「そ、そんなはず──あひいッ!」
男の言葉を否定しようとした瞬間、膨らみかけた乳頭を甘噛みされて裏返った悲鳴が溢れだす。まるで電流を流されたような刺激が、柔肉の先端から全身へと波紋のようにひろがっていく。
(あンっ、や、なに? こんなの……気持ち悪いだけなのに……)
美帆は生まれて初めて味わう感覚に戸惑っていた。
夫の晃司が乳房を愛撫するときは、いつも壊れ物を扱うようにやさしく丁寧に触れてくれる。すごく恥ずかしくて目を閉じてしまうけれど、心がほんのりと温かくなるような幸せを感じることができた。
しかし、酒井は強引なまでに乳肉を揉みしだき、敏感な突起に前歯を食いこませてくる。その痛痒いような刺激が、なぜか腰の奥をムズムズと刺激していた。乳房全体に張りを覚えて、乳首が硬く充血していくのが見ないでもわかる。
「も、もう駄目です、ああっ、いやです、離れてください!」
慌てて身体を揺すり、これまでにない大きな声で拒絶の意思を示した。自分の肉体に得体の知れない変化が起こっているようで恐ろしかった。
「そんなに抵抗されたら、私が襲ってるみたいじゃないですか。奥さん、なにか勘違いしてませんか? あなたの旦那さんは事故の加害者なんですからね」
自分の行為を正当化するつもりなのか、酒井は涼しい顔で冷たく言い放つ。さらには、抗う美帆を非難するような目で見おろしてくるのだ。
「お願いですから……もう、乱暴はしないでください……」
消え入りそうな声で許しを乞うが、男の目の奥に宿った情欲の炎が鎮火することはない。それどころか、ますます勢いを増して燃え盛っていく。
「乱暴する気なんてありませんよ。ただ、家内は入院していて、私の右手はこのとおりです。でも、怪我以外は健康な男ですから、いろいろと溜まるわけですよ」
酒井は包帯が巻いてある右腕を思いだしたように擦りながら、片頬にいやらしい笑みを浮かべた。
途端に抵抗する気持ちが萎えて、無意識のうちに視線をそらしてしまう。怪我の度合いはわからないが、夫が追突事故を起こしたのは認めざるをえない。とにかく、こちらに非があるのは間違いなかった。
「そこで示談の内容なんですがね。奥さんに性欲の処理を手伝ってもらおうと思いまして。気持ちよく射精させてくれれば、本番なんかしなくていいですよ」
そんなことを言われても 安心できるはずがない。なにしろ両手の自由を奪われた状態で、どんな目に遭わされるかわからないのだから……。
「旦那さんのためなら、できますよね?」
美帆が黙りこんでいると、酒井はいったんソファーからおりて、当たり前のようにスラックスとトランクスを脱ぎ捨てていく。
「ひっ、や……な、なにを?」
慌てて視線をそらすが、隆々とそそり勃つ棍棒のような男根は、恐怖とともに脳裏にしっかりと刻みこまれてしまった。
(やだわ……晃司さんのと全然違う……)
美帆は頬を引きつらせて、唇をわなわなと震わせた。
それは夫婦の閨房で目にした夫のペニスとは、まったく異なるものだった。人間の身体の一部とは思えないほど巨大で色は黒く、太さは美帆の手首くらいはあるだろうか。長さも夫とは桁違いで、倍以上は優にありそうだった。
「さっそくですがフェラチオをしてもらいましょうか」
「ふぇ……ら……?」
初めて耳にする単語に小首をかしげる。すると酒井はニヤリと笑って、あお向けになっている美帆の鼻先に、硬化した逸物を近づけてきた。
「きゃっ……な、なにをするのですか?」
目の前に突きつけられたペニスは凄まじいまでの迫力で、まるで尿道口がこちらをにらみつけているような錯覚に陥ってしまう。じっとりと湿った先端から獣じみた匂いが漂ってきて、思わず眉根を寄せていた。
「どうやら本当に知らないと見える。旦那さんの性欲は相当弱いらしいですなぁ」
酒井の嬉しそうな声が、どこか遠くから聞こえてくる。美帆はすっかり萎縮してしまい、肉の凶器から目をそらすことすらできなくなっていた。
「それなら私がフェラチオを教えてさしあげましょう。いいですか。奥さんの口を使って、チンポを気持ちよくするんですよ」
「え? できません……そんなこと……」
震える唇から、恐怖に掠れた声を絞りだす。しかし、欲情を滾らせてペニスを硬直させた男は、一歩も引きさがろうとしない。
「家内が退院するまでの、ほんのわずかな期間だけお相手してくだされば結構ですから。さあ、おしゃぶりしてください」
いくらなんでも、そんな卑猥なことをできるはずがない。それは生涯をともにすると誓った伴侶を裏切る行為だ。
「いやです、絶対に──うむううっ」
いきなりペニスの先端を唇に押しつけられた。反射的に顔を背けようとするが、頭をがっしり掴まれたら非力な新妻に抗う術はない。
「示談にしてくれと言ってきたのはご主人です。これは事故の慰謝料みたいなものじゃないですか。ほら、いつまでも意地を張ってないでペロペロするんですよ」
「ううっ、いや……ンむむっ」
唇を真一文字に強く結び、おぞましいモノを視界から追い出すように双眸をギュッと閉じる。しかし、先端から溢れる透明なカウパー汁が、魅惑的な朱唇をしっとりと濡らしていく。