「あッ……あッ……だ、駄目っ……あああッ、もう……」
「おっと、これ以上続けたらイッてしまいますね」
一気に絶頂に達してしまうと思ったそのとき、膣口からローターが離れてアナルパールのスイッチがオフになった。
「あふぅっ……ハァ……ハァ……ハァ……」
昇りつめる寸前まで責めたてられて、美帆は双眸を潤ませながら荒い息をまき散らす。ぎりぎりのところで恥を掻かずに済んでホッとしている反面、下腹部の奥にはなんともいえない疼きが生じていた。
「フフッ。ずいぶん残念そうな顔をしてますねぇ」
からかうように言われても、息が乱れて反論できない。無言のまま視線をそらすと、酒井の顔にいやらしい笑みがひろがった。
「奥さんの気持ちはわかってます。ちゃんとイカせてあげますよ」
なにかを思いついたのか、それとも最初から計画していたのか。男はのっそり立ちあがると、パソコンデスクの上に置いてある電話の子機を手に取った。
「でも、ただアナルパールとローターで責めるだけだと面白くないので、奥さんにはある方と電話で話してもらいます」
子機のボタンをプッシュする酒井を見て、美帆はすっかり怯えきっていた。
この中年男の考えていることが、まったく理解できない。女をいたぶることで悦びを覚えるなんて、とても普通とは思えなかった。
「や、やめてください……電話なんて……どうしてそんなこと……」
「相手にバレないようにイクんです。面白いでしょう? さあ、繋がりますよ」
受話器を耳に押し当てられた瞬間、聞き覚えのある声が耳孔に流れこんできた。
『はい、藍沢です』
途端に美帆は顔面蒼白になり、驚きの瞳を目の前に立つ陵辱者に向けていく。
その柔らかな声音は晃司のものに間違いない。信じられないことに酒井は夫の携帯に電話をかけたのだ。考えてみれば二人は交通事故の当事者同士なのだから、お互いに携帯番号を交換していたとしてもおかしくはない。
『もしもし、僕だよ』
受話器からは夫の声が聞こえている。早く応答しなければ怪しまれてしまう。
しかし、こんな淫ら極まりない格好で話せるはずがなかった。なにしろ全裸で椅子に縛りつけられ、肛門にはアナルパールを挿入されているのだから。
(そんな……いくらなんでも、無理です……)
涙に濡れた瞳で訴えるが、酒井はサディスティックな薄ら笑いを浮かべながら、反対側の耳に小声で囁きかけてくる。
「ご主人と話すんです。なんだったら、私が電話に出てもいいんですよ」
もちろん親切心から言っているわけではない。美帆が命令に従わなければ、すべてを晃司に打ち明けるつもりなのだろう。
フェラチオ、シックスナイン、クンニリングスやレイプでの絶頂体験。そして肛門を悪戯されて濡らしていることも、面白おかしく脚色して話すに違いない。
『もしもし、美帆だよね。聞こえてる?』
なんの疑いも抱いていない穏やかな声が、胸の内側に染み渡っていく。
夫のやさしい顔が脳裏に浮かび、思わず涙が溢れそうになる。少年のように純粋な彼に、おぞましい現実を知られたくなかった。
「あ、あなた……」
懸命に平静を装いながら、愛する人に呼びかけた。
酒井が片頬を歪めて満足そうに頷くのが悔しいけれど、穢されたことを夫に知られたくないという気持ちが湧きあがる。どんな酷い目に遭わされたとしても、永遠の愛を誓った人の前でだけは貞淑な女でいたかった。
『あ、繋がった。昼間に電話してくるなんて珍しいね』
「ご……ごめんなさい……迷惑だったら、すぐに切りますから……」
声が震えそうになるのをこらえて返答する。晃司は急用だと思っているらしく、少し心配するような口ぶりだ。
『ちょうど休憩中だから大丈夫だよ。どうかしたの?』
「いえ……とくには、なにも……」
絶対に悟られてはならないけれど、とっさに言葉が出てこない。あやふやな受け答えになってしまい、結果として余計に夫を不安がらせてしまう。
『美帆、なんか元気ないね?』
「そんなことは……急に晃司さんの声が聞きたくなって……」
なんとか会話を交わしていると、酒井が片手で子機を支えたまま目の前にしゃがみこんだ。大股開きで拘束されているので、濡れそぼった膣口もアナルパールが刺さった肛門も丸見えになっている。しかも、すべては録画されているのだ。
(や……いやです……見ないでください……)
夫の存在を強く感じている今は、羞恥心が何倍にも膨れあがってしまう。
小さく首を左右に振るけれど、中年男はローターを見せつけてニヤリと笑う。嫌な予感がした直後、ピンク色のオモチャが膣口にあてがわれた。
「ンっ……」
スイッチはオフなのに腰が震えるような愉悦がひろがり、慌てて下唇をキュッと噛み締める。潤んだ瞳を向けて懇願するが、まったく相手にしてもらえない。
『しおらしいことを言うね。なんだか照れるな』
受話器からは夫の声が聞こえてくるのに、媚肉の狭間にゆっくりとローターを押しこまれてしまう。
「ひっ……ンぅっ……ンンっ」
思わず小さな声がもれるけれど、なんとか咳払いで誤魔化した。
(そんな、やめてください……夫と話してるんです……)
助けを求めるようにパソコンデスクの上を見やると、写真のなかの晃司と目が合った。幸せだった日々が脳裏をよぎり、ますます弱気になってくる。絶対に知られたくないという気持ちが大きくなり、自ら深みに嵌まりこんでいく。