彼女が制服を脱いだら 清楚な学級委員と快活巨乳同級生と女教師

(誰にでもどころか動物や植物にまでも優しいんだよな)

それでも、家で食事するように誘ってくれるだなんて、寿治のことを少なくとも嫌ってはいないということだ。

(今日はいい一日になりそうだ)

朝からなんだか嬉しい気持ちになっていると、背後から元気な声が響いた。

「あれあれぇ、なんでトシくんとまみちゃん、一緒に通学してるの?」

「あっ、亜季ちゃん……」

振り返ると、頭の天辺で高く結わいたポニーテールを揺らす亜季の姿があった。

「偶然、マンションの一階で山川くんと会ったの」

「偶然? なんで?」

「僕と景井さん、同じマンションなんだ」

「えっ!? そうなの? ずるーい。亜季もそのマンションに住むっ!」

亜季は寿治の隣へとてくてくと駆け寄ってくると、ぐっと身体を押し付けて、二の腕を絡ませた。

「いや、住むって言われても……」

「だってずるいよ。亜季だって、トシくんと一緒に登校したいもん!」

「ほら、じゃあ、亜季ちゃんも一緒に学校に行こう? ね、山川くん、いいよね」

「う、うん……」

「やったー! トシくんと登校デートだぁ」

まみが諌めると、亜季は納得したらしく、寿治にしがみついていた腕の力を弱めた。

(亜季ちゃんって……やっぱり俺のこと好きっぽいなぁ……)

クラスでも、休み時間にはやたらと話しかけてくるし、授業中に手紙が回ってくることもある。その上、放課後は毎日、美術室までなんだかんだとちょっかいをかけにやってくるのだ。いくら恋愛慣れしていない鈍い寿治でも、最近はひょっとして、好かれているのではないかと思っている。

(でも、こんな可愛いコが僕のこと好きとかって、信じられないんだけど……)

クラスの中でも、亜季はぱっと目立つタイプだ。

可愛らしい顔立ちで、男子たちの中でも人気が高いし、どことなく垢抜けているせいか、女のコたちにも憧れられているようなところがある。ひとことで言えばクラスのアイドルだ。

(いや……どう考えても、ただからかわれているだけだよなぁ……)

転入生という存在が物珍しくて、ただ騒いでいるだけといったところだろう。

それにしても、両脇を女のコに囲まれて登校するだなんて、半年前までは考えもしなかった。恥ずかしいような、面映ゆい思いで歩いていると、ようやく見慣れてきた学び舎が見えてきた。

授業を終えて自宅に戻り、朝時間がなくって洗濯できなかった衣類を乾燥機にかけていると、インターフォンが鳴った。

「誰だろう」

時計を見ると十八時前。父親はまだ会社にいるはずだ。

(宅配便かな?)

月に数回、母親からイクラの塩漬けや、ラム肉、味噌味の袋麺などの北海道の名産品がどっさりと箱で届く。時には靴下や東京でも買えるお菓子まで入っていることもあって、母親のおせっかいに呆れながらも切ない気持ちになることもよくあった。

(ラーメンだったら嬉しいな)

さっきウーロン茶を飲もうと冷蔵庫を空けた時に、今夜のメインを張れそうな食材が何ひとつ入っていなかったことは確認済みだ。かといって、スーパーに行くのも面倒くさいから、また夕食も、コンビニ弁当で済ませてしまおうかと思っていたところだった。

三食連続コンビニ弁当だと思うと、さすがに気がすすまないところもあるが、なんせ面倒なのだから仕方ない。そう思った矢先のインターフォンだから、思わず期待をしてしまう。

「はーい、いま、出まーす」

スリッパをパタパタといわせて廊下を早足で渡ると、念のために覗き穴を覗いた。

(あれ……景井さん?)

ドアスコープの向こうに立っていたのは、私服に着替えたまみだった。慌ててドアを開ける。

「ど、どうしたの? 景井さん」

「うん、あのね……朝のことなんだけど……」

初めて見る私服のまみはデニム地のシャツワンピースが似合っていて可愛かった。腰で紐を結んでマークするデザインで、トラッドな雰囲気が優等生のまみに似合っている。胸をドキンとさせて尋ねると、まみが言い出しにくそうに口を開いた。

「え? 朝?」

いったいなんの話だろうか。すぐには思い出せずにいると、まみはこほん、と小さく咳払いをした後、やや気まずそうに言った。

「うん。山川くんの話をね、勝手になんだけど……お母さんにしたら、それは絶対にうちに食べに来てもらいなさいって言われて。それで、一度、断られたのはわかってるんだけど、でも、もう一回、ダメ元で聞いてみようかなって……ねぇ、山川くん、今夜、晩御飯をうちで食べない?」

「えっ……本当に!?」

「うん、もちろん。お母さんってば、張りきっちゃって、もう作ってるみたいなの。だから、山川くんが来ないと逆に余っちゃうし」

「じゃあ、お邪魔しちゃおうかな。本当はすごく助かる! 晩飯、どうしようかって悩んでいたところだったんだ」

思いも寄らぬ誘いに浮き立って言うと、まみはほっとしたような笑顔になった。

「よかったぁ。じゃあ、えっと……何時ごろ来れる?」

「ぼくはいつでも平気だけど」

「じゃあ、七時くらいでどうかな。うちに来てピンポン鳴らしてくれればいいから。じゃあ、また後で!」

それだけ言うと、まみは軽やかな足取りで去って行った。

(景井さんの家で、ご飯かぁ)

コンビニ飯が手作りの食事に変わったことももちろん嬉しいが、まみと一緒に夜の時間を過ごせるというのがまた嬉しい。突如、降って湧いた幸せに鼻歌交じりで廊下を引き返した。