彼女が制服を脱いだら 清楚な学級委員と快活巨乳同級生と女教師

「えー、亜季、独り占めなんてしてないよぉ」

亜季が不満げな声を漏らす。

「してるよ、ほら、みんな山川くんと話したいのに、話しかけられなくて困ってるじゃない」

「うそぉ。あ……本当かも。ごめんなさい。亜季ってばついつい興奮しちゃったみたい」

亜季は辺りを見回すと、首をすくめてぺろっと舌を出し、素直に身体を離した。

「い、いや、別にそんな謝ることじゃないけど……」

二の腕に感じる亜季の体温の名残に、少し残念な気持ちを覚えながらも、やはりほっとする気持ちのほうが大きかった。

(嬉しくないわけじゃないけど……学校であんまりくっつかれると恥ずかしいし、景井さんのおかげで助かった)

さすがクラス委員を務めるだけあり、まみのきめ細かな気遣いに感激してしまう。

「さてと。じゃあ、わたしは委員会に行かないと。みんな、さようなら」

まみは、亜季から解放された寿治ににっこりと笑いかけると、机の横にかけた鞄を取り上げて、手を振って教室の隅の出入り口へと向かって歩き出した。

「いっけない、亜季も帰らなきゃ、塾に遅れちゃう! じゃあね、トシくん、また明日!」

亜季も時計を見ると慌てた様子でまみに続く。

「じゃあね!」

ふたりの背中に向かい声をかけると、少女たちはくるり、と同時に振り返った。

「また明日ね、山川くん」

「バイバイ、トシくん!」

(また、明日……か)

野に咲く可憐な菫と、花瓶に生けられた華やかな薔薇。それぞれ違った美しさを持つ美少女たちの後ろ姿に、明日からの生活を思うと胸が高鳴るのを感じた。

(やっぱり東京って、広いんだなぁ……)

学校からの帰り道、どうせ家に帰ってもひとりなので、街を探索がてら、駅前のビルの中にあるという画材屋に、ちょうど切れていた絵の具を買いにきたのだが、こんなに難儀するとは思ってもいなかった。

(ちょっと舐めてたかも……)

最寄りであるN駅は、地下鉄とJRの交差するターミナルであるせいか、ごみごみとしていて人も多く、ビルなども周りに数えきれないほどにある。一度、家に帰って詳しい場所を調べ直してくるか、それとも交番で聞くか──。

(せめてビル名だけでもメモってくればよかったな……)

途方にくれた気持ちで辺りをきょろきょろと見回していると、どん、と軽い衝撃が背中に走った。

「そんなところにぼけっと立ち止まっていたら、危ないよ」

「あ、すみません……」

大学生風の男が携帯を片手に忙しない様子で通り越していく。

(やっぱり一度、家に帰ろうかな……)

不慣れな都会の街中で、急に心細さを覚えていたその時、背中をぽんと軽くたたかれた。

「山川くん」

「あっ、景井さん!」

振り返ると、雑踏の中、制服姿のまみが立っていた。

「こんなところで、どうしたの?」

まみが人懐こい笑みを浮かべて尋ねた。

「画材を買いにきたんだけど、店が見つからなくって。景井さんは……今帰り?」

知り合いに会った安堵に思わずため息が漏れてしまう。

「うん。クラス委員が集まる全校協議会があって。ねぇ、画材を探してるの?」

「そう。油絵用の絵の具が欲しいんだ」

「そっか。それじゃあ、文房具屋にはないよね。画材屋ってどこにあったかなぁ……あっ、向こうのビルの中にあったかも」

「本当!? 行き方、教えてくれる?」

「それでもいいけど、ちょっとわかりにくいところにあるから、案内してあげる」

「え、本当に? ありがとう」

「ううん、どういたしまして」

面倒見のいい同級生は、あどけなさを残した唇に可愛らしい微笑みを浮かべると、人ごみの中を歩き出した。遅れないように隣に並ぶと、まみの背丈は寿治よりも頭ひとつ分ほど小さく、少し見下ろす形になる。

(景井さんって、優しいんだな。それにすごく可愛い)

まみからは、清潔な石鹸の匂いがふわりと香ってくる。

セーラー襟のブラウスは目に眩しいほど白い。クラス委員を務める優等生らしいきちんとした制服の着こなしは、まみの清楚な魅力を一層に引き立てているが、ブラウスからうっすらと下に着たキャミソールが透けているのがなんとも悩ましい。

(色もすごく白い……)

白線が二本走った紺色の袖の折り返しから覗く二の腕は、夏休み明けだというのにまるで焼けておらず、かすかに静脈が透けているほどだ。

「ねぇ、山川くんは、いつこっちに引っ越してきたの?」

「夏休みに入ってすぐくらいだから、もうひと月になるかな。でも、まだ全然慣れないよ。どこもかしこも人が多くてさ」

商店街は、今日も買い物袋を手に提げた主婦やスーツ姿の男性、制服姿の学生たちや仲良さげにじゃれあって歩いているカップルなど、まるで平日の昼下がりとは思えない混雑っぷりだった。しかも驚いたことには、皆、誰もぶつかることなどなく、歩いていくのだから、感心してしまう。

まみもまた同じだった。ゆっくりとした足取りながら、人波の中をすいすいと泳ぐように進んでいく。なんとか後をつき、くねくねと曲がった裏路地に入り、五分ほど歩いた雑居ビルの前で、まみが足を止めた。

「ここのビルの中にあったはずなんだけど、ほら、あの看板ってそうだよね」

見上げると上のほうに『画材・コミック用品・模型材料 書画堂』と書かれた看板が出ていた。

「あ、そうだ、ここだ、ありがとう!」