頭の片隅へと追いやられていた、スクールバス内の記憶が甦ってくる。
真奈のふっくらとしたお尻の感触、そして色っぽい仕草や容貌は、美帆に負けないぐらいの魅力がある。
できれば真奈とも淫らな関係を結びたかったが、それにはペニスを拘束するリボンが大きな障害となっていた。
一週間の射精禁止という、美帆との約束は破りたくない。だが真奈に対する期待感も、気がつけば風船のように膨らんでいる。
なんとも贅沢な悩みだったが、正平は気難しそうな顔で考えこむと、ある解決策を導きだした。
リボンはあくまでオナニー抑制への目印のようなもので、決してきつくは締められていない。これなら自分で取り外し、再び結び直すこともできるはずだ。
美帆が毎日のようにリボンの状態を確認してくるとは思えないし、超能力者でもない限り、約束を破ったという証拠を掴むことも不可能のはずである。
(そうだよな。仮に家でオナニーしたって、美帆先生にはわからないんだもの)
正平は満足げに頷くと、再び口元を綻ばせた。
真奈とのひと時は、いったいどんな展開が待ち受けているのか。美帆と結んだ淫堕な関係が、そのまま真奈に対する期待へと移行していく。
まだ授業中にもかかわらず、正平の心はすでに屋内プール場へと飛んでいた。
三時間目の授業が終了すると、正平は教員室へと足を運んだ。
美帆は何かの書類に目を通しており、先ほど見せた妖艶な顔はすっかり鳴りを潜め、普段の教師の顔つきへと戻っている。
正平の姿を目にすると、美帆は机の引き出しから茶色い袋を取り出した。
「来たわね。はい、これ」
わざわざ町まで下りて、新品の下着を購入してきたのだろう、なんとも心苦しい思いが込みあげてくる。
「トイレの下着は、私が処分しておいたから」
周りの教師たちに聞こえないよう、小声で話す美帆に対し、正平は顔を真っ赤にしながらペコリと頭を下げた。
「す、すいません」
精液まみれの下着は、さぞかし凄まじい臭気を発していたに違いない。いくら大人の女性とはいえ、汚れた下着を手にするには、相当な躊躇があったはずだ。
至れり尽くせりの対応に感謝しながらも、その一方で罪悪感にも似た気持ちが込みあげてくる。
美帆との約束を、すでに自分はその日に反故にしようとしている。
真奈という存在がなければ、死んでも彼女との誓いを守るのだが、これが元来男の持つ浮気性なのか。どうしても、新たな性体験という好奇心には勝てない。
「いろいろとありがとうございました」
「いいのよ。これも教師の仕事のうちみたいなものだから」
美帆は太陽のような明るい笑顔を見せると、そのまま書類へと目を落とす。
(やっぱり、美帆先生は優しいや)
正平は申し訳なさそうな顔で再度頭を下げ、逃げるように職員室を後にした。
その日の放課後、正平はさっそく屋内プールへと赴いた。
記念館の前を通りかかると、中から音楽が聞こえてくる。この日もどうやら新体操部の部活があるようで、美帆に見つかるという心配はなさそうだ。
プールが敷地内の一番端に位置しているということも、正平にとっては誠に都合がよかった。
やや早足で遊歩道を歩いていくと、全開にされたプール場の入り口の扉が目に飛びこんでくる。水面に波は立っておらず、水しぶきも聞こえてこない。
(そうか。確か今日は、水泳部の部活はない日だったな)
ますますもって好都合だ。おそるおそる室内に足を踏み入れると、白いパーカーを羽織った真奈が、プールサイドに一人佇んでいた。
期待感からなのか、それとも緊張感からなのか、身体が武者震いを起こす。
「来たのね。待ってたわよ」
真奈は大股で近づいてくると、扉を閉め、満面の笑みを投げかけてきた。
水着姿ではなかったものの、間近で見ると、やはりグラマラスな肢体に圧倒されてしまう。背の高さといい、足の長さといい、貧弱な自分の身体が恥ずかしくなるくらいだ。
「水泳部の練習はないんですか?」
正平がやや緊張の面持ちで再確認すると、真奈は微笑みを絶やさずに答えた。
「今日は休みよ。だからあなたを呼んだの」
「あの。僕にどんな用でしょうか?」
バス内での射精という負い目があるだけに、どうしても身構えてしまう。
もちろん期待感のほうが断然大きいのだが、冷静になってみると、激しく叱咤されるという展開も十分考えられる。
正平は唾をゴクリと呑みこみ、真奈の次の言葉を待った。
「あなた、水泳部に入らない?」
「へっ?」
予想外の問いかけに、正平は唖然とした表情を浮かべた。
「実は今年の新入部員、二人しか入らなかったのよ。水泳部は全体でも六人しかいないし、ちょっと困ってて」
「でも、僕は水泳があまり得意じゃないし、どうして僕なんか……」
正平の性格や体型はいかにも文科系で、誰の目から見ても、とてもスポーツ系というイメージはない。運動神経の発達した生徒なら、他にもたくさんいるはずだ。
正平が率直な疑問をぶつけると、真奈は一転して真面目な顔で答えた。
「わかっていると思うけど、水泳部の部員はみんな女子ばかりなの。男子が一人いれば、部員たちの士気もやっぱりあがるし、それに入部してくる女子たちも増えると思うのよ」
なんのことはない。真奈は正平を、他の女生徒たちを入部させるための広告塔代わりに誘っているのだ。