美帆は意を決したように涙声で訊ねる。しかし、その澄んだ瞳はまっすぐに中年男の目を見つめていた。
「もちろんお約束します。男に二言はありません。そもそも、私は奥さんを脅してるわけじゃないですから。これは示談なんですよ」
酒井はファスナーをおろして硬直したペニスを剥きだしにすると、再び人妻の手を取り、ミミズのような血管がのたくる太幹を強引に握りこませた。
(やだ、気持ち悪い……それに、すごく熱くなってる)
美帆は思わず肩を竦めて、怯えきった瞳で手もとを見やった。指がまわりきらないほどの極太は、視覚的にも強烈な圧迫感をもたらしていた。
夫のモノにすら触れたことはないのに、陵辱者の肉塊に白魚のような指を巻きつけている。手のなかで不気味に脈打つペニスはあまりにも逞しすぎて、瞬く間に抵抗する気力が失せていく。
「どうです。私のチンポはすごいでしょう?」
「ああ……い、いやです……」
「ご主人のことを思うなら、ゆっくりと手を動かしてください」
頬を引きつらせながら顔を背けるけれど、手を離すことはできなかった。言われたとおりにしなかったら、夫の努力が無駄になってしまう。
「射精したら終わりですから、しっかり扱くんですよ」
酒井が顔を覗きこみながら命じてくる。美帆は逡巡しつつも、肉竿を握り締めた指にそっと力をこめていく。
(晃司さん……こうするしかないんです……)
恐るおそる指をスライドさせると、中年男は満足そうな含み笑いをもらしてペニスをさらに硬化させた。
「いい感じです。心をこめてシコシコすれば、すぐに出してあげますからね。だから、旦那さんのモノだと思って丁寧に扱いてくださいよ」
「や……夫のことは言わないでください……」
思わず双眸を潤ませながらも、青筋を立てた剛根を擦りあげる。懸命に手首を返して、震える指をゆっくりとピストンさせていく。
「なかなか筋がいいですね。旦那さんにもやってあげてるんですか?」
「そ、そんなはず……」
思わず眉根を寄せると、酒井は嬉しそうに目を輝かせた。
「もしかして手コキをするのも初めてですか? これはなんという幸運。フェラだけでなく手コキの初めてまでも……。なんだか旦那さんに悪いですなぁ」
「うっぅぅっ……どうして、こんなこと……」
ついに嗚咽が溢れだすが、それでも逞しすぎるペニスを扱き続ける。
肉塊はさらに熱を帯びて、先端から透明な汁を滲ませはじめた。亀頭全体が妖しく濡れ光り、粘り気のある汁が指にねっとりと絡みついてくる。ヌチャヌチャした感触がおぞましく、思わず手を離しそうになってしまう。
(いやよ、こんなこと……ああ、もう終わってください)
中年男が興奮しているのは明らかで、そのことがさらに美帆の心を苦しめる。
太幹のゴツゴツした感触が気持ち悪いが、射精させなければ終わらない。一刻も早く解放されたい一心で、涙を流しながら懸命に手筒をスライドさせた。
しかし、酒井は不気味な唸り声をあげて剛根をビクつかせるものの、いっこうに達する気配を見せない。スピードアップした手コキで感じているのは間違いないが、そう簡単に果てる気配はなかった。
「おおうっ……奥さん、すごく気持ちいいですよ。ぜひ旦那さんにもやってあげてください。きっと泣いて悦びますよ」
「やめてください……主人は……違いますから……」
「フハハハッ、これは愉快だ」
消え入りそうな声で抗議すると、酒井はさも楽しそうな笑い声を響かせた。
肉棒を握り締めたまま、思わず怪訝そうな目で男を見あげる。夫を馬鹿にされたような気がして、なんともいえない屈辱感が胸のうちにひろがっていく。
「おっと、これは失敬……でも、奥さん。男なんていうのは、みんな似たり寄ったりですよ。いい女を見たら犯りたくなる。それが男ってもんです」
酒井は勃起したペニスをヒクつかせながら言うと、目の奥をギラりと光らせた。
「男だけじゃないですよ。逞しいチンポを目の前にしたら、どうしてもしゃぶりたくなる。それが女の哀しい性ってもんですよ」
「な……なにを……仰っているのか……」
嫌な予感がして頬を引きつらせる。精液のおぞましい苦味が口内によみがえり、拒絶するように唇をギュッと閉じていた。
「手コキじゃ射精できそうにないですな。おしゃぶりしてもらいましょうか」
さらなる要求を突きつけられて、絶望感に目の前が真っ暗になる。また卑猥な行為を強要されるのかと思うと、それだけで涙がじんわりと滲んでしまう。
「いや、無理です……それだけは、もう……」
「ご主人の会社に電話をかけてもいいんですよ。示談のお話をするついでに、奥さんがシックスナインでイッたことも教えてあげましょうか?」
「そ、そんな、やめてください……」
酒井は決して声を荒げない代わりに、粘着質な口調でねちねちと脅してくる。美帆はどうしていいのかわからず、視線をそらして黙りこんだ。
(もし、晃司さんに知られてしまったら……)
初めて体験したエクスタシーを思いだし、耳まで真っ赤に染めあげる。
あの気が狂いそうな快美感は、屈辱の記憶とともに下腹部の奥にしっかりと刻みこまれていた。おそらく死ぬまで一生忘れることはないだろう。
しかし、身体が宙に浮くような絶頂感が愛する夫に与えられたものだったら、まったく別の感想を抱いていたかもしれない。肉という肉が蕩けていく愉悦は、初心な新妻を恍惚とさせるには充分すぎる感覚だった。