新妻【贖罪】 私は牝になる

「意外と慌てん坊さんなのね」

そう言ってやさしく微笑んだ綾乃が、唐突に「あっ」と小さな声をあげた。そして、いかにも上品そうな指先で、口もとをそっと覆い隠す。

「美帆さんのこと笑ってられないわ。病室にお財布を忘れてきてしまったみたい」

「まったく、なにをやってるんだ。ビールを飲んだから運転できないぞ」

すかさず酒井がむっとした様子でなじると、夫人は見るみる肩を竦めて小さくなった。すると見かねたように、晃司が遠慮がちに口を開いて提案する。

「あの、車なら僕が出しましょうか? まだビールも飲んでませんから」

綾乃夫人との会話に夢中だったので、夫のグラスはまったくの手つかずだった。

「申し訳ないが、そうしてもらえると助かります。家内を市民病院まで連れていってもらえますか。私は酔ってしまったので留守番していますよ」

酒井は図々しいことを平然と言ってのけると、エビフライを口に放りこんでビールをグビグビと煽る。さすがに人のいい晃司も眉を顰めたが、困り顔の綾乃に「お願いできますか?」と訊ねられたら承諾するしかなかった。

「じゃ、行ってくるよ」

夫と綾乃夫人が出かけていくのを玄関先で見送ると、美帆はがっくりと肩を落としてリビングへと戻った。

「ひっ……」

ドアを開けた途端、思わず悲鳴をあげそうになる。双眸を大きく見開き、両手で口もとを覆って立ちつくした。

(こ……この人……どういうつもりなの?)

なんと、つい先ほどまで夫が座っていた食卓の椅子に、全裸になった酒井が腰かけている。しかも見るに堪えない太鼓腹の下では、太い血管をのたくらせた肉棒が天を衝く勢いでそそり勃っているのだ。

酒井は夫の食べかけであるエビフライに滴るほどのタルタルソースを着けると、むしゃむしゃと頬張りながらビールをがぶ飲みした。

「ふぅっ……。やっと二人きりになれましたね、奥さん」

腹を満たした中年男が、下卑た笑みを浮かべながら手招きする。呆然と眺めていた美帆は、逃げることなくフラフラと歩を進めた。恥ずかしい秘密をたくさん握られて、もう逆らえなくなってしまったから……。

「服を脱いでください。せっかく旦那さんを追い出してあげたんだから、遠慮しなくてもいいんですよ。奥さんも犯りたかったんでしょう?」

「そ……そんなはず……」

「今さら格好つけるのはやめましょうよ。私の指で二回もイッたじゃないですか。しかも旦那さんの前でね。クククッ」

不気味な含み笑いが、打ちひしがれた新妻の神経を逆撫でする。今の美帆に抗う術はなにもない。夫の目の前でも嬲られて、身も心も疲弊しきっていた。

「綺麗な服を破られたくなかったら、自分で脱いだほうがいいと思いますよ」

酒井は椅子の向きを変えて、真正面から凝視してくる。股間に極太のペニスを屹立させた姿は、強烈な威圧感に満ちあふれていた。

(脱ぐしか……ないのね……)

夫からプレゼントされたブラウスを穢されるわけにはいかない。

男の股間から視線をそらし、ボタンを上から順にはずしていく。すぐに前がはだけて、淡いブルーのハーフカップブラが露出した。

ブラウスを近くの椅子にかけて羞恥の溜め息を吐き、ためらいながらもフレアスカートを足もとから抜き去った。ストッキングを丸めるようにしながらおろすと、ブラとお揃いのパンティが中年男の卑猥な視線に晒されてしまう。

「恥ずかしいです、見ないでください……」

思わず胸と股間を覆い隠す。レースの施された愛らしい下着は、夫のために身に着けていたのに……。

今夜は抱いてもらえるかもしれないと密かに期待していた。それなのに、目の前で笑っているのは愛する夫ではない。

「全部脱いでください。ブラジャーもパンティも全部脱ぐんですよ」

脂ぎった中年男は人妻のストリップに興奮した様子で、屹立の先端をしっとりと濡らしていた。

(きっと、また……ああ、どうしたらいいの?)

もし脱いだりしたら、なにをされるのか目に見えている。それでも、弱みを握られている美帆は抗うことができなかった。

ブラジャーのホックをはずすと、張りのあるバストがタプンッと飛びだした。そのままパンティをおろして、ついに一糸纏わぬ姿になってしまう。

「や……いやです……」

激しい羞恥に襲われて、今にも膝が折れそうになる。でも勝手なことをすれば、どんな難癖をつけられるかわからない。悲哀を滲ませながらも自分の裸体を抱き締めて、震える脚で懸命に立ち続けた。

「ずいぶん素直になってきましたね。さあ、今度は私にまたがってください。対面座位というやつです。奥さんのことだから初めてでしょう?」

酒井が椅子に座ったまま腰を揺すった。逞しすぎる剛根が頭を振る様は、まるで鎌首をもたげたコブラのよう。美帆は狙いをつけられた小動物のように、全身を小刻みに震わせていた。

「こっちに来てください。自分からまたがって、チンポを咥えこむんですよ」

「自分からなんて……そんな、はしたないこと……」

弱々しい声でつぶやくが、鋭い眼光で強要されたら逃げることはできなかった。男の目の前に立ち、恐るおそる膝をまたいでいく。

「や……お願いです……目を閉じてください」

がに股のような格好になり、薄い陰毛を隅から隅まで晒すのが恥ずかしい。それでも耳朶まで真っ赤に染めながら、屹立の真上に腰を進めた。