彼女が制服を脱いだら 清楚な学級委員と快活巨乳同級生と女教師

(景井さん、今日も可愛いなぁ……)

小さな唇から白い歯と、ピンク色の舌がちらりと覗く。つやつやと輝く黒髪がさらりと揺れるたび、シャンプーの清潔な香りが辺りに振りまかれる。

ようやく秋めいてきた爽やかな風にプリーツスカートが吹かれてはためいた。

ちょうど今週が衣替えの切り替え週だが、まだ日中は暑さが続いているせいか、まみはまだ夏服を着用している。セーラーブラウスの袖から覗く真っ白な二の腕が、来週には長袖に隠されてしまうのかと思うと、名残惜しい思いがする。

(一緒に通学なんて、まるで彼女彼氏みたいで嬉しいなぁ……)

こうしてまみと歩いていると、絵里子に感じている悶々とした気持ちも、晴々しくすっきりと晴れていくかのようだ。

(そうだよな、やっぱり先生とは年が離れすぎているし……やっぱり同級生とかのほうが、しっくりくるよな……)

しかも、このところ、同級生の中でも、まみは少し特別な存在になりつつあった。

なぜだか、気がつくと、まみのことを考えてしまっているのだ。

授業中であろうと、休み時間であろうと、無意識にまみを目で追ってしまっていることがよくある。絵里子があれ以来“特別なこと”をしてくれないことが、それほどショックでもないのは、まみの存在が大きい。

(僕、ひょっとして、景井さんのことが好きなのかも……)

まだはっきりと『好き』だとかそういう気持ちはわからない。

けれど、それを言うなら、絵里子のことだって、そうだ。

美術準備室でしてくれたようなことをもう一度して欲しいという気持ちはある。けれど、それを『好き』と言うと違う気がする。

(自分で自分の気持ちがわからないって、おかしいかな……)

そんなふうに思い悩んでいる寿治の心中など知るわけもないまみは、学校のことや最近見たテレビの話題なんかを楽しそうに話しかけてくれる。

(まみちゃんと一緒にいると、嬉しいだけじゃなくって、元気な気分になるんだよな)

やっぱりこれは恋心というものだろうかと思い始めたその時、いつも食事を買うコンビニエンスストアが右手に見えてきた。

「あっ、ごめん、景井さん、ぼく、ちょっとだけコンビニに寄ってもいいかな」

「いいけど、何か忘れものでもした?」

「いや、うち、母さんがいないからさ、父さんに、弁当はコンビニで買うように言われてるんだ」

「あ……そうなんだ。じゃあ、付き合うよ」

「ありがとう」

まみとともにコンビニの自動ドアの前に立つと、聞き慣れたチャイムに迎え入れられた。

朝の通学通勤時間なことだけあり、弁当コーナーは、朝食代わりのおにぎりやサンドイッチを求めるサラリーマンやOLで賑わっている。寿治もまっすぐに弁当コーナーへと向かうと、さっそく物色を始める。

「さて、今日の弁当は何にしようかな。ハンバーグ弁当は昨日の夜に食べたし……」

「夜はハンバーグだったの?」

まみがずらりと並んだ弁当の棚を興味深げに覗き込んで首を傾げた。

「うん、結構美味いんだよね、ここのハンバーグ。でも、さすがに続けては栄養が偏りそうだから、今日は唐揚げ弁当にしておこうかな」

棚から唐揚げ弁当をひとつ取ると、ペットボトルのお茶とともに、レジへと向かった。父親から毎朝貰う千円札を財布から抜き出し、支払いを済ませる。

「ねぇ、毎日だと飽きない?」

まみが左手に提げたレジ袋に目を落とした。

「そうだね、でも、まぁ、仕方ないからさ」

「それに、野菜が少ないし」

「まぁ、それも仕方ないよ。なるべく野菜ジュースを飲むようにしてるし」

首をすくめると、まみは数秒黙り込んだ後、思いついたように顔を上げる。

「……あのね、わたし、お兄ちゃんがいるんだけど、今年、就職が決まって名古屋に転勤しちゃったの。それで、うちのお母さん、ご飯の作り甲斐がないって毎日嘆いてて。パパは仕事が遅いから、平日は外で食べてきちゃうし、わたしはわたしで小食だから。それで、もしよかったら、山川くん、うちで晩御飯食べたらどうかな? どうせ同じマンションに住んでるんだし」

「ええっ!?」

思いも寄らぬ提案に驚きの声をあげると、まみは真剣な眼差しを寿治に向けた。

「いい考えだと思うんだけど……」

「いや……そりゃあもちろん、嬉しいんだけど。でも、そういうの、景井さんのお母さんに確認取らないで勝手に決めたらまずいんじゃないかな?」

「でも、きっと大歓迎でオーケーすると思うよ」

「うーん、でも、やっぱり迷惑だと思うんだ。ぼくもそこまで甘えられないよ」

「そっか……わたし、ちょっと先走りすぎちゃったかな。ごめんね、なんだか放っておけない性格っていうか……お母さんにもおせっかいすぎるってたまに怒られるの」

まみがしょんぼりと項垂れる。

「ありがとう、景井さんの気持ちは本当に嬉しいんだ。気持ちだけ貰っておくよ」

本音を言えば、もちろんのこと、まみの言葉に甘えてしまいたいという気持ちもあるが、さすがにずうずうしく思えて気が引けた。

(でも、景井さんがそんなに僕のことを心配してくれるなんて、嬉しいな)

このひと月で、まみが面倒見がいい性格だということはよくわかっていた。

クラスメイトの家で飼っている猫が子猫を産んで、その里親を探していると聞けば、チラシを作って他クラスにまで張りに行っていたし、誰かが持ってきた鉢植えに毎日水を遣り、晴れた日には必ず外に出しているのもまみだ。横断歩道を歩いている老人の傍らについて、道を渡る手助けをしているところを目撃したこともある。