彼女が制服を脱いだら 清楚な学級委員と快活巨乳同級生と女教師

「よかった。エスカレーターであがろうか」

ここで別れるのかと思っていたが、まみはビルの中へ入るとエスカレーターへとまっすぐに向かっていった。後に続くと、段差のせいでまみの顔がちょうど寿治の目前に来た。炎天下の中を歩いたせいで汗ばんだ首筋を、ハンカチで拭うと、物珍しげな顔で上階を見上げる。

「画材屋さんなんて来るの、すっごく久しぶりだな。小さい時に何回かは来たことがあるけど……ねぇ、山川くんって、絵を描くんだね」

「うん、前の学校で美術部だったから」

「へぇ、すごいね。わたし、美術がすごく苦手で。だから絵が描ける人って尊敬しちゃう」

「そ、そうかな……」

「ねぇ、絵ってどうしたら上手くなるのかな」

「うーん、とにかく描く事って前の学校の先生は言ってたけど……」

まるでデートみたいだ。

(景井さんみたいな彼女がいたら楽しいだろうな……)

あどけなさを残した唇にきらきらと輝く瞳、つるつるの頬。目の前の同級生に見惚れていると、そんな思い付きが、ふと頭をよぎる。

学校の昼休みには弁当を一緒に食べたり、放課後、待ち合わせして一緒に帰ったりと、ものすごく楽しい毎日が送れるに違いない。試験前には、図書館で一緒に勉強をしたり、休みの日には遊園地に行ったり──。

(……景井さんって、好きな人とかいるのかな)

そう考えた瞬間、なぜだか胸がズキンと痛んだ。嫉妬心がメラメラと湧き上がってきて心臓が掻き毟られるように騒ぐ。

(それどころか、もしかして彼氏とかがいたりして……)

さっき、人ごみを苦にする様子もなくすいすいと泳ぐように進んでいったまみの姿が脳裏に蘇る。あんなふうに人ごみを颯爽と歩けるコは山梨にはいなかった。

(そうだ、ここは東京なんだから、きっと恋愛だって、山梨よりもうんと進んでいるに違いないし、こんなに可愛いんだから、彼氏がいないほうがおかしいよな……でも……真面目そうだし……東京のコだからって、誰もが進んでるわけじゃないじゃないと思うんだけど……でも……)

考えれば考えるほど混乱してしまう。

(思いきって……聞いてみようかな)

こうして悶々としているよりもそっちのほうがいっそすっきりする。けれど、それはそれで、まるでまみのことが好きだと告白しているようなものだ。

(……好き!? 景井さんのこと、好きになっちゃったのかな)

正直に言って可愛いな、と思う。けれど、まだ今日出会ったばかりだというのに、好きだとか、そういうのは早すぎる気もする。

でも、今、胸がドキドキしているのは紛れもない事実だ。

「とにかく描くって言われてもなぁ……何を描いたらいいかわからないんだよね」

「なんでもいいんだよ、好きなものを描けば」

「好きなものかぁ……」

説明がつかない思いを抱きながら、まみとの会話に花を咲かせていると、やがてエスカレーターは目的階へと到着した。

「油絵の具だよね、どこかな……あっ、あれ、吉永先生がいる」

「あっ、本当だ」

フロアに着くと、きょろきょろと辺りを見回していたまみが視線を留める。その先を見ると担任教師の姿があった。

「そっか、吉永先生の専任って美術だもんね。画材屋さんにいても、不思議はないよね。そうそう、美術部の顧問も吉永先生だよ。山川くん、うちの学校でも美術部に入るんでしょ?」

「うん、そのつもり。そっか、顧問は吉永先生なんだ」

F学園でももちろんのこと、美術部に入部するつもりだ。美人の担任教師が顧問と聞いて少し嬉しく思う。

「先生ーっ」

「あら、景井さんに山川くんじゃない」

まみとともに吉永に向かって手を振ると、生徒たちの姿に気がついた吉永がふっと目を細めた。

「なぁに、ふたりでデート中?」

吉永はゆっくりとした足取りで寿治たちの側へと寄ると、寿治とまみとを交互に見遣って言った。

「やだぁ、先生、デートだなんて。偶然、駅前で会ったんです。それで、画材屋を探してるっていうから、案内してあげたところ。ね、山川くん」

「はい、あの……吉永先生って、美術部の顧問なんですよね」

ちょうど水彩絵の具を選んでいる最中だったらしく、絵里子の手には絵の具のチューブが数本握られていた。

いったいどういう絵を描くのだろうか。桃色や黄色、水色といったパステルカラーばかりなのが、若々しい雰囲気の吉永にぴったりだ。

「そうよ。山川くんも絵を描くの?」

「はい、下手糞ですけど一応、前の学校でも美術部で……それで、あの、こっちの学校でも美術部に入部しようと思ってます。中途半端な時期からになりますけど、大丈夫でしょうか」

「ええ、もちろん、大歓迎よ! じゃあ、明日にでも入部届を取りに……」

「おーい、絵里子、何してんの。そろそろ行こうぜ。腹減ったよ」

絵里子の声を、向こうの棚から顔を出した見知らぬ男が遮った。

絵里子と同じ年か少し下くらいで、毛先が肩にかかるかかからないかくらいの長髪のすらりと背の高い男性だ。ベージュのチノパンツに臙脂色のポロシャツを着ているが、どことなくおしゃれな雰囲気が漂っている。

吉永に連れ──しかも男性──がいたとは予想もせずに思わずまみと顔を見合わせてしまう。

「ちょっと待ってよ、浩一ってば」

「待てないよ。もう腹がぺこぺこで、俺、死んじゃうって」