛みはほとんど感じなかった。やはり抵抗感があるのか、愛理はほとんど力を入れず、まるで蚊に刺された程度の痛みしか覚えない。マッサージを受けているようで、逆に心地いいぐらいだ。
「柏木さんって優しいのね。ひどいことをされた相手だっていうのに、まだ気を使ってあげるなんて」
美帆はそう言いながら、まるでお手本を示すように、正平の右臀部に平手を打ち下ろした。
「うっ……ぐっ!」
パシーンというムチ打つような高音が鳴り響き、針を刺したような鋭い痛みが臀部に走る。さすがの正平も顔をしかめ、思わず細い両足を震えさせた。
「こんな感じで、柏木さんの気の済むまで叩いておあげなさい」
美帆の指示に愛理はコクンと頷くと、再び右手のひらを正平の尻朶に見舞った。
今度の張り手は一度目よりも強烈だ。二回、三回と平手が張られていくと、愛理はようやく場慣れしてきたのか、徐々に力を込めてくる。
(ああ、やっぱり恥ずかしいよぉ。いい歳して、クラスメートの女の子にお尻を叩かれるなんて)