彼女が制服を脱いだら 清楚な学級委員と快活巨乳同級生と女教師

(先生に、聞いてもらえてよかったな……)

今までひとりで抱えていた重い荷物が軽くなったわけではないが、ただ寿治が重い荷物を抱えている、ということを誰かが知っていてくれるというだけで、こんなに気の持ちようが変わるなんて知らなかった。

それでも、まだどうすればいいのかの答えを見つけることはできないでいるウブな男子生徒を勇気づけるように、年上の女教師は寿治の手を取ってぎゅっと握り締めた。

「あのね、そんなの、簡単なこと。君は君の好きなようになさい」

「えっ……でも……好きなようにって、そんな勝手なことしたら、亜季ちゃんを傷つけちゃうし……それにまみちゃんに振られたら、ぼくも傷つくし……」

確かに女教師の言う通りだとはわかっている。けれど、それができないから、困っているのだ。しかし、女教師はきっぱりと首を横に振った。

「恋なんて必ず誰かが傷つくものよ。それは亜季さんかもしれないし、まみさんかもしれないし、君かもしれないし、その全員かもしれない。けど、誰かを傷つけても、自分がいくら傷ついても、それでも手に入れたいと思うものが本物の恋なの。もちろん、今すぐに、っていうのは無理かもしれないわ。でも、ゆっくりと考えて御覧なさい。時間はまだまだあるんだから。それで、傷つく覚悟、傷つける覚悟ができたら、自分に正直に、好きなようにするの」

女教師の言葉は力強く心に響いてきた。

傷つけても手に入れたい相手──。少しだけ道が見えた気がした。

今すぐには無理だけれど、それでも、いつかはきっと、まみに告白をする覚悟ができる時が来る。それは亜季との別れを決意した時だ。

(ぼくに……女のコを振ったり、女のコに告白したりする勇気があるのかな)

やはり無理な気がする。でも……堂々巡りで黙り込んだ寿治の頬に、絵里子はすっと手を当てると、顔を近づけた。そのまま一瞬だけ唇を寄せると、すぐに離れる。

「もうっ、そんな顔して、母性本能くすぐるから、可愛くって、ついキスしちゃったじゃない」

「先生……」

唇に残った淡い感触に、泣きたいような、それでいて励まされたような温かな気持ちが胸いっぱいに広がる。

「ほら、元気を出して。ね、いつか、もしも……もしもよ。何か原因があって、君が亜季さんと、喧嘩をしたり、別れることがあって。それで、まみさんとも上手くいかなかったら、先生が、また、君のこと、慰めてあげるから」

「えっ、本当ですか!?」

「うん、本当。だから、笑って。ね?」

女教師は、寿治の顔を覗き込むとにっこりと微笑んだ。その優しげな笑みに緊張がゆるゆると解ける。

「先生、ありがとうございます」

「いいのよ。あぁ、もうこんな時間。そろそろ帰りましょう、明日は文化祭なんだから、しっかり寝て充電しなくっちゃね」

女教師は少し照れくさそうな笑いを浮かべたまま、さっと立ち上がった。後に続いて廊下へと出る。

「じゃあ、明日ね。7時半に美術室。遅れないこと」

「はいっ、さようなら……先生、本当にありがとうございますっ」

去っていく絵里子の後ろ姿に向かって叫ぶと、絵里子は後ろを向いたまま、手を高くあげて応えてくれた。

(先生に話せてよかったな……)

何も解決はしていないが、気持ちが軽くなったことは確かだ。少し弾んだ足取りで鞄を取りに教室へと向かう。

さすがに夜の八時を過ぎて、明日の文化祭本番に向けて居残り作業をしていた生徒たちも、皆、帰宅した後のようだった。教室はもちろんのこと、廊下の電気もすっかり消された夜の校舎は、少しだけ薄気味悪い。

(あれ……?)

薄暗い廊下の先、寿治の教室にうっすらと灯りが点っているのが見えた。

(誰かまだ残ってるのかな……)

内側から人の話し声などは特に聞こえない。となると、最後の人が消し忘れてしまったのだろうか。

少し緊張しながら、教室の扉を開けると、机に向かい作業していた黒髪の少女が驚いたように振り返った。

「山川くん!?」

「あれ、どうしたの、景井さん、こんな遅くまでひとりで……」

少女の前の机には何かパネルのようなものがあった。右手にはマジックインキが握られている。どうやらひとり居残って、まだ明日の準備をしているようだった。

「急遽、文化祭実行委員の本部にかけるパネルを作ることになって……山川くんこそ、ずいぶん遅いね」

「うん、美術部でアーチ作りがあって、今まで作ってたんだ」

「そっか、遅くまでお疲れさま」

まみとふたりきりでこんなふうに話すのは、久しぶりのことだ。なんとなく気まずくてギクシャクしてしまいながらも、やはり嬉しくて仕方がない。

机の中の荷物を鞄の中に仕舞いながら、まみのほうを窺うと、パネル作りにずいぶんと難航しているように見えた。

(どうしよう、手伝ってあげたほうがいいのかな……)

「大丈夫? 手伝おうか」

少し悩んだあげく、思いきって声をかけると、まみが顔をあげた。

「え? 本当に?」

「うん、ほら、ぼく、美術部だから、そういうの結構得意だし」

パネルを見ると、クラスの出し物の紹介が書かれていた。

字はさすがに優等生のまみらしく綺麗だが、しかし、パネルとして展示されるには、ちんまりとまとまりすぎていて、遠くから見た時にまるでインパクトがない。