「はい……先生、気持ちよかったです……」
初めてを奪ってくれた年上のおねえさんの体温を確かめるように、しっかりと腕で抱き寄せると、女教師は寿治の胸の中にこてんと頭を落とした。。
「先生も、気持ちがよかった……けど、ふたりの秘密だからね」
「はいっ! もちろんですっ!」
寿治の腕の中で、絵里子は悪戯っぽい笑みを浮かべると、寿治の唇にチュッと軽くくちづけた。甘やかで幸せな気持ちが胸中に満ち満ちて、温かな気持ちになる。
(まるで恋人同士みたいだ……)
幸福感で感激に胸を震わせたその時──すっかり頭から抜け落ちていたことをふと思い出した。
(そういえば、先生には恋人がいたんだ!)
画材屋で見たあの親しげな男性。『絵里子』と呼び捨てにしていたあの男性は、先生の彼氏なのではなかっただろうか。
(先生、彼氏がいたことを、すっかり忘れてた……)
無論、絵里子のような大人の女性と、付き合ったり恋人同士になれるとは思っていない。けれど……寂しさがこみ上げてくる。ひとつになれることを知った今だからこそ、余計に。
できることなら、また先生と、こういうことがしたい……。けれど、届かない相手と身体を重ねれば重ねるほどに、切なくなることもまた、本能が知っていた。
(でも、もしかして、ただの男友達かもしれないし……)
迷う気持ちはあったが、知りたい気持ちのほうが強かった。
「あの……先生、質問があるんですが」
耐えることができずに、まだ顔をほんのりと赤らめたまま乱れた髪を手ぐしで直している女教師に問う。
「あら、どうしたの? 急に改まっちゃって」
女教師は急に真面目な顔になった男子生徒に不思議そうに首を傾げる。
「あの……前に……画材屋で会った男の人、いたじゃないですか?」
「男の人? ああ、浩一かしら」
「あの男の人って……やっぱり先生の恋人ですよね?」
思いきって尋ねると、女教師はきょとんとした顔をした後、大きく破顔した。
「やぁだ、山川くんったら、そんなことを気にしてたの? 違うわ、残念、彼は恋人じゃないの」
「でも、すごく親しそうだったし……」
「うん? 確かに親しいけど……でも恋人とは違うわ。うふふ、やぁね、君くらいの男のコって、すぐにそういうことを考えるのね」
女教師はおかしそうに言うと、肩透かしを食らったような思いでいる寿治の額をツン、と突くと立ち上がって衣服を整えて窓辺へと近寄っていった。
「あら、綺麗。ほら、山川くんも見てごらん」
絵里子に言われるがまま、窓の外に目をやると真っ赤な夕焼けが目に入った。
「……東京でも、夕焼けが見れるんですね」
「うん、そうよ」
茜色と濃紺とが美しくグラデーションを描く夕刻の空を烏が飛んでいった。
夕陽を浴びてオレンジ色に染まった女教師は美しく、寿治には到底手の届かない存在に思えた。
第二章 十月 夜の公園で同級生と初体験 巨乳少女と青姦
「あれ? 山川くん、今から学校に行くところ?」
「あ、そう。景井さんも?」
マンションの一階に到着したエレベーターを降りると、郵便受けがずらりと並んだエントランスで、まみとばったり鉢合わせた。
「せっかくだから、一緒に学校に行こうか」
「あ……うん……」
まみの後についてマンション入り口のスロープを下りると、通学路を歩き出す。
「文化祭楽しみだねぇ」
「うん、あとひと月かぁ」
転校して一ヶ月が経とうとしていた。寿治が珍しがられたのも最初だけで、今のクラスメイトたちの興味の矛先は、なんといってもひと月後に行われる文化祭だ。
寿治のクラスでは、模擬店としてメイドカフェを出店することに決まっていた。
当日は、コーヒーを淹れたり、サンドイッチを作ったりといった裏方仕事のシフトを組まれるようだが、クラス委員のまみと、文化祭のために選出された実行委員が協力して準備を進めているらしく、寿治のような一般生徒が何かしなければいけないということは今のところ、特にないらしかった。
それよりもむしろ大変なのは美術部のほうで、当日展示する自分の作品と併行して、正門に飾るアーチを作らないといけない。といっても、こちらもまだ、ひと月あるということで、本格的に居残りをするところまでには至っていない。
(先生とも……あれから特に何もないし……)
美術準備室での情事の後、毎日のようにホームルームや部活で顔を合わせているが、絵里子はといえば、まるでポーカーフェイスで、たまにあれは夢だったのではないかと思うほどだ。
(あんなに気持ちがよかったのが、夢のわけないけど……)
しかし、日々記憶は曖昧に、手に残っていた感触も淡くなっていく。
忘れたくなくて、女教師の痴態を思い出しては、何度も反芻し、昨晩も遅くまで自分で慰めてしまっていたのだから、情けない。
「……はぁ」
「どうしたの? 山川くん。元気ないみたい」
思わずため息をつくと、まみが心配そうな表情を浮かべた。
「いや、なんでもないよ、ただちょっと昨日夜更かししちゃったから、ちょっと眠くって」
「そっか。映画でも見てたの? それともテレビ?」
「う、うん。まぁ、そんな感じ」
「わたしも昨晩は、ちょっと遅くまで本を読んでたから、寝不足気味」
まさか担任教師をおかずにオナニーをしていたとは言えずにもごもごと誤魔化すと、まみも眠気を払うかのように瞼を擦って小さく欠伸した。