丸顔にぱっちりとした目がまみにそっくりな、まみのお母さんが用意してくれた夕食は美味しかった。
牛ひき肉のたっぷりと入った揚げたてのコロッケに千切りキャベツ、ぴかぴかの白米にわかめと豆腐の味噌汁と自家製のきゅうりの浅漬け。昨晩の残りだという大根とさつまあげの煮物も味が染み込んでいた。
夕食も感激を受けたが、まみの私服姿を思う存分に見ることができたのも感激だった。
もちろん家の中だから特別におしゃれをしているわけではなく、寿治を夕食に誘いに来た時に着ていたデニム地のカジュアルなシャツワンピースだ。けれども、清楚なまみの雰囲気にぴったりで可愛らしかったし、自宅のせいか、いくぶんリラックスした表情も普段の優等生らしい姿とはまた違ってときめいた。
その上、食事が済むと、なんとまみの部屋で一緒に明日の英語のリーダーの予習をすることになった。前の学校よりも英語がすすんでいて苦労している、と相談したら、まみが教えてくれると提案してくれたのだ!
「景井さんのお母さんって、すっごく料理が上手なんだね」
「そうかな、普通じゃない?」
「いや、美味しかったよ。こんなに美味しいご飯を食べたのは、母さんが出ていって以来だよ」
「口に合ったみたいでよかった。お兄ちゃんなんて、濃い味が好きだから、いつもドボドボ醤油とかソースとかかけて、よく怒られてたんだよ」
そんな話をしながらも、まみの部屋へと向かう胸の内はそわそわと騒いで仕方ない。
(景井さんの部屋って、どんなのかな)
小学校の、それもまだ低学年の頃に幼馴染の女のコの家へあがって以来、女のコの部屋にあがったことはない。それ以来の女のコの部屋ということで、ただでさえドキドキしてしまうというのに、さらには、ほのかに思いを寄せているまみの部屋なのだ。ときめかないわけがない。
「ここ、わたしの部屋。散らかってるけど、どうぞ」
白いペンキの塗られたドアには、『まみの部屋』という可愛らしい看板がかかっていた。まみが少し照れたような笑みを浮かべながらドアノブを引くと、内側からフルーツのような甘酸っぱい匂いが溢れ出した。
「お邪魔します」
ドキドキと胸を鳴らして中に踏み入ると、まず最初に六畳ほどの洋室の一番奥に据えつけられたベッドが目に入った。
ベッドには、ピンク色を基調としたチェック柄のカバーが掛けられて、枕元にはクマのぬいぐるみがちょこんと置かれていた。窓に掛けられたカーテンもやはり薄ピンク色。床はフローリングでオフホワイトのカーペットが敷かれている。
入って右手の勉強机や、教科書や参考書が整然と詰め込まれた本棚、床に置かれたテーブルは、白を基調にしており、寿治の想像通りの女のコの部屋という雰囲気だ。
(この部屋で、景井さんが寝起きしてるんだ……)
勉強机と本棚が置かれている壁の反対側はクローゼットになっている。もちろん、扉はぴっちりと閉じられているが、あの奥にまみの制服や洋服、そして下着が仕舞われていると思うと、下腹部にジンッと痺れが奔って硬くなった。
(うわ、どうしよう……)
もしもまみに下半身の変化がバレてしまったら、シャレにならない。これ以上硬く、そして大きくならないように、気を落ち着かせようと深呼吸すると、まみがクッションを差し出した。
「はい、これ、お尻の下に敷いて」
「あ、ありがとう」
助かった。立っているよりかは座ったほうが、股間の変化が目立ちにくい。クッションを受け取ると、いそいそとオフホワイトのカーペットの敷かれた床に腰を下ろした。
「えっと、リーダーの教科書は……これでしょ、あとはノートと鉛筆がいるよね」
まみは勉強机の脇に掛けられた通学鞄の中から、勉強道具を取り出すと、テーブルの上へと置いた。
「じゃあ、ここから訳していこう……」
一冊の教科書をふたりで見るために、肩を並べて寄り添うと、まみの肩口が寿治の肩に触れた。
(どうしよう、すごく近い……)
まるで身体中の神経がそこに集中してしまったかのようにヒリヒリとする。
つやつやとした唇から漏れる息までもが感じられるほどの近さに、胸の鼓動がバレてしまいはしないかとドキドキする。
触れ合っている肩口からじんわりと伝わってくる体温。伏し目がちの瞼を縁取っている長い睫がふるふると揺れる。横すわりに崩した脚のスカートの裾から覗く膝小僧は小さくてひとつの傷もない。
(これじゃあ、全然勉強に身が入らないよ……)
憧れの少女を間近にして、まるで心臓が張り裂けそうに苦しく、過去完了と未来完了の進行形の違いについての説明をしてくれているまみの声が、まったく頭に入ってこない。
「……ねぇ、山川くん、わかった?」
「あっ……うん……」
「じゃあ、自分でここんところ、訳してみて」
上の空だったことを誤魔化して教科書の文字を辿る。が、さっきの説明をまるで聞いていなかったので、当然のことわかるわけもない。
「山川くん、ここ、間違ってるよ。She has been reading a bookは、現在完了進行形だから、まだ読み終えてはいない状態だよ」
「あっ、そうか、ごめん」
「さ、次。これはわかる?」
「えっと……」
集中しようとすればするほど、頭の中に余計なことが思い浮かんでくる。授業中に先生に当てられ、ハキハキと正解を答える姿や、プールの授業中に見たスクール水着姿の、想像以上に女らしい身体つき──。