彼女が制服を脱いだら 清楚な学級委員と快活巨乳同級生と女教師

一瞬誰だかわからなかったのは、いつもよりもめかしこんでいたからだ。しかし、よく見れば、片親の寿治のことを心配してたびたび食事に誘ってくれるまみの母親だった。

となると、隣にいる男性はまみの父親だろうか。初めて会うが、すらりとした痩躯で細身の紺色のコートを着こなしている様は、『ザ・おじさん』といった風貌の寿治の父親とは大違いだ。

「あ、景井さんのお母さん……なんだかおめかししてるけど、どこかお食事にでも行くんですか?」

「ええ、そうなの。オペラのチケットを二枚貰っちゃって。でも、クリスマスイブじゃない? もったいないけど、諦めようとしていたら、まみったら、『行ってきていいよ』って言ってくれて。だから、久しぶりに旦那とふたりっきりでデートなのよ。ねぇ、貴方。このコが噂の山川くん」

まみの母親は幸せそうに微笑みながら、寿治を紹介した。

「あ……どうも、はじめまして。あの、ぼく、景井さんのクラスメイトの山川寿治です。あの……同じマンションのよしみで、たまに食事に招いていただいたりしていて、すごく、助かってます」

「どうも、こちらこそ、娘がお世話になってるね。山川くんの話はまみから聞いているよ。絵がとっても上手いんだとか」

「いや……その……上手いだなんて、美術部なんで……」

まみが父親に自分のことを話してくれていただなんて、なんだか恥ずかしくてこそばゆい。突然のことにどぎまぎしている寿治に、まみの両親はにこりと微笑むと、オペラの時間があるから、と去っていった。

(クリスマスイブにふたりでデートだなんて、仲がいいんだなぁ……)

一緒に暮らすことができないと決めて、別れてしまった両親のことを思うと、胸が切なくなった。なんだか今日はセンチメンタルだと思いながらも、自転車に鍵を差し込もうとしてふと気がついた。

(……ということは、ひょっとして景井さん、今夜はひとりで過ごすのかな)

だとしたら、まみだってきっと寂しい思いをしているはずだ。いや、女のコなんだから、もっと寂しいのではないだろうか。

イブに別の女のコを食事に誘うだなんて、亜季に悪いという気持ちがないこともないが、それでも──。いつもだったら、踏みとどまるであろうところを、一歩踏み出したのは、クリスマスイブという特別な日のせいかもしれない。

(もしかして、女のコの友達とパーティーするとか、そういう用事があるかもしれないけど……)

誘ってみるだけ誘ってみようと決心すると、マンションのエントランスへと踵を返した。

「誘ってくれてありがとう。ひとりで寂しいなって思ってたから、すごく嬉しい。ツリーも前から見たいなって思ってたんだけど、なかなか機会がなくって」

「うん、よかったよ、ぼくもひとりだったから嬉しい」

隣町にあるクリスマスツリーが観たい。勇気を出して家を訪ねると、ひとりでテレビを見ていたというまみはそう言って顔を輝かせた。

それならば、ツリーを見た後に食事でも取ろうということにして、ふたりでイブの街へと繰り出すことになった。

(まみちゃん、今日も可愛いな……)

白いタートルネックのセーターにチェックのプリーツスカート、ダッフルコート姿という清楚な格好のまみは、すれ違う女の子の誰よりも可愛らしく、並んで歩いているだけで胸が躍る。

「うわぁ、すごい人だぁ。ほら、すごいね、あっち、テレビの収録まで来てるみたい」

大きなツリーが飾られているという、デパートや小売店や映画館などが一緒になったショッピングモールに近づくにつれ、人ごみはいっそう激しくなった。

けれどもラッシュの電車とは違い、みな、クリスマスプレゼントの包みを片手に、もう片方の手では恋人の手をしっかりと握り締めて幸せそうな顔をしている。

「カップルばっかりだね……ねぇ、山川くんはよかったの?」

まみが周りを見回して言った。

「え……何が?」

「ん、だって、今日はほら……亜季ちゃんとデートとか」

「あぁ……亜季ちゃんの家は、イブは家族で過ごすのが決まりなんだって。それに……ぼく、景井さんと……こうして一緒に過ごせてすごく嬉しいんだ」

「ありがとう。わたしも……山川くんと過ごせて嬉しいよ。おかげで特別な記念日になった」

「えっ!?」

聞き間違いかと思って、左隣を歩いているまみを見ると、頬をわずかに赤らめたまみと目が合った。

(それって……もしかして、景井さんって、ぼくのこと……)

その時、ちょうど、手の甲が少女の手に擦れた。少女の手がびくん、と震える。

「あの……冷たくない? こうしたほうが温かい……から」

「ん……」

言葉にするよりも何よりも、少女の手を握り締めるほうが、なんとなくこの場の雰囲気に相応しい気がした。

少女の手をそっと取ると、自分のアーミーコートのポケットの中へと突っ込んだ。ふたりの温もりが重なりあい、じんわりと温まっていく。

何を話していいかわからなくて互いに無言のまま、それでもどこか通じあっているような温かな気持ちに包まれながら、ツリーの飾られた広場へと足を踏み入れたその時、よくよく見知った女性の姿が目に入った。

「……あっ、先生だ」

しかし、絵里子はひとりではいなかった。

その隣には以前、画材屋で見かけた男性の姿があった。以前は肩くらいまであった髪が少し短めに切られているが、すらりとした体格からして間違いない。けれども──。